コンコンコン。
誰かが部屋のドアをノックしている。
「……チッ。誰だ?」
今、主への報告書を書いていたところだ。
アストルティアは魔界と違って季節毎の行事が毎日のようにある。人間は魔族より寿命が短いくせにどうしてそんなにやる事を詰め込もうとするのか。しかも何の意味があるのか全くオレには理解出来ないような、下らない行事ばかりだ。
だが、主はむしろ下らなければ下らない程喜ぶ傾向があるから、仕方なくこうやって調査している。
この前も、どうでも良さそうだけど一応書いておいた「スイカ割り」が主は大層お気に召してしまったらしく、アストルティアの海へ初めてやって来たにも関わらずスイカ割りをするのだとごねて大変だったという話を聞いた。
その時一緒に他の魔王もいたらしいから、主にはもう少し魔王としての威厳を持って振る舞って欲しいものだ……とリソルは溜め息をついた。
コンコンコン。
再度ドアがノックされた。
「入れば」
来訪者は多分アイツだ。いつもすぐ入ってくるくせに今日はオレの返事を待っていたようだ。
「「トリック・オア・トリート!!」」
元気良くドアを開けて入ってきたのは主人公とタヌキ先輩と……誰だ?
それにふたりともいつもと違う格好をしている。主人公はドクロマークが刺繍された黒い大きな平べったい三角の帽子に山賊みたいな服。
タヌキ先輩は黒い皮の眼帯に同じく山賊のような服。
「ふふ。リソルくんだもん、お菓子なんか用意してないよね。主人公ちゃん、メロチカさん、いたずら開始〜!!」
「「ラジャー」」
「は!?え、おい、ちょ、何す
※ ※ ※
コンコンコン。
「はいどうぞ入って下さい」
この足音は主人公とクラウン先輩と……おや、誰だろう?
勢い良く部屋のドアが開けられてそれまでの静寂が破られる。
「「トリック・オア・トリート!!」」
「やあ。主人公とクラウン先輩と……。ええと、キミは確か……裁縫部のメロチカさんだよね?今丁度お茶していたところだから良かったら一緒にどうだい?焼き菓子も用意してあるよ」
「流石ミランくんね……。どうする?主人公ちゃん」
主人公は首を横に振った。
「個包装されたお菓子じゃないので駄目です!!いたずら開始!!!」
「「ラジャー」」
無理矢理な理由を述べてミランに襲いかかる3人。
「え?一体何を……わ!待ってくれ!キミ達女の子だろう!?じ、自分で着替えるから……ッ!」
※ ※ ※
コンコンコン。
「おっ誰だー?入っていいぜー!」
気のせいかもしんねえけどさっきリソルとミランの悲鳴が聞こえた気がすんだよな。
だから次は俺んとこに来んじゃねえかと思ってたんだ。
ガチャーンと大きな音をたてて開かれたドアの前に立っていたのは主人公とクラウンと……んー、アイツは確か裁縫部の……?
「「トリック・オア・トリート!!」」
「おう!そうだな、今日はハロウィンだな!あー、でもわりぃな、お菓子は生徒会の奴等に全部あげちまったんだよ」
「それではいたずら開始!」
「「ラジャー」」
「ははっ、いたずらって。……ん?うお!?ちょっと待てって!!」
※ ※ ※
「……ねえ、これ、なんなの?」
主人公とクラウンとメロチカの3人の手によって突然着替えさせられたフウキのメンバーが対策室に集合させられていた。
大きな黒い鳥の羽根の付いた、金で縁取られた平べったい黒い三角の帽子と黒っぽいロングコートとハイウエストで腰にバンダナが巻いてあるズボンとブーツに着替えさせられ、ピストルの模型を手に持たせられているリソル。
「さあ……僕にも分からないな」
黒い皮の眼帯と白いウェスタンブラウスと腰にポーチの付いたゆったりとした形の着古した感のあるズボンと茶色くてゴツいブーツを着用し細長い刀身の模造刀を持っているミラン。
「ハロウィンなんじゃねえか?」
黒いバンダナに上半身はベストのみ。下は土木関係者が履いているような超幅広のズボンにショートブーツ。両手にサーベルを持ったアイゼル。
「はろうぃん!いつもと違う服!」
「皆さん素敵なお洋服ですね!なんだかこう、動きやすくて闘志がみなぎる格好ですよね。私がいつも着ている服より斧が振り回しやすい気がします!」
ラピスとフランジュもいた。
ラピスは茶色い皮の平べったい三角帽とベストとハイウエストなワンピースとロングブーツを身に付けておもちゃのピストルを持っている。
フランジュは赤茶のバンダナとつぎはぎが目立つ赤いオールインワンとブーツにいつもの愛用の斧。
このふたりの悲鳴は聞こえなかったから男子3人と違って穏便なやり取りだったのかもしれない。
「わしもおるぞ!片目だと飛びづらいのう」
メルジオルはドクロマークの付いた黒い三角帽と黒の皮の眼帯をつけている。
コホン、と咳払いをしてクラウンが皆に説明を始めた。
「今回のハロウィンは特に仮装に力を入れたい、という主人公ちゃんの要望にお応えする為、裁縫部のメロチカさんにご協力を頂きました。ご多忙にも関わらず7人分の素敵な衣装を作製して頂きましてまことにありがとうございました!皆、メロチカさんに拍手〜」
メロチカがぺこりとお辞儀をした。
「仮装のテーマは、バージョン6で実装される海賊でーす!皆超似合ってる!カッコいいよ!せっかくだからこの格好で町へ繰り出してトリック・オア・トリートしに行ってみよ〜!」
「僕は構いませんよ。普段の服とそれほど変わらないし」
「これで行くのか!?俺これじゃちょっと寒……」
「トリック・オア・トリート!お菓子貰う!」
「お菓子をくれないからといってメラガイアーしてはいかんぞ!」
「私こういうの初めてなので緊張します!でも皆さんと一緒なら楽しそうです!」
「アホくさ。付き合ってらんないよ。ま、主への報告書の為に付き合ってあげるけど」
という訳で学園の駅から最寄りのグランゼドーラの城下町へトリック・オア・トリートしに行ったフウキの面々は、その仮装のあまりのリアルさに本物の海賊と間違われて通報され、勇者姫のアンルシアが退治しに向かったとか向かわなかったとか。
※ ※ ※
「よくメロチカって裁縫部員がこんな下らない事に協力してくれたね?あの人って確か、学園中の女子にエッチなしたぎを作って配るとか言って超忙しそうだったじゃん」
ああ、それはね……とメロチカの元へクラウンとふたりでお願いしに行った時の話をリソルに説明する主人公。
※ ※ ※
エッチなしたぎ作りで忙しいので無理だと断ろうとするメロチカにクラウンがとある交換条件を提示する。
「今なんと?」
「ええと、その、だからね、その時に私達4人が海賊の衣装の下に着るってのはどう?」
「プロ並みの料理の腕前を持っていると噂の3年のクラウン先輩と学園のマドンナの2年のフランジュさんと学園一の魔力のピンクシュガーデビルの1年のラピスさんと伝説の転校生の主人公さんが私の作ったエッチなしたぎを着てくれると言うのか!?」
「う、うん」
「是非やらせてくれ!!」
※ ※ ※
「そんな条件でねえ……。じゃあ今アンタ、その下に着てるって事?」
しまった、という顔をする主人公。
「へえ。それならさあ、
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