夏。
何もしてないのに汗が
やたら出てくる夏。
暑い、としか言いようがない。
暑いってだけで不快なのに
存在があつ苦しいおバカ会長が
なーんか面倒臭い事を言ってるよ……。
「リソルも行くよな?」
大きな溜め息をついて
「そんな友情ごっこに付き合う訳ないだろ」
って断ろうとしたのに聞いちゃいない。
なんかいつの間にかオレも行く事になってる。
「よし!今度の日曜夜7時に
アズランの駅前に集合な!」
「あ、フランちゃんとラピスちゃんは
私が浴衣着付けてあげるから1時間早く来れる?」
「いいんですか?はい、大丈夫です!」
「……ゆかたでおまつり!」
「風流じゃのう」
「せっかくですから僕たちも甚平を着ていきませんか?」
「おお、そうだな。そうしようぜ!」
オレが断ろうとした理由はもうひとつあって。
「主人公ちゃんも誘えたら良かったのにね」
「シュメリアちゃんに訊いたらよ、
主人公、忙しくて最近学校休んでるんだとよ」
そう。主人公がいないのだ。
主人公に逢えないのにこいつらと
休みの日にまで顔を合わせるハメになるとは。
※ ※ ※
そして日曜の夜。
アズランの駅前で待つリソル達3人を見つけて女性陣3人が駆け寄る。
「あら、3人とも早いね」
「お待たせしてしまいましたか?着慣れていないもので手間取ってしまったのですみません」
「いえ、僕たちも今着いたばかりですよ」
「よーしこれで全員揃ったな。俺、腹空いちまっててよ。焼きそばとか食いてえな」
「メラゾーマやきそば、あそこ」
「お、サンキューラピス!」
ラピスが指差す方へアイゼルを先頭に皆続く。
ふと、よく知っている気配を感じた気がしてリソルは立ち止まって辺りを見回した。
が、いないようだ……。気のせいか?
「メラゾーマやきそばを沢山食べたら私でもラピスさんのように強い魔力が得られるでしょうか」
「これは確か、一時的に少しだけ魔力が上がるものだったと思います。なので流石にラピスほどにはなれないと思いますよ」
「うう……、そうですか。残念です……」
「フランちゃんには魔法がなくてもオノがあるじゃない」
「そ、そうですよね!オノを扱うには筋力をつけないと。やはりここは……唐揚げを食べるべきですよね!」
「からあげ、あっちにある」
「ありがとうございます、ラピスさん!」
唐揚げの屋台へ向かうフランジュの姿はまさしく猪突猛進だ。
「フランジュの向上心は素晴らしいのう。ラピスもフランジュを見習ってメラゾーマ焼きそばを食べんか」
「イヤ。クレープ食べる」
「全く甘い物ばかり食べおって!」
「まあまあメルジオル。お祭りの日ぐらいいいじゃないですか」
「聞け、ミラン。こやつはな、ここに来る前もアクロバットケーキを5個とゴージャスクッキーを20枚食べておるのだぞ!」
「成長期だしそんなもんだろ?俺だってグランドタイタス丼2杯にパワフルステーキとニンニクぎょうざ食べてきたぞ?」
アンタたちふたりともバケモノだよ、とかいつもなら言う所だが。
さっきから気になって仕方ない。
この気配は……、間違いなくアイツのはず。
お祭りのお誘いの手紙を送ったけど用事があって行けないって返事が来たとたぬきセンパイがしょんぼりしていたのに。
「……おい、リソル聞いてるか?」
アイゼルに肩を叩かれて我にかえる。
「腹でも痛いのか?さっきから静かじゃねえか」
「アンタと一緒にしないでよね」
「なんだいつも通りだな。お、見ろよ。ミスアズラン浴衣コンテストだってよ。お前ら出たらどうだ?」
アイゼルが女性陣を振り返って言った。
「え!?いや、あたしはそういうのちょっと」
「ミスコンなんて畏れ多いです」
「みすこん……てなに?」
「……賞金100万G!?ミスコンにしては高過ぎませんか!?」
道端のコンテストの看板を見てミランが驚く。
「す、すげえな。こりゃとんでもない浴衣美人が出場してくるかもな。観てみようぜ!」
「開始時間はもうすぐですね。場所は宿屋の方だそうです。行ってみましょう」
ミスコン会場の方へ進むたび、アイツの気配が強くなってきた。
まさか……?
賞金が高額なせいもあってか、会場は大変混み合っていた。リソルの背ではステージがほぼ見えない……。
それでもマイクの音声は聞こえる。
コンテスト開始の挨拶が終わり、出場者の名前や職業などが司会者によって読み上げられた後、数分間の出場者のアピールタイムが始まる。
続々と出場者が紹介されていく中、フウキのメンバーに馴染みのあるとある名前が読み上げられる。
おっ、とアイゼル達も声を上げるが、そこに現れたのは知らない女性だったようで「そりゃそうだよな」と笑った。
その女性は「普段はアストルティアを救う冒険をしています」と自己紹介をしたが会場の皆は冗談だと思って笑っている。
いやいや待てって!
堪らずリソルはアイゼルによじ登るようにしてステージのその女性を目にとらえた。
やはり間違いない!アイツだ!
アイツは学園では魔術によって姿を変えていたがオレには分かる。
「ちょ、オイ!なんなんだよリソル!」
アイゼルがリソルを引き剥がそうとした時、アイツと目が合った気がした。
アイツは一瞬白目を向いた後物凄く引きつった笑みを顔にはりつけ舞台袖に引っ込んでいった。
※ ※ ※
「オレ用事あるから先に帰ってて」
ミスコンも終わり、祭りももうすぐお開きになるので駅に向かおうとする中、リソルはそう言い残して皆と別れた。
「……主人公」
リソルに声をかけられたその人物は驚いて飛び上がった。
「え、あの、どちら様でしょう……?」
バレないと思ってるのかシラを通そうとする。
リソルは大きな溜め息をついて主人公を睨む。
「馬鹿じゃないの!?オレがアンタの事分からないとでも思ってるの!?」
「え、あ、はいすみません」
「何してんのさ。オレ達の誘いを断ったくせに」
「えーっとそれは……」
しどろもどろ主人公が話しだす。
今主人公は2億Gのマイタウンが欲しくて金策をしているのだとか。
そしてこのコンテストの賞金に目が眩んで参加したのだそう。
たぬき先輩の誘いを断ったのは参加するのをフウキの皆に知られたくなかったから。
「ふうん。へえ。そうだったんだ。ミスコングランプリになれなくて残念だったねー」
主人公は無念そうにうめき声をあげた。
「今回はアンタの無様な姿が見れて面白かったから許すけどさ、今度からはオレ達の誘い断らないでよ。アンタがいないのにフウキの奴らと過ごすなんてオレはまっぴら御免だからね」
主人公はなんか変な声をあげている。
「祭りの報告書なんて主も喜ぶだろうしね。あ、浴衣の構造についても調べておこうかな?」
主人公はさっきとは違う変な声をあげた。
めでたしめでたし。