ぎゅっと使い魔の脚に報告書を結び付ける。
ぱたぱたと少し頼りない、可愛いらしい羽音を立てて窓辺から飛び立つ使い魔。
真っ暗な空に使い魔が消えるのを見届け。
ふぅ、と小さく息を吐いて椅子にどさっと座る。
さて、どうするかな……。
風呂に入ってコーヒーを飲みながらゴシップ記事を読んでもいいけど。
人間ってちっさい事でいちいち騒ぎ立てて、オレらからすると滑稽で。
それを寝る前に読むと結構良い感じに寝れるんだよね。
ただ今日はフウキのやつらから七夕祭りに誘われていて。
でもあいにく、報告書の提出日と被ってて行けなかったんだよね……。
珍しく、アイツも来るって言ってたのに。
「はあ〜あ〜〜〜………あ、」
そうだ。七夕って短冊とかいう細長い紙にお願い事を書いて笹に吊るすんだよな。
こっそり、それだけ見て来ようかな。
で、変な事書いてたらからかってやろう。
オレに見られると思ってないから油断してまぬけな事書いてるかもしれないし。
まあでも、アイツなら世界平和とか素で書いてるかもだけど。
椅子から立ち上がったリソルの口元には笑みが浮かんでいた。
さっと出掛ける準備を済ませ七夕の里に向かう。
まだ人も沢山いて賑やかだ。
前日に雨が降ったので地面からむわっと湿気が上がってくるがひんやりとした風が笹の葉を揺らしていて心地良い。
アイツらの短冊はどれだろうな。
魔術を使って見つけてもいいけど、ゴシップ記事の代わりに他の人間達の短冊も見ていくか。
「どれどれ……」
“お金持ちになれますように”
“メラがつかえるようになりますように”
“今度の試験に受かりますように”
“ままのあかちゃんがぶじにうまれますように”
“マイタウンが当たりますように”
“一流の裁縫職人になれますように”
“ヒーたんとずっと一緒にいれますように”
“息子の病気が治りますように”
“ハッピーくじの特等が当たりますように”
“学会で私の研究が認められますように”
“ゆうしゃになれますように”
「んー……」
特に面白いのは無いな。残念。
まあ、ゲスいヤツは七夕の里なんてロマンチックな所に来ないか……。ん?
“主人公とアストルティア中を旅出来ますように”
“主人公ちゃんに美味しいって言ってもらえるようなご飯が作れますように”
“主人公を僕の妃に出来ますように”
“主人公さんと筋トレ仲間になれますように”
“主人公とお菓子のお城で暮らせますように”
「……。」
これはアイツらの短冊だろう。という事はアイツのもこの辺にあるはず……。
“リソルとずっと一緒にいられますように”
見知った字で書かれた、自分の名前。そして願い。
予想外の言葉に思わず短冊を千切り取りそうになった。
な、何でこんな人間の子供騙しみたいな占いやまじないのたぐいに取り乱してるんだオレは。
数秒、目をつむり気持ちを落ち着かせると、笹のそばに置いてある白紙の短冊とペンを手に取った。周囲を見回し誰にも見られていないのを確認し、短冊に願いを書きつけ笹に結ぶ。
そして、自分の願いを妨げるであろう、先程見た短冊の内数枚を、千切り取った。
悪いけど、オレはアイツを他の誰かに渡す気無いんだよね。
リソルが立ち去った後も変わらず笹は涼しげに揺れ、天の星は美しく輝いていた……。