「わたしたち
わたしたち
この日をどんなに
この日をどんなに
待ちのぞんでいたことでしょう。
さあ祈りましょう。
さあ祈りましょう。
ときは来たれり
いまこそ目覚めるとき
大空はおまえのもの
舞い上がれ空たかく!」
* * *
コンコンコン。
アスフェルド学園の敷地内にある学生寮、祈望館のリソルの部屋のドアを誰かがノックした。
「…チッ、誰だ?」
リソルがドアを開けると、主人公が立っていた。
「…なんだ、主人公か。いや、この前アンタかと思ったらドラキー女でさ。しかも『…お腹…空いた…お菓子…ない?』って。追い返そうとしたらへぼドラキーが慌てて連れ帰ったけど」
リソルは主人公の前のテーブルに淹れたてのコーヒーを置いた。
「…アンタが連絡なしに突然会いに来ると、何かあったのかって心配になるよ。でも今日は何とも無さそうな顔してるね。どうしたの?」
主人公は、特に用は無いが、リソルに会いたくなったから来たのだと伝えた。
「…!!…アンタよくそんな恥ずかしい台詞真顔で言えるよね。こっちが恥ずかしくなるんだけど!」
そうした他愛のないお喋りをしていると、もう何度目になるだろうか、主人公のポケットから突然緑色に光輝くエテーネルキューブが飛び出してきた。
「…オレに用があったのは主人公じゃなくてエテーネルキューブの方だったのかもね」
リソルがため息をつきながら言った。ふたりの姿が光に包まれる。ふたりが緑の光の渦の中を泳ぐように進んでいくと、じめじめした井戸の底へ着いた。
「…ここはどこだ?」
とりあえず井戸から出るふたり。井戸から出てきたふたりを見て側にいた女性が驚きの声をあげた。
「きゃー!井戸から人が!!あなた達、誰!?」
女性の声に人々が集まってきた。
「…オレ達はアストルティアから来たんだ」
「あすとるてあ?聞いた事ないわね」
「ここは日出ずる国ジパング。世界の朝はこの国よりはじまるとおぼえておかれよ」
「…じぱんぐ?」
「今この国はやまたのおろちに支配されている。悪いこと言わないからさっさとよその国へ行った方がいい。女連れは特にな」
ジパングの男性は主人公を意味ありげに見た。
「いけにえはヒミコさまの予言によって国の若い娘の中から選ばれます」
「…生け贄!?」
「まあ、遠くから来たのじゃろうからせめてヒミコさまに挨拶だけでもして行ったらどうじゃ。あそこに見える屋敷へ行くがよい」
老人は遠くに見える大きな屋敷を指さして言った。主人公とリソルは老人にお礼を言うとヒミコの屋敷へ向かった。とにかく今はこの世界の情報を集めるしかない。情報を集めるには権力者に話を聞くのが一番だろう。
ヒミコの屋敷に入ろうとすると門番に止められたが、遠くから来たふたりがヒミコに挨拶したいのだと知ると、気分を良くしたのか中に通してくれた。屋敷の奥の真ん中の大きな部屋にヒミコはいた。
「なんじゃお前らは?答えずともよいわ!そのようないでたち。おおかたこの国のうわさを聞き外国からやってきたのであろう。おろかなことよ。わらわは外人を好まぬ。そうそうに立ち去るのじゃ。よいな!くれぐれもいらぬことをせぬが身のためじゃぞ」
ふたりは追い払われるように屋敷を出た。リソルは屋敷を振り返って言った。
「…なーんか、あのヒミコってやつ、超あやしいんだけど。大体出てけって言われてもこの国は島国みたいだし、オレ達は船持ってないし。とりあえずやまたのおろちとやらを倒すしかないんじゃない?あそこの火山からそれっぽい気配がするんだよねー」
リソルの勘を頼りに火山へ行くと、やまたのおろちがいた。やまたのおろちの周りには人骨のようなものが散らばっていた。おそらく、生け贄にされたジパングの国の娘達のものであろう。
「うわあああああ!!」
声がしたのでよく見ると、なんとやまたのおろちに襲われている女性がいるではないか。主人公が助けに飛び出した。
「…あーもー、お人好しなんだから!」
リソルも主人公を追いかけて飛び出して行った。
「ギャオオオオオオオオンッ!!」
やまたのおろちが主人公とリソルを吠えて威嚇した。空気がびりびり震える。
リソルは襲われていた女性を抱えて安全な離れた場所へおろした。
獲物を奪われたやまたのおろちが怒り狂って火炎を吐き散らした。主人公は火炎を避けるとカカロンを召喚し風斬りの舞を踊った。カカロンはフバーハを唱えた。
リソルはドルマドンを放った。やまたのおろちはそれをひょいとかわした。
「チッ」
主人公の百花繚乱。やまたのおろちを蓮の花の幻覚が包んだ。幻覚の蓮の花びらに噛みつこうとするやまたのおろちの頭をひとつひとつ順番にリソルが一閃突きで潰していく。
激痛に暴れるやまたのおろちを主人公が花ふぶきでさらに幻覚で包む。
頭が残りひとつになった時、やまたのおろちの背後に旅の扉が出現し、やまたのおろちが逃げてしまった。
「…なっ!?」
やまたのおろちを追う為ふたりが旅の扉をくぐるとそこはヒミコの部屋だった。そして目の前には傷だらけのヒミコが倒れていた。ヒミコに気付いた従者達が駆け寄る。
「ヒミコさまっ!今すぐきずの手当てをっ!それにしてもヒミコさまはいったいどこでこんなおけがをなさったのやら…」
驚き不思議がる従者達。
「ヒミコさまがおけがをなされて大変なのだ。出ていってくれ!」
その時、ヒミコが声をださず頭の中に直接話しかけてきた…。
「わらわの本当の姿を見たものはそなたたちだけじゃ。だまっておとなしくしているかぎりそなたたちを殺しはせぬ。それでよいな?」
あまりのぶきみさに頷きそうになったが、首を横に振る主人公。
「ほほほ。そうかえ。ならば生きては帰さぬ!食い殺してくれるわ!」
ヒミコがやまたのおろちの姿に変化した。
「ぎゃーっ!!」
逃げ出す従者達。
「…やれやれ。そんな身体でオレ達に勝てると?」
やまたのおろちの先ほど潰された頭はそのままであった。
「ギャオオオウッ!!」
「…それならお望み通りにしてあげるよ」
リソルは高く飛び上がり雷鳴突きを放った。
「ウギャアアアアアアアアッ!!!」
やまたのおろちは消滅し、やまたのおろちがいた場所には紫色に輝く玉と一振りの剣が落ちていた。主人公は輝く玉と剣を拾い上げた。
「…戦利品として貰っといたら?」
主人公は頷いて輝く玉と剣を道具鞄にしまった。
「なんと…ヒミコさまがおろちだったとは!この目で見ても信じがたい」
「おろちを退治して下さってありがとうございます。これでもう、生け贄を出さなくていいのですね…」
ヒミコの従者達は喜びだけでなく、主を失った困惑や、生け贄を差し出してきた罪悪感など、複雑な気持ちにかられているようだ。
「…お取り込み中悪いんだけど、この国で船持ってる人とかいない?」
「船でしたら、今回生け贄に選ばれていたやよいという娘の家が持っていたと思うが」
「…本当?ありがと」
主人公達は従者に教えて貰った家に向かった。
「…やよいって、さっきおろちから助けた人の事かな」
リソルは家を覗きこんだ。
「…ここがやよいって人の家?」
「やよいならおりませぬ」
やよいの父親らしき男が出て来て言った。
「…おろち倒したのにまだ帰って来てないのか」
「今なんと?おろちはいなくなったのですか!?」
父親が驚きと喜びの声を上げた。その声を聞き、側にあったツボから娘が顔を出した。
「本当?あなた達が倒してくれたの?ありがとうございます!」
「やよいはひとり娘なのです。私はあろうことか生け贄の祭壇に縛りつけられたやよいをこっそり連れ帰ってしまったのです。本当に助かりました。ありがとう」
お礼を言う親子に、船が欲しくてこの家を訪れたのだと話す主人公とリソル。
「娘やジパングを助けて下さったのでお力になりたいのはやまやまですが、私のような漁師は船がないと生活が出来ません…。申し訳ないのですが…」
「…それは仕方ないか」
主人公達が途方に暮れてやよいの家を出ると、聞き覚えのある女性の声がした。
「あらあなた達、さっきはやまたのおろちから助けてくれてありがとう!お礼を言おうとしたのにいなくなっちゃったから探してたのよ。私はネフェロバークの町長で商人のネフェロ。皆からはネロって呼ばれてるわ。あなた達の名前を訊いてもいい?」
「…どういたしまして。オレはリソル。こっちは主人公」
主人公はネロに軽いお辞儀をした。
「リソルくんと主人公さんか。ふたりとも、やまたのおろちを倒しちゃうなんて、強いのね。もしかしたら魔王バラモスも倒せるんじゃない?ねえ、これからどこへ行くの?」
魔王、という言葉に主人公とリソルは目配せをした。
「…いや、どこってのは決まってないんだよね」
主人公が軽く事情を説明した。
「そうなの…。分かったわ。私はね、魔王バラモスを倒す為、オーブを求めてネフェロバークから自分の船でジパングへ来たのよ。良かったらあなた達の旅のお手伝いをさせて欲しいわ」
主人公とリソルにとってとてもありがたい申し出だ。
ネロが仲間に加わった!
「…オーブって?」
「あなた達、やまたのおろちを倒した時に光輝く玉を手に入れなかった?」
主人公が鞄から先程拾った紫の宝石を取り出してネロに見せた。
「それよ。それはパープルオーブっていうの。世界中に散らばる6つのオーブを集めレイアムランドの祭壇に捧げると、伝説の不死鳥ラーミアがよみがえる、と言われているわ」
「…ラーミア?」
「魔王バラモスの城のあるネクロゴンドは人の足では辿り着けない場所にあるの。不死鳥ラーミアをよみがえらせればきっと助けになってくれるはずよ」
「なるほどね。ところで他のオーブのありかは見当ついてるの?」
「ええ。オーブに100万Gの懸賞金をかけて情報を集めたから大体はね」
「ひゃくまん…!?よくそんな大金が」
「これでもやり手の商人なのよ?まあ懸賞金にお金をかけすぎて酒場で仲間を雇う余裕がなくなっちゃったんだけどね。戦闘もまあまあ自信があったんだけど、私ひとりじゃやまたのおろちには手も足も出なかったわ。あなた達に会えて本当に幸運だったわね」
「やまたのおろちにひとりで戦いを挑むなんて尊敬するよ」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「…底無しのポジティブだね。それで?次はどこに向かうつもりだったの?」
「今いるジパングから船で南東に進んだ先の大陸に海賊のアジトがあるの。そこにレッドオーブがあるって噂よ」
「…海賊がレッドオーブ持ってるって事?海賊が簡単にオーブを譲ってくれるとは思えないけど」
「魔王を倒す為なら譲ってくれるでしょ。さあ早く船に乗って、ふたりとも。時は金なり、よ。パパッと海賊のアジトへ行くわよ」
ジパングを出て船で南東に進むと、ジパングの何十倍もありそうな大きな大陸に着いた。船をとめ、少し歩くとネロの言う海賊のアジトらしきものが見えてきた。
「ごめんくださーい!こんにちはー!ネフェロバークの町長のネフェロですー!」
ネロがアジト前で元気に挨拶をした。ネロの態度の切り替えの良さに面食らった主人公とリソルはビックリしてネロを見た。ネロはひそひそ声で
「商売は愛想の良さが大事なのよ」
とふたりに言った。アジトから見るからに海賊らしき男が顔を出した。
「おかしらに用か?おかしらは奥にいるぜ。入りな」
案内されアジトの奥の部屋へ進むと、日に焼けた肌の堂々とした女性がいた。女性が口を開いた。
「女のあたいが海賊のおかしらなんておかしいかい?」
思っていた通りの事を言われ、思わず主人公は頷いてしまった。ネロがすぐさま
「主人公さん!失礼よ!」
と言った。
「ずいぶんはっきりといってくれるじゃないの。でもそこが気にいったよ」
おかしらの意外な反応にネロは胸を撫で下ろした。
「それで、海賊のアジトなんかに何の用があって訪ねてきたのさ」
「魔王バラモスを倒す為にオーブを集めています。 ここにレッドオーブがあると聞いてやって来ました」
「どこかの町長が魔王をたおすために旅をしてるって噂はホントだったのか!いいさ、レッドオーブならアジトの側の地下にあるから持っていきな。実現するかどうかはわかんないけど…もしたおせたあかつきにはぜひまた寄ってくれよな」
主人公達はレッドオーブを手に入れ船に戻った。
「ふふふ。順調順調!次はランシールへ行くわよ!」
「…ランシールってどんな所?」
「大きな神殿があって、その神殿の神官からの試練を受けて行く地球のへそにブルーオーブがあるという噂よ」
「地球のへそ?」
「試練の洞窟の事よ。地球のへそへはパーティを組まずひとりで入らないと」
3人で相談した結果、天地雷鳴士でカカロンを召喚できる主人公が試練を受ける事になった。
「さあてと、ここがランシールね!」
「…神殿なんて見当たらないけど?ただの小さな村じゃんか」
「おかしいわね、大きな神殿があるって有名なんだけど…」
村人達に話を聞くと、ここはランシールで合っているという。大きな神殿もあるという。
「神殿はどちらにあるんですか?」
「はっはっはっは!」
村人は大笑いをして村の北の森の方を指差した。
「旅人はみーんな迷子になるんだよなぁ!」
「あんたに言われてそっちを探したけど神殿なんて見つからなかったぞ!」
近くにいて主人公達と村人のやり取りに聞き耳を立てていた旅の武闘家がぶつくさと文句を言った。
「はっはっはっ!神殿を見つける事も出来ないような奴に試練をクリアする事なんて出来ないさ」
「なんだと~!!」
「大人しくランシール名物のきえさりそうでも土産に買って帰ったらどうだい」
「この野郎!」
「まあまあまあまあ」
村人に殴りかかりそうになる武闘家をネロが止める。
「なるほどね。神殿を見つける所から試練が始まってるって訳か」
村人と武闘家に別れを告げて北に向かって歩く3人。やっぱりさっきの村人の話は嘘だったのでは?と疑念がわきだした頃、森の中に建つ神殿がついに見えた。
神殿に入ると待ち構えるように神官が立っていた。
「よくきた旅人よ!ここは勇気をためされる神殿じゃ。たとえひとりでも戦う勇気があるか?試練を受けると言う者は前へ出よ!」
その言葉に主人公は神官の前へ進み出た。
「名は何と申す?」
主人公は自分の名前を神官に伝えた。
「ふむ、主人公と申すのか。私についてまいれ!」
「頑張ってね、主人公さん」
「いってらっしゃい、主人公」
「ではゆけ!主人公よ!」
神官に見送られ主人公は神殿の細い廊下を進んでいった。廊下は洞窟へ繋がっていた。
目の前に分岐のある細い道が無数に広がっている。
まずはすぐ側の道を選んでみた。きっと行き止まりだろう。
主人公の予想は的中し、やはり行き止まりであった。行き止まりにはいかにも怪しい宝箱があった。
町のタンスやツボを覗き込まずにはいられないのが主人公の性、躊躇わず宝箱を開けた。
宝箱の中身はひとくいばこだった。
ひとくいばこは箱を開けた主人公の手を喰い千切ろうとしてきた。
主人公はさっと後ろに跳びすさって幻魔のカカロンを召喚した。
カカロンはマヒャドを唱えた。
ひとくいばこが凍りつく。
カカロンは「あら、もう終わり?」という顔をしている。
主人公はカカロンに回復を任せようとしたが、今は好戦的な気持ちらしい。
主人公が戦わなくてもカカロンだけで大丈夫そうだし、主人公は攻撃をカカロンに任せる事にした。
手当たり次第に道を進み、ひとくいばこが化けている宝箱を開け、カカロンにマヒャドを撃ち込ませた。
まぁ、カカロンだってたまには攻撃がしたいんだろう。
大体敵のとどめはいつもカカロンだし、本当はかなり好戦的な幻魔なのかもしれない。好きにさせてあげようか。
「どんどんいくわよ!」と張り切るカカロンに苦笑しながら主人公は先へ進んでいった。
※ ※ ※
一方、神殿で主人公の帰りを待つリソルとネロ。
神官は2人が主人公の後を追いかけないように見張っているようだ。
手持ち無沙汰になった2人は神官から少し離れた所に腰を下ろした。
「リソルくんと主人公さんって恋人なの?」
主人公の気を探っていたリソルはネロの質問に引き戻された。
「何?急に」
「なんとなく、そうかなって」
「まぁ、そうだけど」
隠す事でもないし、と答えるリソル。
「いいわね~。私もね、昔恋人がいた時があったわ」
「へえ」
「でもね、商人や町長の仕事に集中する為に別れてしまったわ」
「誰かの支えがある方が頑張れたりしなかったの?」
「彼が会えなくて寂しそうにする姿に耐えられなかったのよ。私、なんでも完璧じゃないと気が済まなくて。彼を満たしてあげられない自分に嫌気が差したの」
「仕事より彼を取ろうとは思わなかったんだ?」
「彼は1人だけど商人や町長の仕事は何百もの人間の生活に関わるわ。だから私には彼1人を選ぶ事は出来なかった」
「ふうん」
1人の人間を満たす事が出来ないのに何百もの人間を満たす事が出来るのか、なんて思ったがリソルは黙っておいた。
つまらない正論を振りかざした所で彼女は救われない。
それに主人公も多分、似たような事で悩んでいるようだった。
オレなら迷わず1人を選ぶけど、ネロや主人公のような責任感が強くて真っ直ぐな奴はすごく苦しむのだろう。
そういう真っ直ぐな奴ほどバキッと真っ二つに折れるから、側で支えてやる人が必要だと思うが。
「ネフェロバークは私の人生の全て。子どもみたいなものね。いつか2人にも見て欲しいわ」
「楽しみにしとくよ」
ネロの人生はネロのものであり、何が一番大事か決めるのはネロ自身だ。
なによりネフェロバークの事を話す時のネロはとても誇らしげだ。
リソルは彼女の選択を否定するまいと決めた。
※ ※ ※
「くしゅん!」
リソルとネロがそんな話をしているとは露知らず、主人公はくしゃみをした。
洞窟の奥に進めば進むほど空気が冷たくなっていく。
細かい分岐が終わり目の前の道が大きく左右に別れていた。そろそろゴールが近いのかもしれない。主人公は左の道を進んだ。
「ひき返せ!」
突然洞窟に何者かの声が響いた。
飛び上がる主人公。
恐る恐る進むと
「ひき返した方がいいぞ!」
とまた声が響いた。声がした方に目をやると、洞窟の壁に仮面が貼り付いていたが、まさか仮面が喋ったのだろうか?
前方の壁にも仮面が何個か貼り付いているので今度は仮面を見つめながら進むと、仮面の目が青白く光り、やはり確かに喋っている。
「ひき返した方がいいぞ!」
ぶきみだが何もしてこなそうなので無視をして進む主人公。
「ひき返せ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返せ!」
「ひき返せ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
そして行き止まりの仮面が喋った。
「ふあっふあっふあっ…お前の意志の強さだけは認めよう。だが……むこうみずなだけでは勇気があるとはいえぬ。ときには人の言葉にしたがう勇気もまた必要なのじゃ」
なんだそりゃ、とずっこけたい気持ちをこらえ、主人公は先程の分岐点へ戻り右手の道を進んだ。
やはりこちらも壁の仮面が喋る。
「ひき返せ!」
「ひき返した方がいいぞ!」
「ひき返せ!」
仮面達の言葉を無視して進むと今度の行き止まりには宝箱があった。
中には光輝くブルーオーブが入っていた。
主人公はブルーオーブを手に入れると、リレミトで神殿に戻った。
「おかえりなさい主人公さん!無事でよかったわ!ブルーオーブは手に入った?」
「これこれ仲間うちでさわがぬように。ともかく……よくぞ無事で戻った!どうだ?ひとりでさびしくはなかったか?」
主人公は頷いた。
「そうか。お前は強いのだな。ではお前はゆうかんだったか?いや…それはお前がいちばんよく知っているだろう。さあゆくがよい」
3人はランシールを後にし、船へ戻った。
「どんな試練だったの?」
ネロに訊かれ主人公はどんな感じだったか説明した。
「仮面が喋るなんてぶきみね」
「喋る仮面ねぇ…」
ネロは喋る仮面の話に驚いているがリソルはそれほどでもないようだ。もしかしたら魔界にはよくあるのかもしれない。
「それで次はどこ行くの?」
「お次はエジンベアのお城ね」
「今度は何オーブ?」
「エジンベアはオーブ目的じゃないの。さいごのかぎを手に入れる為に必要なかわきのつぼがあるという噂よ。さいごのかぎがあればどんな扉でも開けられる。オーブを全部集める為には必要だわ」
「お城の壺なんて王様が素直にくれるかね」
「やってみなきゃ分からないわ。行きましょう」
とは言ったものの。
「なーにが『ここはゆいしょ正しきエジンベアのお城。いなか者は帰れ帰れ!』だッ!!このオレのどこがいなか者に見える訳!?」
「2人はこの辺じゃ見かけない服着てるし、私も旅人用の服着てるし。貴族の服買おうにもそれこそオーブ売らなきゃお金が無いし、顔もさっきの兵士に見られてるからね。壺は諦めようかしら…」
3人はエジンベアの兵士に追い返されてしまったのだった。
その時主人公が閃いた。さっそく2人に提案してみる。
「ランシールのきえさりそう?」
「姿を消して忍び込むの?アンタにしちゃ珍しい案だね。コソコソ忍び込むなんてオレに似合わないから普段ならお断りだけど、今回はそうも言ってられないか」
3人はランシールへ引き返し道具屋できえさりそうを購入し、エジンベアへ戻った。
「効果はどれくらい持つのかしら」
「城に入れれば後はなんとかなるでしょ」
きえさりそうを使い、お互いに姿が見えなくなった事を確認する。
「手繋がない?2人がどこにいるか全く分からないわ」
「仕方ないな。ほら」
3人は手を繋ぐと先程追い返された兵士の横をすり抜け、城内へ侵入した。
「王様に壺を譲ってくれるか訊いてみましょう」
王様を探しているときえさりそうの効果が終わり、3人の姿が見えるようになった。
リソルがすぐさま手を振りほどく。
「城から追い出されないかしら」
ネロは心配したが城の人々は特に追い出そうとはしてこないようだった。
「王様はこちらです」
「王様に失礼のないようお願いします」
「王様は心の広いお方。あなた達のようないなか者でも会って下さるでしょう」
王様に会いたいと告げると兵士達に2階の玉座へ案内された。
「わしは心の広い王さまじゃ。いなか者とてそなた達をばかにせぬぞ。今日は何用で参ったのじゃ?」
いなか者と連呼されてリソルの口の端がヒクヒクしている。爆発する前に用を済ませたいものだ。
「私達は魔王バラモスを倒すべく、オーブを集めています。その為、エジンベアにあるというかわきのつぼが必要なのです。どうか譲っては下さらないでしょうか」
「まことあっぱれな志じゃの。構わんぞ。持って行くがよい。ただし、手に入れられたら、じゃがな」
「と言いますと?」
「ちょっとした謎解きが必要なのじゃよ。壺を狙う不届き者が後を絶たないのでな、ちょいと仕掛けをしてあるのじゃ。名高い職人に作らせた仕掛けだからわしにも解けぬ。欲しいというなら仕掛けを解いてみせよ。解けたなら壺は好きにしてよいぞ。ほっほっほ」
3人は玉座から下がり、壺があるという地下へ向かった。
水路に囲まれた部屋の中央にそれらしき壺が見える。
しかし壺の側に先客達がいるようだ。
先客達は今まさに壺を持ち去らんとしていた。
「あなた達ちょっと待って!それはかわきのつぼよね?私達それがどうしても必要なの!譲って下さらないかしら!」
ネロが交渉を持ちかけようとする。
「そいつぁお断りだ。かわきのつぼはたった今、このカンダタさまが手に入れたのよ。諦めな」
「魔王バラモスを倒す為に必要なのよ!」
「魔王バラモス?知ったこっちゃねえ。てめぇらみてぇな弱っちいやつらが倒せる訳ねぇだろ。どうせつくならもっとマシな嘘にしやがれってんだ。おい、おめぇら、やっちまいな!」
「はい、おかしら!」
カンダタ子分達が3人に襲いかかってきた。
が、一瞬で子分達はフッ飛んで壁に打ち付けられた。
「ぐえっ」
「ぎゃっ」
「あぐっ」
「…誰が弱っちいって?」
リソルがブチ切れてしまったようだ。
さっきからいなか者だのなんだのと馬鹿にされ続けてたから。
あーあ、知ーらないっと。
カンダタが真っ青になって土下座をする。
「まいった!かわきのつぼならあんたたちにやるからゆるしてくれよ!な!な!」
はい
いいえ←
「…そんなんでオレの気が済むと?」
「そんなこといわずにさ ゆるしてくれよ!な!な!」
はい
いいえ←
「つぼくれるって言うならいいじゃない。ね、リソルくん」
ネロがリソルをなだめる。
「…」
「たのむ!これっきり心をいれかえるからゆるしてくれよ!な!な!」
「これでさいごのかぎが手に入るわ!バラモスまであと一息よ」
「ん?今あんたさいごのかぎって言ったか?そんな名前の鍵、この前手に入れたぞ?」
「なんですって!?」
カンダタは自身の履いている緑の年季の入ったパンツをゴソゴソすると鍵を取り出した。
「そうだ!かわきのつぼとさいごのかぎもあんたたちにやるからゆるしてくれよ!な!な!」
願ってもない提案だが、しかし…それが本当にさいごのかぎなのか分からないし、ていうかその鍵触りたくないんですけどおおおお!
「どうする…?」
3人は顔を見合わせた。
主人公はカンダタを仲間にしてはどうか、と言った。
「正気?」
リソルが信じられない、といった顔で主人公を見た。
「いくら動物園みたいに個性豊かなフウキのメンバーをまとめてるアンタでもコイツは流石に手に余るんじゃない?」
「うーん、限りなくナシ寄りのアリかもね」
「町長まで!?本気なの?」
「鍵が偽物だったらその場でお別れすればいいんじゃないかしら」
「…まじかよ。主人公、アンタに任せるよ、オレは」
主人公はカンダタを仲間にすると決めた!
「カンダタさん、私達と一緒にバラモスを倒しに行かない?」
カンダタもびっくりである。
「なんだって!?オレさまは誰かの子分になるような玉じゃねぇんだが」
リソルがカンダタを睨んだ。
「わ、わかったわかった!仲間になってやらぁ」
カンダタが仲間になった!
「で?次どこ行くか決まってんのか?」
「テドンの村へ行きましょう。その村にはさいごのかぎにしか開けられない牢があるらしいの」
「もし嘘ついてるなら今のうちに白状した方が身の為だよ、盗賊さん♪」
「嘘じゃねぇやい!」
4人はエジンベアの城を出、船へ戻った。
「そーいやあんたたち、何者なんだ?」
主人公とリソルとネロはカンダタに自己紹介をした。
「ネフェロバークっつーとこの町長はかなりやり手だって聞いた事あんな。短期間で町をすげえでっかくしたんだってな。町のやつらからは裏で暴君ネロって呼ばれてるとか。あすとるてあってのは初めて聞いたな」
「へぇー。本当に町長って有名なんだね、すごいじゃん。けどさ、暴君って何?気に喰わない事があったらすぐ『ソイツの首をはねろ!』とか言ってんの?」
「私がそんな事言うように見える?!」
今まで過ごしてきた感じではそんな風には見えなかったが…。
「もー!心外だわ!初耳よ初耳!誰が暴君なんて呼んでるのよ!」
「まぁ、ただの噂でしょ」
ぷりぷり怒っているネロをなだめつつ、一行はテドンの村に着いた。もうすっかり日は落ちている。寂れた小さな村をカンダタが見渡す。
「で?本当にこんなちっこい村にオーブなんかあんのか?」
「そんな大声で今いる村の事をディスらないで。失礼でしょ。えーっと、この村のどこかに牢屋があるはずよ」
牢屋は村の奥にあった。ぼろぼろで小汚い牢の中には囚人が1人いるだけだった。
「おい…ネロ、本当に…」
カンダタが疑いの眼差しをネロに向ける。流石にネロも自信なさそうに
「この村の牢屋にあるって事と、さいごのかぎが必要って事しか聞いてないわ…」
と言った。
「…それならさいごのかぎでこの牢、開けてみる?牢の床掘ったら見つかるとか、そんな感じじゃない?」
「囚人が逃げちまうんじゃねーか?」
「アンタとオレが見張ってれば平気でしょ。さ、早くアンタが持ってるその鍵がホンモノかどうか証明してよ」
「分かった分かった!」
カンダタは自身の緑のパンツから鍵を取り出すと牢屋の錠前に差し込んだ。鍵を回すとカチっと音がし、錠が外れた。
「これでオレ様が嘘ついてないって分かったろ!?用も済んだしもう帰っていいよな!な!な!」
「駄目よ。この先もまださいごのかぎが必要になるかもしれないわ」
「鍵ならおめえらにやるからよ。オレ様には用ねえだろ?」
「…カンダタさん、あのね、実は魔王バラモスは世界の100大秘宝を持ってるって噂なのよ」
「なんだと!?」
「このまま私達と一緒に行けば、魔王バラモスの世界100大秘宝が手に入るわよ」
「なら仕方ねえ!もうちっとばかし、おめえらに付き合ってやる!」
「うふふ。ありがとう。よろしくね」
ネロは満面の笑みを浮かべて言った。
バラモスがお宝持ってるなんて初耳だな、と思い主人公がリソルを見ると、リソルは人差し指を唇の前に立てて「シーッ」というジェスチャーをした。
あー、そういう事か。流石商人…。
「皆様のお話、聞かせて頂きました」
突然、牢屋にいた囚人が話し掛けてきた。4人とも驚いて囚人の方を向いた。
「やっと来てくださいましたね。私はこのときを待っていました。運命の勇者が私のもとをたずねてくださるときを…。さあこのオーブをおうけとりください!」
主人公達はグリーンオーブを手に入れた!
「世界にちらばるオーブを集めてはるか南レイアムランドのさいだんにささげるのです。あなたがたにならきっと新たなる道がひらかれるでしょう」
「これで4つ目ね!あと2つよ!この次は大変よ。ねぇ、もう今日は遅いし、村に宿もあるし、せっかくだから泊まっていかない?」
「そうしようぜ!長時間船に乗ってたから疲れちまったぜ」
「…なんか嫌な感じのする村だけど。アンタ達が泊まりたいって言うなら」
「変な事言うなよ!さ!さっさと寝ようぜ!」
「…後悔しても知らないからね?」
リソルのそういう時のカンがよく当たるのを知っているので主人公は胸騒ぎがしたが、皆と一緒に宿に泊まる事にした。疲れていた為か横になるとすぐに眠ってしまった。そして4人はテドンの村の宿屋で朝を迎えた。
「……?」
ユサユサと誰かに体を揺さぶられて目が覚めた。体を起こすと目の前にネロがいた。
「あっ、主人公さん起こしちゃってごめんなさい。おはよう。あのね、この村、変なの。だから早く出た方がいいかなって」
「町長はオバケが出そうで怖いから早く船に戻りたいんだよね♪」
リソルがケラケラ笑いながらネロをからかう。
「別にオバケが怖い訳じゃないわ!」
「主人公起きたか!早いとこ船に戻ろうぜ。なんかよお、朝起きたらこの村、人っ子一人いねえんだよ。薄気味わりぃー村だぜ」
ネロ達に急かせれながら宿屋を後にし村の中を見回ると、なんと、昨晩はいたはずの村人達が誰もいなくなっていた。
「な?誰もいねーだろ?」
「…それどころか数ヵ月以上誰も住んでないかのような雰囲気だし」
「きゃー!やめてリソルくん!それ以上何も言わないで!」
「魔王の城が近いのか、禍々しい気が漂ってるし、もしかして昨日会った村人達…」
「言わないでってば!はい次!次行くわよ!!」
ネロに押し込まれるように船に乗り、しばらくして着いたのはまるで秘境のように人の気配のないほこらだった。ほこらの入口にかかった鍵をカンダタが解錠し、中に入ると旅の扉があった。
「こいつはどこに繋がってるんだ?」
「サマンオサよ。最近良くない噂ばかり聞くから気をつけましょ」
旅の扉をくぐり、森を抜けるとサマンオサと思われる町に着いた。
町に着くと、またもや人の気配がしない…かと思われたが、どうやら町の人々が教会に集まっていた為のようだった。
「こりゃ……葬式か?」
黒い服に身を包む集団に近付くと声が聞こえてきた。
「あんたあ〜なんで死んだのよ〜?うっうっ…」
「ブレナンよおー。おまえはいいヤツだったのにな〜」
「天にましますわれらが神よ、戦士ブレナンのめいふくを祈りたまえ」
「ねえもう父ちゃんは帰ってこないの?どこかへ行ったの?」
「王さまの悪口をいっただけで死刑だなんてあんまりですよ!これじゃおちおち商売もできませんよ!」
4人に気付いた町の女性が訴えかけるように嘆いてきた。
「多くの人たちが毎日牢に入れられたり死刑になっているんです、昔はおやさしい王さまだったのに…」
「とんでもねぇ町に来ちまったな」
「カンダタさん、あなた特に気をつけなさいよ」
「ん?」
「テドンの村にいた時みたいに周りに聞こえるような大きな声で王さまの悪口言ったりしないでね」
「へいへい」
「しっかし人間そんな突然性格が180度変わるもんかね」
「そうよねぇ…。何があったのかしらね」
「牢屋に入れられちまう前にとっととオーブ手に入れようぜ。どこにあんだ?」
「ああ、ここにはオーブは無いのよ」
「はあ?」
「サマンオサにはオーブを手に入れるのに必要なへんげのつえがあるの」
「…へえ。そんな杖がこんな所に?」
「なんだそのへんげのつえって。すげえのか?」
「その名の通り、その杖を使えば魔力の無い者でも高等魔術であるモシャスが使え、魔物にでも人間にでもエルフにでもなんにでも姿を変えられる。変幻自在さ」
「なんかすげえお宝じゃねえか!」
「リソルくん詳しいのね」
「…昔読んだ魔術書に書いてあっただけ」
「よーし、そんなすげえお宝って事は持ってるとしたら王さまだろ!ここの王さまに訊いてみようぜ!」
「カンダタさん、さっきも言ったけど王さまにはくれぐれも…」
「わかってるって!」
※ ※ ※
先ほどの会話から数十分後。
「…ねぇ、どうして私達は牢屋にいれられたのかしら…?」
サマンオサの王様に謁見後、4人は城の地下の牢屋にいれられてしまっていた。
「…さあね」
「…何も失礼な事言ってないわよね…?」
「へんげのつえ知らねえかって訊いただけだぜ」
ネロもカンダタも納得が出来ない、という顔だ。
リソルがフフッと笑った。
「王様のあの感じ、人間じゃないよ」
「まあ確かになんにもしてねぇ奴を牢屋にぶちこむなんてまともな人間じゃねえよな」
「そういう意味じゃなくて、ここの王様は魔物だって言ってんの」
「えっ?!」
「ああん?」
ゴホン、と見張りの兵士が咳払いをした。
咳払いにはっとして主人公達は兵士を振り向いた。
兵士は目をつぶると小声で言った。
「私は眠っている。だからこれは私のねごとだ。たしかに最近の王はおかしい。だがわれわれは王さまには逆らえぬ。私はここから動けぬがうわさではこの地下牢には抜け穴があるそうだな…」
主人公達は顔を見合わせた。
「こりゃ見逃してくれるって事か?」
「そうみたいだね」
「カンダタさんの持ってる鍵で開けられるかしら?」
「どーれ、やってみっか」
カンダタのまほうのかぎはカチリッと音をたてて牢にかかった鍵を解錠した。
「よっしゃ!」
「やったわね!さあ早くここから出ましょう」
地下牢には主人公達の他にも何人もいれられているようだった。
「他の人は何でいれられてしまったのかしら」
ネロと目が合った剣士と思われる男が話しかけてきた。
「真実の姿をうつすラーのかがみというものが南の洞くつにあるそうだな。この話を人にしたとたん私は牢に入れられたのだ。くそっ!どうなっているのだ!」
剣士は牢の格子を思い切り蹴飛ばした。地下牢にガキィーンと金属音が響いた。
「だれかそこにおるのか?」
少し離れた牢から男性の声がした。
「わしはこの国の王じゃ。なに者かがわしからへんげのつえをうばいわしに化けおった。おおくちおしや…」
「なんですって!?」
「まさか王さまが牢にいれられてるとはね」
「そんなら城や町の奴らに玉座の王さまは偽もんだぞって教えてやりゃあいいんじゃねえのか」
「通りすがりの旅人の言う事なんて信じると思う?侮辱罪で今度はオレ達死刑になる事間違いナシだね」
「ならどうすりゃいいんだよ」
「さっきの剣士さん、南の洞くつにラーのかがみがあるって言ってたよね?それを使えば偽王サマの化けの皮を剥がせるんじゃない?」
「なるほどな!じゃあさっさと取って来ようぜ!」
4人は抜け穴から牢を脱出すると、サマンオサの南の洞くつへ向かった。
「結構広いわねぇ」
「何にもねぇなぁ…お、階段階段!」
カンダタが階段を下りようとすると、くさったしたいやがいこつけんし、キラーアーマー達に囲まれた。
「邪魔くせー!おい!子分ども!!」
カンダタが子分を呼んだが誰も来ない。
「あ、そうか、あいつらがオレさまの子分をやっつけちまったから…。おい、見てないでお前らも戦ってくれよ!」
「アンタの実力がどんなもんか見せてもらおうと思ったんだけど」
「あんだとぉ?!チッ、しょうがねぇな!いくぜ、マッスルポーズ!!」
「…は?」
カンダタのマッスルポーズ!魔物達は混乱した!
「ちょっ、何それ…。もっとまともな攻撃無いわけ?」
カンダタの超ちからため!からの〜、マッスルポーズ・極!!!魔物達はカンダタにみとれている!
リソルは大きな溜め息をついて
「アイツ仲間にしようって言ったの誰だっけ…?」
と言ってじろりと主人公を見た。主人公はカカロンを召喚すると慌ててカンダタの加勢に入った。
「リソルくん…、私もカンダタさんと似たような事しか出来ないわよ」
「町長もなの!?よくそれで魔王討伐の旅に出れたね?まぁ、魔王バラモスなんて聞いた事ないような小者、オレと主人公のふたりで楽勝だと思うけど」
カンダタに魅了された魔物達を主人公が百花繚乱で蹴散らし、4人は階段を下りていった。
「お!宝箱がいっぱいあるぜ!!」
「待ってカンダタさん!インパス!」
ネロが呪文を唱えると宝箱が赤く光った。
「中身はモンスター。おそらくミミックね」
「なんでい!お宝じゃねえのか!」
20個程あった宝箱をインパスして、青く光った物だけを開けていったが、ラーのかがみは無かった。
「この階には無さそうね。下の階に行ってみましょう」
階段を下りると、水に囲まれた明らかに怪しい宝箱があった。
「きっとあの宝箱の中身がラーのかがみね。でもあそこに辿り着けそうにないわ」
「水深は底が見えないほど深いし、中にどんな魔物がいるか分からないし、水に入るのは危険だと思うね」
「そういや上の階に穴が無かったか?」
「あそこから落ちるの?かなり高さあるわよ」
「んー…、お!そうだ!!」
カンダタがパンツから何かを取り出した。
「カンダタさんなあにそれ?すっごいニオイ…」
「これはな、そらとぶくつってんだ!ご先祖様が言うにはこれを履いて跳べば月まで届くんだと。これならあの宝箱まで行けんじゃねーかな。よっ」
カンダタは天井に頭を思い切りぶつけた。
「いてぇーーーッ!!あーくそ!もっかいだ!」
カンダタは今度は歩くのとほとんど変わらないくらいの強さで地面を蹴ると、ふんわりと宝箱の側に着地した。
「よっしゃあ、さすがオレさま!!さーて、お宝はっと」
カンダタが宝箱を開けると、中にはラーのかがみと思われる、不思議な雰囲気を纏ったかがみがあった。カンダタはラーのかがみを手に入れるとそらとぶくつを使い3人の元に戻った。
「これで偽王さまの化けの皮が剥がせるわね!でも、私達、城に入ったらまたすぐ牢屋に入れられちゃうんじゃないかしら?」
「きえさりそうがまだ残ってるでしょ?あれを使って玉座まで行けばいいんじゃない?」
主人公達はサマンオサへ戻ると、城の前できえさりそうを使った。体が透明になった4人は城に忍び込み、玉座を目指した。玉座の間に入った途端、きえさりそうの効果が切れ、主人公達の姿が現れた。
「どうやって牢から出た!しかし戻ってくるとはバカなやつめ!この者らを牢にぶちこんでおけい!」
「くらえ!ニセモノめ!!」
カンダタは王さまの姿をラーのかがみにうつしだした。なんとかがみにはバケモノの姿がうつっている!
「見〜た〜なあ?けけけけけっ!生きて帰すわけにいかぬぞえ」
サマンオサの王さまに化けていたボストロールは主人公達に向かってルカナンを唱えた。主人公達の守備力がかなり下がった。
「これじゃあのこん棒で一発でも殴られたら致命傷ね」
「だね」
「ねんねんころりよおころりよ〜♪」
ネロは子守唄を歌った。ボストロールには効かなかった。なんとカンダタが眠ってしまった!
「え!?やだ嘘でしょ!?」
主人公がカンダタをツッコミで起こした。
「ほぎゃッ?!」
ネロの指まわし!成功すれば混乱させられるが、これもボストロールには効かなかった。
「オマエたちの遊びに付き合ってる暇はないのだが」
ボストロールはこん棒を大きく振りかぶった。
「きゃー!やばいやばい!えいっ!」
ネロの足払い!ボストロールはバランスを崩して倒れ、起き上がろうともがいている。その隙に準備を整える。主人公は風斬りの舞を踊り、カカロンを召喚。さらにボストロールに花ふぶきで幻惑をかける。リソルは魔眼開放をし、魔力を大幅に高めた。そしてカンダタのマッスルポーズ・極!4人はスーパーハイテンションになった。ボストロールが起き上がり、こん棒を振り回す。が、幻惑のせいで当たらない。
「クソ!こざかしいニンゲンどもめ!」
リソルのジゴスパーク!
「グアアアアアアッ!!」
激しい稲妻がボストロールの巨体を焼く。
「ふうん?まだ息があるんだ?」
リソルはドルマドンを唱えた!
「ぐげげげ おのれ〜」
ボストロールはそう言い残すと息絶えた。体は崩れるように消え去り、後にはへんげのつえが落ちていた。ネロはつえを布に包むと鞄にしまった。
主人公達によってニセの王さまはたおされすぐさま本物の王さまが助け出された…。そして夜が明けた!
「ふたたびここに座れるとは思わなかった。心から礼をいうぞ!そなたらはわしの命の恩人じゃ。気をつけてゆくのだぞ!…何、へんげのつえじゃと?そなたらが必要とするなら持って行くが良い!」
主人公達が玉座の前から下がろうとすると、牢で会った剣士が話しかけてきた。
「私はサイモンの息子。ゆくえ知れずになった親父をさがして旅している。うわさではどこかの牢屋に入れられたと聞いたのだが、サマンオサではなかったようだ。それはともかく、君達にお礼がしたい。どうかこの、ガイアのつるぎを持って行ってくれ」
「あら、ガイアのつるぎがあればへんげのつえは必要ないわ。王さまにお返ししてあげましょう。王さま、へんげのつえはお返し致します」
「また奪われないように気を付けなよ、王サマ」
「はっはっは。そうじゃな、気を付けるとしよう。じゃがもし奪われてしまったらその時はまた頼むぞい」
サマンオサをあとにした4人は、テドンの村の北にある火山の火口を目指して山道を登っていた。
「ぜぇぜぇ…。なあ、そらとぶくつ使っちゃ駄目か?」
「火口に落ちても知らないわよ」
「ちぇー。このくつ、力の加減が難しんだよなあ。下手するとまじで月まで行っちまうからな」
「つるぎなんか火口に持って行ってどうするのさ」
「ガイアのつるぎを火口に投げ入れると、シルバーオーブがあるほこらへの道が開けるそうなのよ」
「こーんな、魔王の城の目と鼻の先にほこらなんかあるの?」
「ふふ、今まで私の情報が間違ってた事があった?さあ、火口に着いたわね!何が起きるか分からないから皆火口から離れて。つるぎを入れるわよ」
ネロはガイアのつるぎを火口に投げ入れた。すると大きな地鳴りと立っていられないほど強い地震が発生し、火口から熔岩が吹き上がり流れ出した。熔岩は4人が登ってきた山道とは逆側の山肌に流れた。熔岩の流れた先にはほとんど垂直の岩山の上に建てられたほこらがあり、まるで満ち潮のように熔岩がほこらの岩山を囲った。そして地鳴りと地震がおさまり、熔岩が冷えて固まると、ほこらへと続く道となった!
「な…な、なんだこれは…ッ」
信じられないような現象を目のあたりにして、カンダタは腰が抜けそうになっている。リソルも驚きのあまり言葉が出ないようだ。ネロもぼう然としていたが我を取り戻すと
「さあ、行きましょう」
と言ってほこらへ向かって歩きだした。4人が熔岩の道を歩いていると、地鳴りや地震で驚いたのか、ほこらから神官の男性が顔を出した。神官は4人の姿を目に留めると驚きの声をあげた。
「なんと!ここまでたどりつく者がいようとは!」
神官は4人に歩み寄り、
「さあこのシルバーオーブをさずけようぞ!」
と言い、人間の頭ほどの大きさのある銀色に輝く丸い宝石をネロに渡した。
「そなたたちならきっと魔王をうち滅ぼしてくれるであろう!伝説の不死鳥ラーミアもそなたらの助けになってくれるだろう」
「これで全部で6つある内のオーブが5つ手に入ったね」
「おいネロ、残りの1個のオーブのありかは分かるんか?」
「ふふふ…。知ってるも何ももう既に手に入れてるのよね」
「!?」
「先日、とある筋の人から買ったの。今は私の町、ネフェロバークにあるわ」
「買っただと!?」
「皆に私の町を見てもらいたいと思っていたし、イエローオーブを取りに一緒に町へ帰りましょう」
船に揺られる事数時間、ネロが町長だというネフェロバークに着いた。町に着くなり女性が近付いてきて
「ネフェロバークへようこそ。ここはネフェロさまがつくった町ですわ。まあ!ネフェロさまじゃありませんか、おかえりなさいませ!ネフェロさま、お仕事が溜まっております!早くお屋敷へ!」
とネロを連れ去ってしまった。
「町長に案内して貰おうと思ってたんだけど…。どうする?」
「夜まで各自自由行動にしないか?オレさまはあそこの大っきな劇場へ行きたい!」
「オレは疲れたし少し町を見たら宿をとって休むかな」
「おう!そんじゃまた後でな!」
カンダタとも別れ久し振りにふたりきりになった主人公とリソル。
「武器屋でも見てかない?アンタの扇、ぼろぼろだし買い換えれば?」
リソルにそう言われ、近くにあった武器防具屋に入る。ドラゴンキラーやドラゴンシールド、てんしのローブなどなかなか良い品揃えの店だが、扇は扱っていないようだった。
「扇は無いのか…。ねえ、道具屋も見てっていい?」
そう言って隣の道具屋に入った。
「この世界はルーラストーン無いみたいだからキメラのつばさ買っとこ。あ、ぎんのかみかざりだって。アンタに買ってやるよ」
主人公は早速ぎんのかみかざりを装備した。
「へえ…意外とそーゆーのも似合うじゃん」
リソルに褒められて照れる主人公。それじゃリソルにも…と言ってモヒカンのケを買って渡す。主人公がすごくニコニコしているので「いや、こんなのいらないし」と言いたいのを我慢して受け取る。リソルは主人公からなら例え大嫌いなニンニクが入っている餃子を渡されたって突き返したりしないのだ…。
「さてと、そろそろ宿行こうか。町の入口の方にあったよね」
夜更けの裏通りは人が少ない。しかし、数人の町人達が集まって押し殺した声で何かを言い合っていた。
「……してしまうのはどうだろう?」
「しかしそれではあまりにも……」
「だがこのままでは……」
「こうなったら革命を起こすしかなさそうだ」
その内の1人が主人公とリソルに気付き仲間達に何事か囁く。
「あんたたちネフェロの連れか!止めてもムダだぜ。オレたちゃやるっていったらやるんだ!」
「ネフェロのやりかたはあんまりです!ぼくたちはもうたえられませんよ!」
「この話…他言はなりませんぞ!」
全部聞いていた訳じゃないので話が読めないが、物騒な雰囲気はふたりにも伝わってきた。
「先にカンダタを迎えに行こう」
リソルの言葉に主人公は頷き、カンダタがいるであろう劇場へ向かった。
※ ※ ※
「ヒューヒュー!」
「いいぞー!」
「うおおおお!ケイトちゃーん!」
舞台の踊り子が脚を振り上げる度に男性客の歓声があがる。これほど熱気に包まれた劇場をカンダタは今まで見た事ないなと思った。
ああ、なんで大盗賊のオレさまが大魔王討伐の旅なんかしてんだろうな。もうあいつらなんか無視してこの町に住むのも悪くねえ…。
酔っ払って眠くなってきたカンダタの耳にとある男性客の愚痴が入ってきた。
「ネフェロさまは私たち町の人間を働かせすぎる!このままでは私たちはたおれてしまいますよ」
よく知った名前が聞こえ、せっかくの酔いがさめてしまった。
「ちっ…そろそろ宿行くか」
重い腰を上げ劇場の出口へ向かう。
「おかえりですか?しめて5万ゴールド払っていただきます」
「5万ゴールドォ!?」
カンダタは酔いも眠気も完全に吹き飛んだ。
「なんだそりゃ!ぼったくりじゃねーか!」
やべぇ!てか財布持ってねぇ!
「ですがお客様…」
騒ぎになる寸前。
「おーい、カンダタ」
主人公とリソルがやって来た。
「あなたがたは…。あら?ネフェロさまのお知りあいでしたの?あららこれはこれは…。ネフェロさまのお知りあいのあなた様からはお金はいただけませんわ。どうぞ、またのお越しをお待ちしております」
主人公とリソルを見てネロの連れだと気付いたらしく手のひらを返す店員。劇場から出、少し歩いて立ち止まるリソル。
「ん?なんだ?宿行くんだろ?」
「その前にさ。なんか町長がやばいみたいなんだけど」
「ああ、オレさまもさっき劇場でネロの愚痴言ってる奴見たな」
「町長に会いに屋敷へ行こう」
ネロの屋敷は町の一番奥に建っていた。かなり立派な屋敷だ。ネロに会おうとしたが
「ネフェロさまはお休みだ。帰れ帰れ!」
と門番に追い返されてしまった。
「くそっ。明日の朝にもっかい来るか」
「何事も無ければいいんだけどね…」
町の不穏な雰囲気についてネロに話せないまま3人は宿に泊まる事になった。なんとなく騒がしい夜なのは、この町が発展しているからなのか、それとも何かが起きてしまっているのか。今日初めてこの町を訪れた3人には判断のしようがなかった。不安を抱いたまま3人はネフェロバークで朝を迎えた。
「起きたか主人公。リソルももう起きてんぞ。朝飯食いに行こうぜ」
「おはよ主人公。寝れた?」
あんまり、と首を横に振る主人公。
「だよね…。ご飯食べたらまた町長の屋敷に行ってみよう」
宿屋の朝食を食べていると、他の利用者らしき人々の声が聞こえてきた。
「ここはネフェロバークの町。しかしもうネフェロだけの町ではないのだ」
「そういえば昔この町にイエローオーブとかいう物を売りに来た男がいたそうです。ネフェロが大金を出して買ったとか…まったくムダ使いをするもんです」
ガタッと大きな音をたててカンダタが椅子から立ち上がった。
「何だか嫌な予感がするぜ。早いとこネロに会いに行こうぜ」
食べ終わった食器を返却口に返して3人はネロの屋敷へ急いだ。
「ここはネフェロの屋敷。しかし彼女は今この中にはいないぞ。ふっふっふ」
屋敷へ入ろうとする3人に兵士が言った。
「ネロは今どこにいんだ!?」
カンダタが詰め寄る。
「ついに革命が起きたんだ。ネフェロは牢屋の中さ」
「何だと!?」
「嘘だと思うなら見に行けばいい。この町の創始者の彼女が今や囚人だ」
兵士をぶん殴りたい気持ちを抑えて3人は牢屋へ走った。牢屋の看守が3人に笑いかける。
「ここは牢屋だ。本当はネフェロが悪人をとらえるためつくったそうだが…自分がいれられるとはヒニクなものよな」
リソルとカンダタに睨まれ看守は笑みを引っ込めた。
「あ…3人とも…。私はみんなのためにと思ってやったのに……やりすぎちゃったのかな……。私しばらくここで反省してるわ。そうすれば……町の人たちもきっと私のこと許してくれると思うの。そうしたらまた私に会いにきて。それと、イエローオーブは屋敷に入った正面にある椅子の後ろにあるわ。他のオーブもあなた達に渡しておくわね」
カンダタが低い声で訊ねる。
「おい…ここから出ねえのか?オレさまたちの力がありゃあ…」
「ありがとう。でも逃げることはできないわ。バラモス、倒したら絶対に会いにきてよね。いい?オーブは南のレイアムランドの祭壇にささげるのよ。そうしたら不死鳥ラーミアがよみがえるから、その背に乗ってバラモスの城へ向かうのよ」
「…それで構わねんだな?」
「ええ。よろしくね。あなた達がバラモスを倒して帰って来るのをこの町で待ってるわ」
「…分かった。じゃあ、またな」
「またね」
ネロと別れ、屋敷の椅子の後ろにあったイエローオーブを手に入れると3人は船でレイアムランドへ向かった。
「あれで良かったのかな」
「…本人がいいって言ってんだ、いいんだろ」
「人間ってほんと面倒臭いよね…」
リソルは波の音に消されそうなくらい小さい声で言った。
「がむしゃらに頑張ったって駄目なもんは駄目だ。部下を大事に出来ねぇ奴にリーダーの資格はねえ。何かを間違えてたんだろうよ。まっ、カリスマ性に溢れたオレさまには無縁な話だがな。ガキには分かんねえだろうな」
「何をどう間違えたら緑の覆面マント男になるのかなんて知りたくもないね」
「オレさまの自慢のマントにケチつけようってのか!?」
やがて3人の目の前に立派な祭壇のある、東西に細長い雪に覆われた小さな島が見えてきた。
「あれがレイアムランド…?」
「すげえ祭壇があるしそうじゃねえか?」
「誰かいる…双子?」
レイアムランドの祭壇には双子の巫女がいた。
「さあ…祭壇にオーブを」
巫女に促され、3人は6つのオーブを祭壇に捧げた。
「わたしたち
わたしたち
この日をどんなに
この日をどんなに
待ちのぞんでいたことでしょう。
さあ祈りましょう。
さあ祈りましょう。
ときは来たれり
いまこそ目覚めるとき
大空はおまえのもの
舞い上がれ空たかく!」
巫女の言葉が終わると同時に6つのオーブから上空に向かって光が放たれた。光は祭壇の真上で交わり、空中で弾けた。その眩しさはとても直視出来るものではなかった。清らかな聖鳥の鳴き声が聞こえ瞼をおそるおそる開くと、空には朝露のように光輝く不死鳥ラーミアの姿があった。
「伝説の不死鳥ラーミアはよみがえりました。ラーミアは神のしもべ。心ただしき者だけがその背にのることを許されるのです」
「さあラーミアがあなたがたを待っています」
「外にでてごらんなさい」
巫女達に言われるがままに祭壇から出ると、ラーミアが黄金の翼をきらめかせながら3人のもとへ降り立った。
ラーミアはリソルとカンダタを見、主人公と目を合わせると高らかに鳴いた。そして脚を折り曲げこちらに背中を差し出した。
「……乗れ、って事か?」
多分、と頷く主人公。
「主人公、あんたから乗ってくれ」
カンダタに促され主人公はよじ登るようにラーミアに乗った。リソルとカンダタも主人公に続いて跳び乗った。
「ついにバラモス城か!武者震いがするぜ……」
「びびり過ぎでしょ」
「武者震いだって言ってんだろが!」
不死鳥の背から見る大地は美しかった。
海や川や森の木々の葉が日の光を反射しきらきら輝いていた。
だが、不死鳥が目指す先には禍々しい空気をまとった暗雲が立ちこめていた。時折、稲光がはしる。
まだ昼のはずなのに辺りは黒いもやに包まれ見通しがきかない。
身震いのするような暗黒のもやを抜けると目の前に魔王バラモスの城が姿を現した。
城の前で3人を降ろすとラーミアは力強く鳴いた。どうやらここで3人の帰りを待っていてくれるようだ。
「不死鳥さんよ、待っててくんな!とびっきりのお土産を持ってきてやらぁ」
「アンタって威勢だけはいいんだから。ほら、早く来なよ。置いてくよ?」
「んな!?おい待ちやがれ!なんでお前はそんな親戚の家に遊びに来たみてぇな軽いノリなんだよ?!」
「……だって魔王の城でしょ?」
「はあ?!……おい、主人公も黙ってないで何とか言えって!なあ、もしかしてオレさまがおかしいのか?!オレさまがおかしいのか?!?」
カンダタは喚きながら、主人公はカンダタをなだめながら、リソルはうるさいなぁという顔でホロゴースト、じごくのきし、うごくせきぞう達をなぎ払いながら進む。
暗くて細い通路に沢山の階段。複雑な迷路のような造りの城の中をバラモス目指して進んでいく。
そうしていくつもの階段を上り下りしていくと大きな玉座のある広い部屋に出た。
空気が他のどの部屋よりもよどんでいる。
玉座にいるのはもちろん、魔王バラモスだ。
「ついにここまできたか。この大魔王バラモスさまに逆らおうなどと身のほどをわきまえぬ者たちじゃな。ここに来たことをくやむがよい。ふたたび生き返らぬようそなたらのハラワタを喰らいつくしてくれるわっ!」
「ククッ。アハハハッ!大魔王バラモスなんて聞いた事ないんだけど!雑魚のくせに大魔王なんて名乗っちゃって。身のほどをわきまえてないのはどっちかな?」
「ぐぬぬ!無礼者め!!しかもなんだおぬしは!おぬしからはわしらと同じにおいがするぞ。なぜ人間どもの味方をしているのじゃ」
「アンタみたいな雑魚に教える義理なんかないけど、そうだなあ、もしこのオレに勝てたら教えてあげてもいいよ♪ま、無理だと思うけど」
「き、貴様ァーーー!!」
バラモスが咆哮をあげた。ハラワタをえぐらんとリソルに襲いかかる。リソルは槍でガードしたが数メートル後ろに飛ばされた。
「くっ」
リソルのさみだれ突き!4回とも確かな手応えがあった。がしかしみるみる内にバラモスの傷が治っていく!
「な!?」
「がっはっは!これこそがおぬしのようなこわっぱと大魔王のわしとの格の差じゃあ!」
「へえ。少しは楽しませてくれそうで安心したよ」
「この、減らず口がァァアッ!!」
バラモスのイオナズン!はげしいほのお!メラゾーマ!
なかなかの威力だが、先ほどバラモスとリソルがお喋りしてる間に主人公とカカロンでマジックバリアやフバーハなどのバフを済ませていたのでそれほどのダメージは受けなかった。
「きぃぃぃッ!小賢しい!これでも喰らえッ!」
バラモスはバシルーラを唱えた!
えっ!と驚く間もなく主人公はどこかへ飛ばされてしまった。
「おいっ!主人公をどこへやった!?」
リソルが血相を変えて叫ぶ。
「さぁ〜?どこだろうねえ?」
くそっ!主人公は無事なんだろうな!?しかもコイツ攻撃してもすぐ回復するしどうする?焦るな落ち着け!考えろ……。
「おやおや、先刻までの余裕はいずこへいったのやら。ふぉっふぉっ、楽しくなってきたではないか。もっとわしを楽しませておくれ」
バラモスの魅了の舞!
リソルは無視をした!
カンダタはバラモスに魅了された!
「げ」
「はっはっはっは。わしが手を出すまでもない。おぬしら味方同士でたわむれているがよい」
カンダタのマッスルポーズ・極!
カンダタとバラモスはスーパーハイテンションになった!
カンダタのマッスルポーズ・極!
ミス!
カンダタとバラモスはすでにスーパーハイテンションだ!
「……この覆面男はなぜおぬしらとおるのじゃ?何の為に来た?……まあよい。しかたない、わしの手で葬ってやろう。せっかくおぬしの仲間にスーパーハイテンションにしてもらったのだ。有効活用しなくてはな。安心せい、ふたり一緒に逝かせてやろうぞ」
バラモスのイオナズン!
「しまった!!ぐわァアアッ!!!」
なんと、スーパーハイテンションで唱えたイオナズンの威力が強過ぎて天井が落ち、バラモスは瓦礫の下敷きになってしまった!
リソルは咄嗟に階段へ避難し無事だった。
「はー、危なかった……」
バラモスは息絶えただろうか?そしてカンダタは……。
「おい、リソル!!よくもオレさまを置き去りにしたな!!」
カンダタが瓦礫の山から這い出てきた。
「だってアンタ、オレに殴りかかってきそうだったじゃん」
「こちとら魅了されてっから自分の意志で動けねえってのによ!まったくひでぇやつだぜ」
「ていうかなんでピンピンしてんの?」
「オレさまの自慢のボディをその辺のやつらと一緒にしないでくれよな!こんなもんじゃ傷ひとつ付かねーぜ!」
「どういう体してんの……。アンタ本当にただの人間なの?」
まあ、カンダタが無事って事は……。
「ゲホゲホッ!グォアアアアッ!!」
やっぱり、こちらさんも生きてる、か。
大分弱っているようだ。だが例の回復能力がある。すぐにまた再生してしまうだろう。
それならば再生出来ない様に……。
カンダタのマッスルポーズ・極!
リソルとカンダタはスーパーハイテンションになった!
「いくぞ、リソル!」
リソルのジゴスパーク!
「ぐわァァァアアアッ!!!」
スーパーハイテンションで放ったジゴスパークでバラモスの体を雷撃で灼き尽くす。
「おりゃああああッ!!」
カンダタは思いっ切り斧を振りおろした。
「グァアアアアアアアアアアッッ!!!」
スーパーハイテンションで振りおろされた斧はバラモスの体を真っ二つにした。
「ぐうっ……お…おのれ……わ…わしは……あきらめ…ぬぞ…ぐふっ!」
リソルとカンダタはバラモスを倒した!
真っ二つになったバラモスの体は地に落ちる前に暗黒のチリになって崩れ消えた。
床にはバラモスの着けていたネックレスだけが残っていた。
「こりゃ魔王のネックレスか。倒した証に持ってくか」
カンダタはそう言うとネックレスを懐にしまった。
その時クアーッと鳥の鳴き声がした。
2人が上を見上げると崩れ落ちた玉座の間の天井から聖鳥ラーミアに乗った主人公がやって来るのが見えた。
「おお、主人公!無事だったか!」
主人公はバラモスにバシルーラで城の前へ飛ばされ、急いでまた玉座の間に向かったが、バラモスがスーパーハイテンションでイオナズンを唱えた際に目の前の通路が崩れて塞がれてしまったので聖鳥のもとまで戻りこうして飛んできたのだった。
「魔王は倒したぞ!早くネロに自慢してやろうぜ」
3人は聖鳥でネフェロバークへ向かった。
「ネロはまだ牢屋ん中か?」
「だろうね」
3人が町に入ると人々の問いたげな視線に囲まれた。
「ああ、バラモスを倒せたのか気になんのか。さっきの見せてやっか」
カンダタが魔王のネックレスを掲げると、ネフェロバークが人々のどよめきに溢れた。
「あれは魔王のネックレス!?」「ま、まさかあいつらが!」「なんてこった」「すげー!!」「これで……、これで平和がやってくるのじゃな……」「わーいわーい!」「もう魔王バラモスはいなくなったんだよねっ。これで魔物もいなくなるのかなあ。そしたら外へ遊びに行けるのに」
人々の喜びようを見てカンダタの顔も思わずほころぶ。
「へへ。こんなんオレさまの柄に合わねえや。ケツの穴が痒くなってくらあ」
3人はネロの待つ牢屋に着いた。
「バラモスを倒したのね?町の人々の歓声がここまで聞こえてくるわ。あなた達、本当にすごいわ!一緒に戦えなかったのは残念だけど。でも私なんて必要無かったのね……」
「オーブを集められたのは町長のお陰だよ。アンタがいなかったらオレ達は魔王の城まで辿り着けなかったさ」
「ふふ、優しいわね。ありがとう。お礼にお祝いでもしてあげたい所だけどこれじゃ、ね」
ネロは目の前の鉄格子に手を伸ばして無念そうに言った。
「オレさまたちが出してくれって頼んだら出してくれんじゃねえか?」
「どうかしらね……。出来れば皆が私の事許してくれてから出たいわ。とにかく、おめでとう、3人とも。お疲れ様。魔王を倒したなら主人公さんとリソルくんは元の世界に帰るのね」
「ああ。今までと同じなら帰れるはず」
「ふたりとも、自分達の住む世界じゃないのに命懸けで戦ってくれてありがとう。カンダタさんも無理矢理同行して貰ったのにここまで付き合ってくれてありがとね」
「まったくだぜ!まあでも魔王がいたらお宝探しもやり辛えからな。これでまたオレさまはお宝探しに行けるってもんだぜ」
「ふふっ。……きゃっ!?」
突然、薄暗い牢屋がさらに暗くなった。今まで聞いた事が無いほど大きな地鳴りがして世界が壊れるかのような地震が発生した。外からは激しい落雷が降り注ぐ音と悲鳴が聞こえる。
「わははははははっよろこびのひと時にすこしおどろかせたようだな。わが名はゾーマ。闇の世界を支配する者。このわしがいる限りやがてこの世界も闇に閉ざされるであろう。さあ苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしのよろこび……。命ある者すべてをわが生けにえとし絶望で世界をおおいつくしてやろう。わが名はゾーマ。すべてをほろぼす者。そなたらが生けにえとなる日を楽しみにしておるぞ。わはっわはっわはっわはっわはっわはっ…………」
ふたたび大地が揺れ、元の明るさに戻った。
「な、なんなんだ今のは!?」
立ち上がりカンダタがわめいた。
「ゾーマ……?バラモスの他にも魔王がいたっていうの?そんな……」
主人公がリソルを見ると真っ青な顔をしていた。
「大魔王ゾーマ……!?オレ達はあんなバケモノを倒さなきゃいけないのかよ……」
気のせいか声が震えている気がする。
「嫌なにおいがする……。さっきの落雷でもしかしたら……」
その言葉にハッとして地震で壊れた牢屋から飛び出すネロ。
「……あ……ああ……あ……み……皆、まさか」
町は落雷による火災で火の海だった。
なんという皮肉か、牢屋だけが頑丈な造りゆえ唯一無事だったようだ……。
おそらく生き残った人間はいないだろう。
町の人々の名前を呼びながら助けに行こうとするネロをカンダタが腕を掴んでひきとめる。
「ここは危ねえ!安全な場所へ避難するぞ!」
「待って!きっとまだ誰か生きてるわ!助けなきゃ!」
「お前も死んじまうぞ!」
「離して!離して!離してよおおおお」
暴れるネロを引きずるように海辺まで避難させた。
「……ゾーマ……絶対に許さない……!私の手で必ず倒してやる」
「……いや、悪いけど正直町長には倒せないよ……。大魔王ゾーマは本当に強い。バラモスとは桁違いだ。主人公とオレがいても勝てるかどうか分からない」
「う……うああああッ!!」
ネロはやり場のない怒りに叫び、悔しさで涙を流した。
「……大体さ、アンタは町の人達に牢屋にいれられたんだよ?それなのになんで仇をとりたいなんて思うわけ?」
「……前にも話したじゃない。私にとってネフェロバークは我が子のようなものだって。我が子だからって私は甘え過ぎていたんだわ、きっと。だからね、もう一度、やり直し……やり直したかった、のに」
ふーん、とリソルは「やっぱり人間の考える事って理解出来ないな」と思った。
カンダタはその様子を見て
「お子様には分かんねぇだろなぁ」
とわざとらしく肩をすくめた。
リソルは言い返す気にならず、カンダタをひと睨みした。
「……私……になるわ……」
「ん?」
「私、賢者になるわ!」
「アンタ生粋の商人じゃん。商人が賢者なんかになれんの?」
「さとりの書を持ってダーマ神殿へ行けば誰でも賢者になれるって聞いた事があるわ!賢者になってゾーマをこの手でぶちのめしてやるわ!」
「誰でもって事はこのオレさまでもなれんのか?」
「そのはずよ」
「アンタは流石に無理じゃない?呪文覚えられんの?」
「馬鹿にすんなよ!オレさまだってベホマーラくらい知ってるぜ」
「ベホマラーでしょ。で?さとりの書とやらは持ってるの?」
「ふふん、舐めないでちょうだい。持ってるわ。いや〜、これも高かったのよねぇ……」
「町長が税金の無駄遣いしたらまずいでしょ」
「無駄じゃないし!魔王を倒す為に買ったのよ。これはポケットマネーから……いや、どうだったかしら?魔王討伐費から出したんだったかしら……」
「やれやれ……」
そんな訳で主人公達はダーマ神殿へ向かった。
「おお!これはさとりの書!。ではおぬし達の中の誰が賢者になりたいと申すか?」
「なあ!本当にオレさまでも賢者になれんのか?」
ネロと神官の間に身体を割り込ませるカンダタ。
「根っからの盗賊のそなたが賢者に転職したいと申すか!?まあそれはそれで面白い事になるかもしれん。やってみるがいい」
「ちょっとカンダタさん!?すみません神官様、私が賢者になりたいんです」
「おお!凄腕の商人のそなたが賢者になると申すか。ふむ、そなたならかしこさがそこそこあるようだし。魔力はちょっとあれだがさとりの書さえあれば問題ない。では目を閉じて祈りたまえ」
ネロは商人から賢者に転職した!
「やった!これでゾーマをボコボコに……ってえ!?やだレベル1!?」
「そうとも。初めての職業だからな。いちから経験を積むのだ」
「え〜!?うそでしょ〜……」
「他に転職したいと申す者はおるか?」
お願いします、と主人公が進み出た。
「ほう、そなたは今……てんちらいめいし?聞いた事ないぞ。それで……まけんし、になると?まけんしとはなんだ……?え?いつもダーマで転職してると?……ええい、ここもダーマ神殿だ!やってみようではないか!さあ、目を閉じて祈りたまえ」
主人公は天地雷鳴士から魔剣士に転職した!
「おお!出来たか!まさしく何事もやれば出来るという事だな。さあ新人の賢者のそなたも頑張りたまえよ!」
※ ※ ※
「しっかし大魔王とやらはどこにいるんだ?」
「特大の禍々しい気配のする方へ向かえばいいんじゃないの」
「そんな気配とか分かんのか?」
「まあね。ていうかこんなに強い気配なのに感じないって方が驚きなんだけど」
「で?その気配はどこからするんだ?」
「それがどうも下……地下からなんだよね」
「地下?そういえばギアガの大穴は下界と繋がってるなんて噂を聞いた事があるわ」
「そんじゃギアガの大穴に行ってみようぜ」
「その前に願いを叶えてくれるという竜に会ってみたいわ。私のレベルを限界まで上げて下さいって頼んでみようかなって」
「そんな凄い竜にそんなちっさい願い事を?」
「ゾーマに勝てるならなんでもいいの。あ、ゾーマを倒して下さいってお願いすればいいのね」
「そんな竜が存在するのか信じられないけど、町長の言う事だし探してみようか」
※ ※ ※
神鳥の背に乗りネロの言う方へ。
標高が高く空気の薄い人気のない、というか人では辿り着けないであろう山の中に美しい大きな白い城があった。
「ここ……か?」
「多分……。場所や見た目も噂通りだし……」
「オレ達場違い感半端なくない?特に緑の覆面の人とか」
「うっせー!そんならオレさまは留守番してるぜ」
「大丈夫?この辺の森、大蛇とか獅子とか普通に住んでそうだけど」
「……い、一緒に行こうぜ。オレ達仲間だもんな、な、な!」
城に入るとやはり人間はおらず、ホビットやエルフ、馬などが片手分に満たないくらいの数しかいないようだった。
「ここは天界に1番近い竜の女王さまのお城です」
「うおッ!?馬が喋った!?」
カンダタが驚いて飛び上がる。
「カンダタさん、大声出さないで。ええと、こんにちは」
ネロは近くのホビットとエルフに自分達の紹介をした。
「おいたわしや……。女王さまはあといくばくかのお命だとか……。女王さまはご病気なのだ。しかしお命とひきかえにタマゴを産むおつもりらしい」とホビット。
「あんな弱ったお体でタマゴを産むなんて……。女王さまが心配ですわ」とエルフ。
「あら……。お取り込み中だったかしら。手短にご挨拶だけなら大丈夫かしら……」
ホビットもエルフも止める様子はないので主人公達は竜の女王に会う事にした。