リソ活♡

毎日リソルまみれ

新職業?

「ねえリソル、バージョン7の新職業ってなんだか知ってる?」

「知らないし興味無いしバージョンって何の話?」

「えー知らないんだ〜。マッサージ師だよ。(※嘘です)」

「あっそ。」

「あのね、こーゆー感じ。」

 そういうと花嫁はリソルの手を掴み、何かを塗りだした。

「いきなり何?」

 それは油分を含んだ何かのようで、滑りがよくなるらしく、花嫁はリソルの腕をなめらかにぎゅうー、むにむにーっと手で引きながら絞り始めた。

 その後も指先でぐっと押したり手でわしっと掴んだりぐるぐると撫でたり細かく叩いたりぶるぶる揺らしたり。

 リソルの指をぐるぐるとなぞってぎゅっぎゅと挟んだりぬるぬるしごいたり。

「……。」

 何だか指じゃなくて違うものを想像しそうになる。

 花嫁はリソルと恋人繋ぎをすると、そのまま自分の手のひらをリソルの手のひらにぱかぱかぱかぱかと打ちつけだした。始めはゆっくり、次第に早く激しく。段々ゆるめて。それを三度繰り返す。

「待っ……え?ちょ、何。」

 こ、これは……!?

「はい、おーわり!」

 呆気にとられているリソルを花嫁はくすくす笑いながら。

「もうすぐマッサージの指名の時間だから行くね!じゃあね!」

「ちょっと待って!?それ本当に普通のマッサージ!?相手は男!?ねえ!!」

 不思議の国のアリスのチェシャ猫のようなニヤニヤ笑いの残像を残して花嫁はルーラストーンで消えた。

「どうしてくれるんだよこれ……。」

 リソルは溜息をついた。

 

 

 

 

フウキ委員怪談せよ!

セミが……鳴いてる?

いや、暑過ぎてセミすら鳴いていないかもしれない。

そんなあつ〜〜〜〜い夏を涼しくするものと言えば?

 

「そう……怪談よ!」

 

「シュメリア先生、突然どうしたんですか!?」

 

急に大きな声で独り言を発するシュメリアに驚くミラン

 

「ボケが始まっちゃったんじゃない?」

 

「そうそう、歳を取るとどうしてもね……ってまだそんな歳じゃないわよ!いつも通り失礼ね!リソルくん!」

 

「まあまあ。それで、階段がどうかしたんですか?」

 

「ほら、夏といえば水遊びに花火に……。色々フウキの皆で楽しんだじゃない?でもまだ怪談はやってなかったなって」

 

「ああ、そちらの怪談でしたか」

 

「今度、夜に皆で集まって怪談をやりましょう!許可は先生が取るわ!」

 

「良いじゃねえかシュメリアちゃん!」

 

「アイゼルは好きねそーゆーの。あたしは苦手……」

 

「タヌキ先輩大丈夫?トイレついて行ってあげようか?」

 

「安心して下さい、クラウンさん!オバケなんて私のオノで真っ二つにしますから!」

 

「オバケに同情するよ」

 

「かいだん……?」

 

「オバケの話をするのじゃよ。怖い話を聞くと鳥肌が立つくらい涼しくなる……のかの」

 

「じゃあ、メルジオルの話する!」

 

「こらラピス、わしをオバケ扱いするでない!」

 

「ふふ。フウキ委員、今夜7時に旧校舎の空き教室に集合せよ!」

 

 ※ ※ ※

 

その日の夜7時、旧校舎の空き教室。

部活動も終わり広大な学園の敷地内にはほぼ誰もおらず真っ暗で静かだ。

埃っぽい空き教室にフウキ達の立てる物音だけが響く。

 

「そういえば私、霊感が無いのでオバケが見えないかもしれません。クラウンさん、もしいたら教えて下さい」

 

「あたしだってオバケなんか見たくないよー!あーん、帰っちゃおうかな」

 

クラウンはフランジュに引っ付いている。

 

「今帰るならタヌキ先輩1人で帰る事になるよ?旧校舎も確か出るんじゃなかったかなー、オ・バ・ケ。ククッ、寮まで無事に帰れるといいけど」

 

「リソルくんの意地悪ー!」

 

「リソルくん、その辺にしてあげなさい。主人公さんは用事があって来れないそうよ。さあ、全員揃ったし始めましょう。フウキ委員、怪談せよ!」

 

 

「俺からでいいか?生徒会のOBから聞いた面白い話があるんだ」

 

「OBから、というのがリアルですね。お願いします」

 

ミランはアイゼルの方へ身を乗り出した。

 

武道場の倉庫には絶対に2人以上で入れって言われてるだろ?それはな、まだ学園が出来て間もない頃、1人の女の子が部活終わりに倉庫で片付けをしていたらな、まだその子が残っている事に気付かずに鍵を閉められてしまったんだと。そしてそれが運の悪い事に長期休暇の前でその女の子はそのまま……」

 

「あの、クラウンさん、腕を握られているといざという時オノが振るえません」

 

「出る前提なの!?」

 

「それからは倉庫から『助けて』って声が聴こえるようになったって噂だ。んで、それから何十年も経った頃、そうした事件を何も知らない女の子がまたしても1人で武道場の倉庫で片付けをしていたんだそうだ。ただ、倉庫の鍵はその女の子が持っていたらしい。ところが!」

 

「クラウンさん、あの、爪が食い込んで痛いです」

 

「ごめんねフランちゃん!」

 

「カチリ、と音がしてひとりでに鍵が閉まってしまったんだ。女の子は驚き持っていた鍵で開けようとしたが何故かどうしても開かない……。」

 

「痛いですクラウンさん」

 

「ごめん!」

 

「なんと、数十年の間に悪霊になった女の子が鍵が開かないように押さえていたんだ」

 

「きゃーーーー!!」

 

「痛っ!つねらないで下さい!」

 

「幸いにも、女の子が鍵をまだ返しに職員室へ来ていない事に気付いた先生が様子を見に来てくれて女の子は無事に救出されたそうだ。そんな訳で今でも武道場の倉庫は1人で片付けるなと言われているらしいんだ」

 

「悪霊、やっつける!」

 

ラピスが立ち上がった。

 

「今!?」

 

「これは怪談だし、本当だとしても倒しに行くのは後にしようラピス」

 

「そうそう落ち着いてラピスさん。まあ、それほどアイゼルくんの怪談が上手だったって事ね。次にやりたい人はいるかしら?」

 

「では僕が。昔、アストルティアのどこかの砂漠の王国の王子様が、夜な夜な城をこっそり抜け出して城下町で身分を隠して遊んでいたんだ。そんなある日、王子は城下町でブラックレディと呼ばれる、ベルベットのような腰まで届く黒髪に黒い肌、夜空のような漆黒の瞳で黒いドレスに身を包んだ美しい女性に出逢った。ブラックレディは始め、全く王子に見向きも返事もしなかったが、毎晩毎晩あの手この手で気を引こうとする王子のあまりの熱意に根負けし、徐々に心を開いていった。ついに王子が身を明かし、ブラックレディにプロポーズをすると、なんとブラックレディはそれを受け入れた。しかし、王子が喜びいっぱいにその件を王に報告すると、王は『そんな雑草のような女との結婚は認めない。お前はこの国の繁栄の為にも隣国の姫と結婚するのだ』と、反対されてしまった。それならばと王子は駆け落ちしようとひとりブラックレディの元へ向かうが、そこには息絶えたブラックレディの姿があった。ブラックレディは王子をたぶらかした庶民の女として王様に暗殺されたのだった。王子が泣きながらブラックレディを抱き上げると、下から現れた真っ黒なサソリが逃げていった。それからというもの、王族が砂漠に近寄ると黒いサソリに襲われるようになったという。王族しか襲われないのは、そのサソリがブラックレディの生まれ変わりで、王族の事を恨んでいるから……と城下町の人々の間で噂されているそうな」

 

ミランくんのお話、全然怖くなかったわ」

 

「どうしてです?」

 

「おどろおどろしい場面も無かったし、あたしは王族じゃないから襲われる心配無いもん」

 

「ああ、僕はこの話を聞いた時とても怖かったのですが、そうですよね。なるほど」

 

「サソリ……おいしい?」

 

「食用ともされているようじゃが毒があるし危険じゃ!捕まえようとしてはいかんぞ!」

 

「そうよラピスさん。はい、次は誰が挑戦する?」

 

「聞いてるだけじゃつまんないし、オレの話も聞かせてやるよ」

 

「じゃあリソルくんお願いね」

 

「ベルヴァインの森の奥深く、夜の一番深い時間になるとフードを被った白いローブの人影が現れるんだ。それが毎年決まったある1日だけ、赤くなる。なんでだと思う?」

 

「着替えたんじゃねえか?」

 

「別の人なんじゃない?」

 

「その日だけ特別なんじゃないでしょうか?お祝いとか」

 

「何か知らせたい事があるんじゃないか?」

 

「赤い月が照らす……?」

 

「魔界とて月は赤くないじゃろう」

 

「がっかりナデシコが惜しかったね。お祝いじゃなくて命日。その魔道士が殺された日になるとその時の血でローブが真っ赤に染まるんだ」

 

「っ!」

 

「赤いローブの魔道士を見た者は、その日家に帰ると家の中が血だらけになっているんだ」

 

「ひっ」

 

「うわ」

 

「だから魔道士の命日には森に入らない方がいいよ。まあ、呪われる訳じゃないけどね」

 

「わー、リソルくんしっかり怖いじゃない!やめてよ!」

 

「僕たちは魔界に行かないだろうけど、主人公にはその魔道士の命日を教えてあげておいた方が良いんじゃないか?」

 

「気が向いたらね」

 

「え、やだ本当の話なの!?」

 

「うふふ、リソルくんも上手ね。さて、まだやりたい人いるかしら?」

 

「はい!私にやらせて下さい!」

 

「どうぞフランジュさん」

 

「ええと、これは師匠と依頼を受けながら各地を転々と旅していた時の話なのですが。ある晩、野宿で師匠は先に眠りについていて、私だけなぜだか寝付けない日があって。そうしたら森の中からガサガサと音を立て盗賊が現れたんです。師匠を起こそうとしましたが全く目を覚ましてくれなくて、私がひとりでオノで追い払いました」

 

「盗賊もアンタにはさぞかしびびっただろうね」

 

「朝になり目的の村に着きその盗賊の話をすると、皆さん大変驚かれました。その盗賊は前に村で盗みを働いたそうなのです。そして村人に見つかり逃げている際に崖から転落して亡くなってしまったと。村の皆さんの話によると、私達が昨晩休んだ場所がその崖の近くだったらしいので、霊として現れたのではないかとの事でした。この話を聞いた村の神父さんが崖でお祈りをして下さったので今はもう出ないそうです。いかがでしたか、私の怪談」

 

「フランちゃんの頼もしさが増したわ」

 

「だな。フランジュ、お前すげえな」

 

「怖くはなかったですか?」

 

「フランジュ、かっこいい!」

 

「うむ、それほど怖く感じなかったかの」

 

「やはりもう少しオノさばきについて説明した方が怖かったでしょうか!?」

 

「そこじゃないから」

 

「フランジュさん、オノさばきは説明して貰わなくても目に浮かぶわ。さあ、次話したい人はいるかしら?」

 

「じゃああたしが。前ね、こんな事があったのよ。その日は美術の授業で絵を描いていたの。でもあたし、あんまり絵を描くのって得意じゃなくて。授業だけだと提出期限に間に合いそうになかったから持って帰って寮でも描こうと思ったの。秋だったから日没が早くて美術室に向かった時はもう真っ暗だったわ。校舎内に人もあまりいないし。あたしの靴の音がやたら大きく聞こえた。それでね、美術室に着いて明かりをつけたらね、部屋にあった彫像がゴゴゴゴって音をたてながらあたしの方を向いたのよ!あたしは悲鳴をあげて逃げた。勿論絵は期限に間に合わなくて最低の評価がついたわ」

 

「クラウンわりぃ。それ俺だわ」

 

「え!?」

 

「去年の秋だろ?俺、美術部の奴からコンクールの手伝いしてくれって頼まれてて放課後に彫ってたんだ。急に明かりがついたと思ったら女の悲鳴がしてあの時は俺もびっくりしたぜ」

 

「なんだ、アイゼルだったの!?明かりくらいつけなさいよね!」

 

「夢中でやってたらいつの間にか暗くなっててよ」

 

「あらあら。残るはラピスさんね。何か良いお話は見つけられたかしら?」

 

「夏……夜の旧校舎。まっくら、だれもいない。わたしたち以外。だれかが走ってくる」

 

ばたばたと廊下から誰かがこの部屋に向かって走って近付いてくる音がする。

 

「現在進行形の怪談かよ!?」

 

「やだこれオバケなの!?嘘でしょ!?」

 

「クラウンさん任せて下さい!私が斬ります」

 

「オバケって斬れんの?」

 

足音はこの部屋の前で止まった。そして扉が勢い良く開かれる。

 

「ハアッ」

 

フランジュがオノで斬りかかる。

 

「うわッ!?」

 

フランジュのオノはよけられた。

 

「あ、れ?」

 

フランジュは二撃目を振るおうとして動きを止めた。

 

「主人公さん!?」

 

主人公がフランジュのオノをよけ尻餅をついていた。

 

「斬りかかってすみません主人公さん!今日は来れないはずじゃ?」

 

「用事が早く済んだから急いで来たんだ。皆に会うの久し振りだし」

 

「そうですよね、お久し振りに会えて嬉しいです!あああ、本当にすみません!」

 

「連絡してなかったし驚かせちゃったよね。ごめん。でもまさか斬られるとは」

 

「アンタが変なタイミングで来るからだよ」

 

「主人公さんも怪談する?」

 

「是非!その為に来たんですよ。ではいきますね。学校の怪談……もとい学校の階段は、段数がいつもより多ければそれは最後の余分な段が死体だとか、逆に少なければ異世界に踏み入れてしまうだとか噂があるそうですね。先程、この旧校舎の2階は空き教室に来る途中に階段をのぼったんですけど、本当なら30段のぼって踊り場があってまた30段なんですけど、30段のぼって踊り場の後、29段しかなかったんですよね。急いでたから数え間違えたのかもしれないんですけど」

 

「気付いてしまったのね。可哀想に」

 

シュメリアのメガネが光った。

 

「え?」

 

「黙っていれば無事に帰れたかもしれないのに……。フウキ委員、主人公さんを異世界の住人にせよ!」

 

リソルが指をパチンと弾くと教室の扉にカチリと鍵がかかった。

 

「えっえっ……うわあーーーー!!!」

 

アイゼルが主人公の右腕を、ミランが左腕を、クラウンが右脚を、フランジュが左脚をロックした。

ラピスの長い毛髪が主人公の首に絡みつき絞め上げる。

 

「う、ぅぐう」

 

喉がしまり声が出せない。

意識が遠のく主人公が諦め目を閉じようとしたその時。

 

「なあんちゃって〜!皆、もう良いわよ!」

 

主人公を捕らえていた全ての力が解かれた。

 

「……?」

 

「じゃじゃーん!」

 

混乱する主人公の目に入るメルジオルの持つ「ドッキリ大成功!」の看板。

 

「????!」

 

「少しやり過ぎたのではないか?声も出せぬようじゃぞ?」

 

「ちゃんとメルジオルで練習した」

 

「わしは首が無いからのう。加減が違ったかもしれぬの」

 

まだ訳が分からない様子の主人公にシュメリアが説明する。

 

「ごめんなさいね。主人公さんが全然私達に会いに来てくれなくて寂しいからリソルくんが懲らしめてやろうって」

 

「そんな事言ってないから!」

 

「主人公さんはがめついから怪談の最優秀者にはマイタウンメダル500枚贈呈って言えば死んでも来るからってリソルくんが」

 

「先生のくせにそんな嘘ばっかついて良い訳!?」

 

「ええ……!?じゃあマイタウンメダルが貰えるっていうのは嘘ですか?!」

 

「そうよ。ごめんね」

 

がっかりする主人公。

 

「巨大化してさっさと宇宙人片付けてきたのに……」

 

何かブツブツ言っている。

 

「ごめんな主人公。リソルが寂しかったみたいだぜ。まあ、俺も寂しかったけどな」

 

「うるさい脳筋

 

「ごめん主人公。リソルに頼み込まれて仕方なく手伝ったんだ。でもアストルティアの偉大な冒険者のキミのこんな驚く顔が見れて楽しかったよ」

 

「王子サマも楽しんでんじゃん」

 

「ごめんね主人公ちゃん!リソルくんが痩せる薬くれるって言うから。本当に効くのかなぁ?主人公ちゃんも飲んでみる?」

 

「自分で使うっていう約束は破らないでよ?タヌキ先輩?(タヌキに変化する薬だからね。ククッ)」

 

「はいはい。お姉さんは可愛い後輩との約束はちゃんと守りますよ」

 

「主人公さん……この度は汚い手を使って申し訳ありませんでした!リソルさんにどうしてもと頼まれまして。今度は正々堂々真っ向からお手合わせしましょう!」

 

「がっかりナデシコに頼むのが一番大変だったんだよ……」

 

「主人公ごめん。次、リソルにやる?」

 

「ラピスがリソルにやり返すかと提案しておる。いいのかラピスよ?リソルからいっぱいお菓子を受け取っておったじゃろう?」

 

「メルジオル言っちゃだめ!」

 

「ったくドラキー女め。マカイマカロンをあれだけ発注するのどれだけ大変だったと思ってるんだ」

 

「は、はは……」

 

アストルティアを救う為になんやかんややった後にこれだったものだから(バージョン6.5前期)どっと疲れに襲われ主人公は床に倒れ込んだ。

 

「主人公!?」「主人公さん!?」「主人公ちゃん!?」

 

遠のいていく意識の中で主人公は心に固く誓った。

リソルに二度と寂しい思いをさせまいと。

(こんな目に遭うのはもう懲り懲りだよ!)

 

             ★おしまい★

リソルと死の腕(かいな)②

ホビットとエルフがいた部屋からさらに奥の部屋に進むと女王とおぼしき竜がいた。

「私は竜の女王。神のつかいです。もしそなたらに魔王と戦う勇気があるのならひかりのたまをさずけましょう。このひかりのたまでひとときもはやく平和がおとずれることを祈ります」

主人公はひかりのたまを受け取った!

「生まれ出る私の赤ちゃんのためにも……」

「…………………………………」

女王はタマゴを産むと静かに息を引き取った。
主人公はそっとタマゴにさわってみた……。やすらかな寝息が聞こえたような気がした……。

女王の部屋を出ると、把握した様子で

「タマゴは私たちが大事に育てていきますわ」とエルフが、

「おいたわしや女王さま!ついに女王さまはお命とひきかえにタマゴを。ああ女王さま!」とホビットが言った。

「私達、大変な時にお邪魔してしまったのね。さあ、行きましょう」

主人公達は竜の女王の城を後にした。
聖鳥に乗りギアガの大穴へ向かう。
ギアガの大穴の側で混乱し冷静さを失った様子の兵士が主人公達に話しかけてきた。

「大変だ!ものすごい地ひびきがしてひびわれが走ったのだ。なにか巨大なものがこの大穴を通っていったようなのだ!そして私のあいぼうがこの穴に……ああ!」

穴は漆黒で満たされていて落ちたらどうなるのか全く分からなかった。
ただ、禍々しい気配は感じる。

主人公はごくり、と唾を飲み込んだ。

漆黒を見つめ意を決した様な顔の主人公を見て兵士がさらにパニックになった。

「お、おいまさかキミ!え?アンタ達も!?」

主人公が飛び込みリソルも続く。

「あ!?え!?なんで!?うわわわ」

「よ、よし、私も!」

ネロも飛び込んだ。

「ひっ……」

「くそっ!ここまできたらもうどうとでもなりやがれ!」

カンダタも。

「うわあああ!?」

見ていた兵士は半狂乱だ。

「ア、アイツら正気じゃない……」

※ ※ ※

「おや?またお客さんか。そうか!あんた達も上の世界からやってきたんだろう!ここは闇の世界アレフガルドっていうんだ。おぼえておくんだな」

「ここから東に行くとラダトームのお城だよ。あのね、父さんが船なら自由に使っていいって」

とんでもない高さから落下したはずなのに無事で、しかも主人公達を見つけた親子から船まで頂いてしまった。
もしかしたら人生の幸運を全て使い切ってしまったかもしれない。

「……なーんて、ゾーマを倒すまでに使い切っちゃこまるんだけどね。それにしてもここは一体何なのかしら……」

この世界の黒く淀んだ空と海と大地を見ていると気分が沈んでくる。

「安心して。主人公とオレ、この世界に来るの3回目だから」

「え!?」

「はあ?!なんだって?!」

「さっきの親子の話が本当ならだけど。……ああ、でもやっぱり……ラダトームの城だ。間違いないよ」

親子から借りた船から遠くの方に小さーく見えてきた城を見てリソルは言った。

「ど、どういう事??」

「そんなのオレだって知りたいさ。なんで3回もここに連れてこられてきたのかさ」

ラダトームの城下町に着くと上の世界で見てきた誰よりも暗い顔をした人々の姿が目に入ってきた。

「魔王は絶望をすすりにくしみを喰らい悲しみの涙でのどをうるおすという。われらアレフガルドの人間は魔王にかわれているようなものなのか……」

そばにいた剣士の男がぼそぼそと独り言みたいな声で呟くように言った。

「この世界にいるとここのやつらみたいに覇気が無くなっちまいそうだな」

「そうね……あまり長居はしたくないわね。うーん、お城に行ってみましょうか。王様もあんな感じなのかしらね」

とりあえず城の兵士に話を聞いてみる。

「この国は精霊ルビスさまがつくったと聞きます。しかしそのルビスさまさえ魔王の呪いによって封じこめられたそうです」

「ルビスって確か前に聞いた事あるよね?」

リソルの言葉に主人公は頷いた。

「私達の世界では多分聞いた事ないわ」

「だな。ねえな」

玉座の間に着き、主人公達は王様と大臣にゾーマを倒しに来たと説明する。

「これまであまたの勇者が大魔王をたおさんと旅に出た。しかし帰ってきた者は誰もおらぬ」と大臣は深い溜め息をついた。

「うん?見ぬ顔じゃな。そうかそなたらもまた上の世界から来たと申すか。わしがこの国の王ラルスじゃ。わしの所に来るまでに人びとの話からおおよそのことは聞きおよんでいるであろう。もはやこの国には絶望しか存在せぬ……。しかしもしそなたらが希望をもたらしてくれるというなら待つことにしよう」

王様は力無く4人に言った。

皆と一緒に王様の面前から下がろうとした時、リソルはある事を思い出した。

「そうだ。ねえ王様、このラダトームの城にさ、たいようのいしってヤツ、ない?」

「はて?たいようのいし?そんなものあったかのう?ふーむ。ああ、もしかしたら城の地下にあったかもしれないのう。そなたらが大魔王を倒すというのなら持って行くがよい」

玉座の間を出、城の地下に心当たりのある様子の主人公とリソルについて行くネロとカンダタ

「あら、こんな所に階段が?」

「ほう!いかにもって感じだな!」

だがしかし。

「なに?たいようのいし?そんなものはここにはないぞ」

いかにもお宝がありそうな地下室のいかにもお宝の番をしてそうな老人の口から「無い」と言われてしまった。

「はあ!?嘘でしょ!?ねえ主人公、ここだったよね?!」

うんうんと力を込めて頷いたが無いと言われた以上ここにいても仕方ない。

「お城の人に訊いてみたり他の部屋も探してみましょ」

4人で手分けして探すが一向に見付からない。城の者も皆知らないと言う。

「本当にこの城の中にあんのか?あー、腹減っちまったぜ」

お腹が空いたカンダタは食べ物の匂いにつられて城の台所へやって来た。

「なあ、残りもんでも構わねえからなんか食いもんくれねえか?」と壁に片手をついて料理人に物乞いしようとしたカンダタは派手に転んだ。
なんと台所の一部に壁が無く、上り階段のある小部屋に繋がっている!

「いてえ!ああ!?なんだここ!?」

「ちょっとカンダタさん!?どうしたの?!」

大きな音と声を聞きつけてネロがすっ飛んで来た。

「え!?まさかこの壁カンダタさんが壊しちゃったの……?」

「ちげえよ!」

「そ、そうよね。壁の破片も無いし砕いたにしちゃ綺麗な穴……というか通路だものね。中はもう見たの?」

「いや、まだだ」

「場所的に食料の貯蔵庫かしらね?まあ一応見てみましょ」

「オレさまの盗賊としての勘だとすげーお宝がある気配がするぜ!」

「ふふふ。そうだと良いわね」

男の人はいくつになっても子どもよね、と少し呆れながら小部屋の階段をのぼると窓がなく松明の明かりのみの薄暗い部屋に樽が2つとベッドが1つと……宝箱があった。

「ほらなー!?オレさまの言った通りだろ!?

「開けてみなきゃ分からないじゃない。この城の他の宝箱も魔物に奪われて空っぽだったでしょ?」

「そうだけどよ。よし、開けるぞ!」

カンダタは勢い良く開けようとしたが少し開けた時点で眩しい光が溢れ、目が痛くなってしまい思わず宝箱を閉じた。

「な、なんだァ!?」

カンダタさん!ゆっくり開けて!」

ネロも光で目が刺されたのか顔を腕で庇いながら言った。

「お、おう。もっかい開けるぞ」

カンダタは目を瞑り恐る恐る再度宝箱を開けた。目を瞑っていても部屋が太陽に照らされた大地のように明るいのが分かる。

「これは……。これがたいようのいし……?」

明るさに慣れて目を開けたカンダタとネロの前にまるで太陽の欠片のように光と熱を放つ石があった。

たいようのいし、見つけたの!?やるじゃん」

石に気を取られている間に主人公とリソルもやって来たようだ。

「なんか、オレが前に見た時より眩しいような……?王様も前に来た時より昔の人みたいだし、石も新しいのかな」

「よく分かんねえけどこいつがたいようのいしで間違いねえんだな!?それじゃあよ、そろそろひとやすみしねえか?腹も減ったしよ」

「私も賛成。情報収集もしたいし。どこかいい町や村はないかしら。ラダトームの城下町の人からはこれ以上有益な情報が得られなさそう」

「この時代にもあるか分からないけどマイラの村がいいかな」

主人公とリソルの記憶を頼りに一行はマイラに向かった。道中、以前訪れたアレフガルドとは地形や棲息しているモンスターが多少変わっていたが、温泉の香り漂うマイラに無事に着いた。
ネロとカンダタは温泉を初めて見たようで、とても驚いていた。

「これは一体何?不思議な香りの元はこれね?」

「湯気が出てんぞ?!つまりめちゃくちゃあちいかめちゃくちゃ冷てえって事じゃねえのか!?おいじじい、大丈夫か!?なんかの修行か!?」

カンダタに心配された温泉のおじいさんは笑った。

「ほぉっほぉっほぉっ。お前さん達、温泉は初めてか?心配せずとも、入ってみい。気持ちええぞ」

「ほんとかじじい……おお、こりゃあったかくていいな!」

「服が濡れちゃうから足だけ入ろうかな。……あら、気持ちいいわね、これ。私の町でもやろうかしら?……って、あー、私の町、もう無いのよね……」

「大魔王ゾーマにやられたのかの?それは……大変じゃったのう……。じゃが、命だけでも助かって良かったのう。生きてさえいれば何だって出来る。町を生き返らせる事だっての」

「町を……生き返らせる?」

「そうじゃ。それに、生き返った町はきっと、前より強くなって戻ってくるぞい。簡単には壊されない、強い町になってな。ほぉっほぉっほぉっ」

温泉で身体を温めた4人は村の宿屋でご飯を食べ柔らかい寝床でぐっすり眠った。
闇の世界であるアレフガルドには朝は無い為、爽やかな目覚め、とはいかないが、久し振りにしっかり休めたので身体がスッキリしている。
宿で朝ご飯を済ませると4人は村の人々にこの世界の事やゾーマの事を聞き回った。

「やっぱり前回、前々回と同じで、大魔王の城のある島へ行くにはせいなるほこらの賢者が持ってるにじのしずくが必要で、賢者に認めてもらうにはたいようのいしとあまぐものつえが必要みたいだね」

「あまぐものつえはようせいのほこらにいる妖精の女王が持ってるという噂だけど、今は精霊ルビスがゾーマの呪いで封じ込められてしまってそれどころじゃないらしいわ」

「あらくれのやろうがようせいのふえがあれば石像にされたルビスの呪いがとけるって言ってたぜ!」

「ようせいのふえって確か……」

主人公とリソルは顔を見合わせた。そして主人公はおもむろに温泉の近くの地面を掘りはじめた。突然の行動にネロとカンダタは驚いたが、ふえを見つけた主人公にさらに驚いた。

「あなた達って預言者とか超能力者みたいな……本当にすごいわよね」

「なあ、そんならよ、すんげえお宝の在り処とか知らねえのか!?」

「一応、このようせいのふえも、たいようのいしも、値段がつけられないくらい珍しい品物なんだけどね?」

「それは売っちまったらまずいんだろ?ゾーマ倒すのに必要なんだよな?だからそういうんじゃなくて、売っぱらったら一生遊んで暮らせるような宝もんとか、どっかの海賊が隠した秘宝とかさあ」

「そんなの知らないよ。それに今それどころじゃないでしょ。さっさとルビスとやらを助けに行くよ」

精霊ルビスはマイラの村のすぐそばの小島にある塔に封じられているというので、4人は船で向かった。

「こっから見ると結構高え塔だな。像は最上階にあるらしいな。やれやれ、骨が折れるぜ」

「よおし!賢者のレベル上げ頑張るわよ!」

「ああ、そーいや1レベだったか」

「ん、今あっちの方にはぐれメタルいなかった?」

「えっ!?本当ッ!?」

ネロははぐれメタルを追いかけてどこかへ行ってしまった。

「お、おい!ネロ……。あいつ、ひとりで大丈夫かあ?」

「ここの魔物そこそこ強そうだし、1レベの人間がかなう相手じゃないと思うけど。でもどこ行ったか分かんないしこのまま進んじゃお。どっかでまた会えるっしょ」

「おまえ、薄情だな」

「信じてるから」

「物は言いようだな」

ネロの安否を気にしつつ、3人はメイジキメラやラゴンヌ、サタンパピーなどの魔物を倒しながら塔を登っていった。
3階まで登り行き止まりになったがルビスらしき像は見当たらない。

「今まだ3階だよな?外から見た時、もっと高そうだったぜ?」

「登るだけじゃ進めないって事じゃない?」

「はあ?どーゆー事だ?」

と、その時はぐれメタルが3人の足元へ走ってきた。はぐれメタルなのに息が切れているように見えた。

「待ちなさーーーい!!」

ネロだ。あれからずっとはぐれメタルを追いかけ回していたのだろうか。

「ピキーッ!」

追い詰められたはぐれメタルはなんと飛び降りて下の階へ逃げてしまった。

「あーーーっ!??」

逃げられて悔しいと地団駄を踏むネロ。
……というか本当にネロだろうか?
なんだかカンダタ並みに筋骨隆々な肉体をしているような……?
ネロらしき人物は今にも後を追い飛び降りそうに下の階を覗き込んでいるが、床まで5メートル以上ありそうだしただの人間が飛び降りたら無事では済まなそうである。

「バギっ!」

ネロは下の階に向かって呪文を唱えた。
なるほど、風の呪文のバギで落下を和らげようという考えのようだ。

「ほっ!……うわっ!?きゃ〜〜〜〜〜〜ぐえっっっ!」

飛び降りたネロはバギによる竜巻によって空中に放られ壁にぶつかった。
5メートルの高さからの落下の衝撃よりは軽いだろうが背中はかなり強く打ったのではないだろうか。

「大丈夫か!?」

カンダタはひらりと2階へ降りた。
盗賊として身軽な動きが得意なカンダタならではである。

「おいネロ!大丈夫なら返事しろよ!な!な!」

「……だ、大丈夫じゃない……」

「よし!大丈夫だな!」

主人公はカンダタの手を借り、リソルはその間に自力で2階へ降りた。

「ていうかアンタ本当に町長なの?魔物がモシャスで化けて合流……なんてよくある話だからね?」

「な、何でそんな事言うの?」

「だってアンタこんな短時間で体が別人になる訳ないじゃん」

「体が別人……?」

「誰か鏡持ってない?」

ラーのかがみは城に置いてきちまったしな。ん、そうだ。オレさま愛用の斧で……ほらよ」

カンダタの斧に映った自分の姿を見たネロは目を丸くした。

「え?何これ私強そうっ」

「は?てかアンタ賢者でしょ?そんな脳筋でどうやってゾーマと戦うつもり?」

バイキルトをしてせいけんづき!」

「それじゃ武闘家でしょ!?あー、ヤダヤダ。こんな脳味噌筋肉のお馬鹿さんと大魔王討伐なんて」

「そんなに褒めないでよ。何も出ないわよ?」

「褒めてないから」

「全くリソルくんは素直じゃないわよね。でも本当にどうして私の体こんなになったのかしら」

「その指輪のせいじゃねーか?」

「これ!?ああ、ちからのゆびわ?そうそう、塔で拾ったからこれをつけてはぐれメタルを何匹も倒して。レベルが上がるたびに筋肉が熱くなったわね」

「ちからのゆびわって確か性格がちからじまんになるとかってお宝じゃなかったか?」

「あら、じゃあそれのお陰かしら」

「いや賢者だったらかしこさ上げないとでしょ!」

「ちゃんと呪文もたっくさん覚えたわよ。ほら、ベホマラー!」

4人のHPが平均30回復した!

「30……?賢者のベホマラーが……?」

「足りなきゃもう1回唱えれば良いじゃない!それ!ベホマラー!……ありゃ」

「MPもう無いとかダッサ。はい、町長お疲れ様。キメラのつばさあげるからおうちに帰れば」

「帰る所なんて!……もう無いのよ。だから私はゾーマをこの手で必ず倒す」

「ふうん。本物の町長に間違いないみたいだね」

リソルはネロに何かを投げて渡した。

「私帰らないからね!?え、まほうのせいすい……?」

「MP無いんでしょ?他に誰が回復呪文唱えてくれる訳?」

「ああ、ありがと……。うん、任せて!バイキルトは切らさないわ!」

「……いい加減その指輪外しなよ。そこの緑の脳筋さんにでもあげれば?」

「はっはっはっ!そんな小せえ指輪オレさまの指には入んねえし、そんなの無くてもオレさまの筋肉は誰にも負けねえ!」

「……早く外さないとああなるよ?」

「ああん!?」

そんな感じで無事4人揃い塔を探索していると、ついに呪いで石にされた精霊ルビスの像を見つけた。

「すげえ……。石でもこう、カミサマっぽいオーラを感じるな」

「主人公さん、ようせいのふえを」

主人公は頷き、どうぐかばんから笛を取り出し吹いた。

よどんだアレフガルドの空気に一筋の光が射しこんだかのように、春の小鳥のさえずりのような軽やかな笛の音が響く。

すると像に無数のヒビがはしったかと思うと中から光がほとばしった。

「ああまるで夢のよう!よくぞふういんをといてくれました。私は精霊ルビス。このアレフガルドの大地をつくったものです。お礼にこのせいなるまもりをさしあげましょう。そしてもし大魔王をたおしてくれたならきっといつかそのおんがえしをいたしますわ。私は精霊ルビス。この国に平和がくることをいのっています」

そう言うと精霊ルビスはアレフガルドの大地へ消えた。
あまりの眩しさに目を開けられず、精霊ルビスの姿を見る事は出来なかったが、だが確かにその声は、その温かさは、4人に届いた。
そして主人公の足元にはせいなるまもりが輝きを放っていた。

「これが……せいなるまもり……」

せいなるまもりを拾い上げると主人公の頭に精霊ルビスとは違う誰かの声が響いた。

「……主……人公……主人公……。聞こえ……すか……?よくぞルビスさまを大魔王ゾーマの呪いから救って下さいました。あなたに渡したいものがあります。ここから南西……メルキドの南のほこらへ……どうか……」

「………………」

「ぉいっ!主人公!!」

カンダタに強く揺さぶられ主人公はハッと意識を取り戻した。

「大丈夫か?どうしたんだ」

主人公は精霊ルビスではない何者かの声が聴こえた事を3人に説明した。

「ルビス様じゃないなら一体誰だったのかしら?」

「ちょっと怪しいけど、大魔王の手下からじゃないよね?」

リソルの言葉に主人公は邪悪な感じはしなかったと首を横に振った。

「何かの罠じゃないといいけど。主人公さんの直感を信じるしかないわね」

「前はメルキドの南にほこらなんか無かったよね?でもまだあまぐものつえが見つかってないし手掛かりも他に何も無いしとりあえず行ってみる?」

「精霊ルビス様とやらを助けた礼が貰えんだろ?善は急げだ。ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと貰いに行こうぜ!!」

船に戻り南へ南へ。
聖なるほこらのある大陸の南端から北西へ。
長らく波に揺られようやくメルキドのある大陸に着いた。

「ほこら、見当たらないわね」

メルキドが山の奥だからね。ほこらも海沿いには無いんでしょ」

「ふっふっふっ」

3人が怪訝な顔で振り向くとカンダタが腕を組んで笑っていた。

「こんな時こそオレさまの空とぶくつの出番だぜ!」

そう言うと地を蹴り空高く跳んだ。

「お、あれにちげえねえ。おーい!!あっちだ!!」

上空でカンダタが指差した方角を進んで行くと苔むし蔦が絡んだほこらがひっそりとあった。

「ここかしら?」

「魔物の気配はしないね」

ぴちょんぴちょんと水がしずくとなって落ちる音がする。
ほこらの中は仄暗かったが、中央は天井に丁度穴でも空いているのか明るい光が差していた。
その光の中、美しい女性が主人公を待っていた様子でこちらを見つめ佇んでいる。
側の従者と思われる妖精が4人に気付き、

「お客様がみえるなんていつ振りかしら。こちらの方は妖精の女王です」

と微笑んだ。

「わたしはその昔ルビスさまにおつかえしていたようせいです。そしてあの日ルビスさまにかわり、主人公の持つエテーネルキューブに棲む時の妖精によびかけたのもこのわたし」

キュルルに!?と目を見開く主人公。
キュルルは消えたはずじゃ……?

「ふふ。人間と妖精はつくりが違いますから。人間の目では見えないものも視えるのですよ。突然な事で驚かせてしまったかもしれません。許してくださいね。しかし主人公はついにここまで来てくれました。わたしの想いをこめあなたにこのあまぐものつえをさずけましょう。どうかルビスさまのためにもこの世界をおすくいくださいまし」

主人公は女王の目を真っ直ぐ見、頷いてあまぐものつえを受け取った。

「これでたいようのいしとせいなるまもりとあまぐものつえが揃った。聖なるほこらの賢者サマに会いに行こう」

4人はようせいのほこらを出、船に戻り、先程の海路をまた通り、聖なるほこらへ向かった。

「聖なるほこらだけはずっと変わらないな」

「他は変わっているの?」

「ああ。町や村が出来てたり無くなってたり。地形も変わってるし勿論人も。魔王城にいるのがりゅうおうからりゅうおう2世になってたのは笑ったな」

「じゃあ今度はりゅうおう3世かもしんねえな」

「いやゾーマでしょ」

聖なるほこらにはやはり賢者の老人がいた。

「よくぞきた!今こそ太陽と雨があわさるとき!そなたにこのにじのしずくをあたえよう!」

「このしずくをどうすんだ?ゾーマに振りかけると倒せんのか?」

「そんな簡単に大魔王を倒せる訳ないでしょ。アンタに振りかけてやろうか?」

「あンだと!?」

まあまあ、カンダタ達は知らないんだからそう思っても仕方ないよと主人公が場を収める。
そして、見れば分かるよと言い、魔王の島の向かいの崖に向かった。

「あれが大魔王の城と魔王の島……」

切り裂くような鋭い音をたてて吹きつける風にネロは身震いした。

「波も魔物のような荒波だし島も崖だし船じゃ上陸出来ないのね。空とぶくつもこの暴風じゃあ……」

「1か月に1回ぐらいすっげえ天気が良い日があって渡れたりしねえのか?」

「はあ〜あ。この暗黒の空を見ててよくそんな楽観的な考えが出てくるよね?ま、見てなよ」

3人は主人公の方へ目を向けた。
主人公は力強い笑みを浮かべるとどうぐかばんからにじのしずくの入った小瓶を取り出し、崖から魔王の島の方へ振りまいた。
しずくは鮮やかな光を放ち、なんと虹の橋が
かかった。
驚きのあまり言葉が出てこないネロとカンダタをよそに主人公は虹の橋を渡ってみせた。

「あ、歩けるの!?虹を??」

恐る恐る、ネロとカンダタも片足を虹にのせる。

「ええ〜〜〜!?嘘ォ〜?!何これ!??」

夢でもみているかのようだ。

「これ、普通の虹みたいに歩いてる途中で消えちゃったりとか……」

「そう思うなら急いで渡った方が良いんじゃない?」

「大丈夫って言ってよ!リソルくんの馬鹿ぁ!」

けらけら笑うリソルに青い顔して走るネロ。

「お、おい!」

カンダタもつられて走る。
魔王の島に着いた4人を稲光が出迎える。

「ついに、大魔王の城……!ネフェロバークの皆の仇……」

「この世の財宝は全てオレさまのもんだ!大魔王なんかに邪魔はさせねえぜ!」

「主人公とオレはゾーマを倒してこの地の平和を取り戻す為に妖精の女王に呼ばれたらしいからね。倒さなきゃアストルティアに帰れない」

「魔王バラモスの時は一緒に戦えなかったけど、今度は一緒よ。皆で……ゾーマを討ちましょう!」

人間の背丈の2倍以上ある大きな扉を開く。
軽く入り組んでいて正面奥にダメージ床に囲まれた玉座が見える。が、しかし玉座は空っぽだ。

「……誰もいない?」

「気配がする。確か玉座の」

「われらは魔王の部屋をまもるもの。われらをたおさぬかぎり先にはすすめぬぞ!」

ごごごご、と音をたて、うごくせきぞう6体が4人を取り囲む。

「きゃ!オバケ!?」

うごくせきぞうだよ!」

「のわっ!潰される!」

うごくせきぞう6体が徐々に迫ってくる。

「石が相手じゃ鎌も槍も魔法もたいして効かないな」

「そんじゃオレさまが粉々に砕いてやらあ!」

「分かったわ!バイキルト!」

「マッスルポーズ・極!!」

カンダタはマッスルポーズ・極をキメるとスーパーハイテンションになった。
さらにうごくせきぞう達はカンダタに見惚れている!
カンダタは思い切りオノを振り下ろす。
痛恨の一撃!
うごくせきぞう達は粉々に砕かれた。

「流石ね!」

「アンタもたまには役に立つじゃん」

「オレさまの手にかかりゃこんなもんよ!はっはっはっ」

「ふふ。あ、それでさっき、リソルくん何か言いかけてたわよね?確か玉座が?」

玉座の裏にいつも隠し階段が……うん、やっぱりあった」

隠し階段をおりると迷路や真っ直ぐに歩けない罠などがあり、一行は苦労しながら進んだ。
道中の魔物も強いが魔力を温存する為なるべく呪文を使わず倒した。

いくつ目かの迷路を抜けると、暗闇の中炎に囲まれた祭壇のような所へ出た。
異質な空間に皆気を引き締める。
祭壇には誰もいないが嫌な予感しかしない。
しかし祭壇を通るしか進むべき道がない。
祭壇に上がると案の定ゾーマが現れた。

「勇者たちよ!わが生けにえの祭壇によくぞきた!われこそはすべてをほろぼすもの!すべての生命をわが生けにえとし絶望で世界をおおいつくしてやろう!勇者たちよ!わが生けにえとなれい!出でよわがしもべたち!こやつらをほろぼしその苦しみをわしにささげよ!」

「ギャアアオンッ!」

暗闇から突然キングヒドラが現れ襲いかかってきた。
もえさかるかえんを吐き出す。

「こんなせめえ所で!避けらんねえ!」

フバーハマヒャド!」

フバーハの優しい衣が4人を熱から守り、マヒャドの氷で炎を相殺する。

「やるじゃねえかネロ!」

「皆がここまで魔力温存させてくれたからね!バイキルト!」

主人公の攻撃力が上がった。

「よーしオレさまもっ!」

マッスルポーズ・極!
味方全員スーパーハイテンション
残念ながらキングヒドラに見惚れは通用しないようだ。
カンダタに噛みつこうと首を伸ばしている。

「ソイツ喰ったらお腹壊すよ?」

リソルの堕天使の轟雷。からのジュエルレイン。
雷で痺れ、宝石の雨に打たれ攻撃の手が止まるキングヒドラの首を主人公が魂狩りで全て斬り落とす。

「一丁上がりッ!ゾーマの奴、どこ行きやがった?」

「待って、しもべ『たち』って言ってたよね?」

「グルゥァオオオンッ!!」

また何もない闇の中からバラモスブロスが現れた。

「ぅわ、おっと、よっ」

突然すぐ側に現れ繰り出された鋭い爪をなんとか避ける。
バラモスブロスイオナズン

マホカンタ!」

「ちっ。シャドウガード!」

ネロのマホカンタもリソルのシャドウガードも1人分、つまり自分の身しか守れない。

「げ、まじか」

身を守る術が無く受け身をとるカンダタに主人公の闇の加護。
カンダタのダメージを肩代わりし、吹き飛ぶ主人公。

「大丈夫かっ!?」

主人公は頷いたが服は大穴があき髪も焦げたのか毛髪が燃えた時の独特の臭いが充満していた。

「余所見しないで!フバーハマヒャド!」

バラモスブロスのはげしいほのお。

「わりぃ!」

マホカンタ!これで今度は防げるから!」

ネロはカンダタマホカンタをかけた。

「ありがとよ!コイツ、手数が多いな」

「近付くとやられるから遠距離攻撃で。魔眼開放!ドルマドン!」

ベホマ!」

ネロは主人公の傷を回復した。

「テンション上げてこうぜ!」

カンダタのマッスルポーズ・極。

スーパーハイテンションで叩きつけてやれ!」

メラゾーマ!」

ドルマドン!」

「喰らえ!オレさまの痛恨の一撃!」

そして主人公の根絶やしの重撃。

「グギャアアアアアアッ!」

バラモスブロスをやっつけた!が休む暇なく。

「ウゴォォオアアアアアッ!!」

今度はバラモスゾンビが現れた。

「まだいんのかよお」

バイキルトルカニ!」

ネロはリソルとカンダタの攻撃力を上げ、バラモスゾンビの守備力を下げた。

主人公の暗黒連撃。
目にも止まらぬ速さで5回斬りつける。

「……?!」

「回復してる?!」

バラモスゾンビにつけた傷がみるみる塞がっていく。

「ギシャアアアッ!」

「ひゃっ」

バラモスゾンビの鋭い爪を躱すネロ。

「回復が追い付かない程のダメージを与えないとね」

「そうね」

主人公の必殺、錬魔の秘法!
赤黒い炎を纏い、ダークマター、煉󠄁獄魔斬、厄災の滅撃、根絶やしの重撃など大技を素早く叩き込んでいく。

「守りを捨てるわ!バラモスゾンビはブレスも呪文もしてこないみたいだから皆、攻撃を避けて!モシャス!」

ネロはモシャスで主人公の姿になると同じように激しく猛攻を始めた。
2人の猛攻を受けバラモスゾンビの回復が間に合わなくなってきた。しかしゾンビだから痛みや疲れを感じないのか攻撃の手はまるで衰えない。

「避けろったってな、うおっ、ぬわっ」

カンダタのマントがバラモスゾンビの爪で引き裂かれる。

「オレが引き付けるからアンタはマッスルポーズでもしてて。シャドウガード!」

リソルはシャドーを呼ぶとカラミティドゥームであえてバラモスゾンビの懐に飛び込みバラモスゾンビの気を引く。
バラモスゾンビに引き裂かれシャドーがはらりはらりとリソルから剥がれ落ちていく。

「くっ……!まだか!?」

「もう一押しじゃねえか!?ええーい、マッスルポーズ・極!!」

「ああっ」

ネロのモシャスが解けた。

「ゼェゼェ……。主人公さん、何て動きなの。私、にはもうこれ以上、出来ないわ。この、燃えなさい!超火力ベギラゴン!!」

そしてリソルの堕天使の轟雷!

主人公の煉󠄁獄魔斬!

カンダタの痛恨の一撃!

バリバリバリバリィッッッ!!!

「グギャォォォォンッ!」

4人はバラモスゾンビを倒した!

「勇者たちよ!なにゆえもがき生きるのか?ほろびこそわがよろこび。死にゆく者こそ美しい。さあわがうでの中で息絶えるがよい!」

再び現れ襲いかかろうとするゾーマへ主人公はひかりのたまを差し出した。
あたりにまばゆいばかりのひかりがひろがる。
ゾーマの闇の衣がはがれた!

「ほほう……。わがバリアをはずすすべをしっていたとはな。しかしむだなこと……。さあわがうでのなかでもがきくるしむがよい」

ゾーマは主人公を手で壁に向かって叩き飛ばした。
ゾーマのこごえるふぶき!

フバーハベギラゴン!」

ネロがふぶきから皆を守る。

「主人公!大丈夫か!!」

カンダタが叫んだ。
主人公の体は黒いもやに包まれている。
ゾーマの仕業か……?
なんだか怖気がする。
こごえるふぶきのせいだろうか。
主人公がニヤ、と笑うとその体から赤黒い炎が燃え上がった。
必殺、錬魔の秘法!
ハデスの宴!
厄災の滅撃!

ゾーマは主人公の鎌を受け留めながら問う。

「お、お前は本当に勇者なのか!?何故わしのように闇のヴェールを纏っている!?何故そんなに禍々しい気を放っているんだ!?お前は何者だ!!?まさかお前……」

「そうだよ。主人公はアストルティアの大魔王さ」

「なッ!?」

「えッ!?」

「ああんッ!?」

「嘘、でしょ?私、大魔王を倒す為に大魔王と旅していたの……?」

「話は後で聞こうぜ!今はこいつを倒すぞ!その為にここまで来たんだろ?」

「……。」

ゾーママホカンタ
いてつくはどう

「おい!」

「小僧も人間ではないな?魔族か」

「正解。さっすが大魔王サマ♪」

「わははは。伊達に長く生きてはおらんぞ」

「ネロ!避けろ!!」

動かないネロをゾーマが切り裂かんとす。

ガキィィィ…ン

主人公が闇の加護でネロの肩代わりをし守った。

「大魔王……らしくない行動だな。お前は一体なんなんだ?お前みたいなくだらん奴が大魔王?笑わせるな。目障りだ、消えろ」

ゾーママヒャド

「ネロ!今までの旅を信じろ!主人公を!信じろ!」

「……フバーハベギラゴン!」

間一髪、ゾーママヒャドを相殺する。

「主人公は勇者の盟友なんだよ。だからアストルティアを守る為に大魔王になったんだ」

「……意味が分からないわ」

「それが主人公なんだ」

「とにかく!わりぃ奴じゃねえんだろ!?おい、こっからテンションMAXでいくぜええ!!」

カンダタのマッスルポーズ・極!

「アイツ、マホカンタしてたから打撃でいくしかないね。ふぶきとか厄介だけど……」

リソルのカラミティドゥーム。

「主人公もガンガンいこうぜ!……あ?」

見ると主人公はネロを守った時の格好のまま動かない。
ゾーマから2回攻撃くらったから動けねえのか。

「ネロはふぶきとマヒャドに備えてっから回復する暇ねえな……。そうだ、HPリンク!」

カンダタは主人公にHPリンクをした。
主人公は急に体が動かせるようになって不思議そうに手をグーパーしている。
カンダタとHPリンクになっている事に気付くとお礼を言い、波動解放し闇のヴェールを再び纏った。

「行けえ!!!」

カンダタのマッスルポーズ・極を受け主人公はゾーマへ煉󠄁獄魔斬、黒炎帝の斬撃、厄災の滅撃、根絶やしの重撃を次々と打ち込む。
リソルもカラミティドゥームや堕天使の轟雷、ジュエルレインを叩き込む。

なんなんだこいつらは!
あの賢者の女はまともそうだが他は大魔王に魔族に、あの緑の筋肉馬鹿はそう言えば聞いたことあるぞ、盗賊だろう!?
勇者は!どうした!
わしはこんな訳分からん連中に倒されるというのか!!

「ふざけおって!」

ゾーマいてつくはどう
からのこごえるふぶき!

「くっ……!」

相殺する暇がない。
4人はふぶきに埋もれた。
はずだった。

バシルーラ!!」

なんとネロはバシルーラでこごえるふぶきを別空間へ飛ばしてしまった!

「なっ……!?」

カンダタのマッスルポーズ・極!

リソルのジュエルレイン!

主人公の災いの斬撃!

カンダタの痛恨の一撃!

「ハアアアッ!!」

そしてトドメは
筋肉ムキムキネロの理力の杖の渾身の一撃。

け、賢者の打撃が最期だなんて、なんという屈辱ッ!
というかマッチョな賢者って何ッ!?
やっぱりこいつら全員おかしいよッ!!

「最期はね、私の『手』で、ネフェロバークの皆の仇をとりたいと思っていたの」

「さっすが脳筋賢者サマ!」

「勇者たちよ……。よくぞわしを倒した。だが光あるかぎり闇もまたある……。わしには見えるのだ。ふたたび何者かが闇から現れよう……。だがそのときはお前達は年老いて生きてはいまい。わははは……わははは……わははは……っ。ぐふっ!」

大魔王に魔族に盗賊に脳筋賢者……。そんな奴らに倒されたなんて恥ずかしいから勇者って事にしとこう……。ぐふっ!

「年老いて生きてはいまい、か。時渡りの力を持つエテーネの民の恐ろしさを知らないんだな」

「……終わったわね。ううん、これからが始まりか。頑張らなくちゃ、ね。皆の分も……」

「……。」

「ねえ、2人はもう元の世界……アストルティア?に帰るの?」

「いつもなら魔王を倒せばエテーネルキューブが帰してくれるんだけど。まさか大魔王ゾーマの上がいるとか?」

「はっはっはっはっ」

「……。」

「……まじ?」

「気配がしないからいないと思うよ」

「分かってるんなら言うなよ!」

「くくっ。まあよく分かんないけどまだ帰れないみたいね」

「それならしんりゅうを倒しにいかない?」

「は?」

竜の女王の城でね、勇者の称号を得た者は天界に導かれるそうなの。で、しんりゅうを倒すと願い事を叶えてくれるんですって。アストルティアに帰りたいっていうお願いを叶えてくれるんじゃないかしら」

 ※ ※ ※

4人は竜の女王の城の光の中で天界に導かれ、謎の洞窟やゼニスの城、謎の塔、数々の試練を乗り越えしんりゅうのもとへ辿り着いた。

「オーラ半端ないわね」

「多分、今まで戦ったどの敵よりも強いよ」

「オレさま用事思い出し……」

ネロが笑顔でカンダタを睨む。

「行きましょ」

「おう……」

4人がしんりゅうの前に立つと、しんりゅうは静かに言葉を発した。

「もしこのわたしを打ち負かせたなら願いをひとつだけかなえてやろう。いくぞ。用意はいいか?」

4人は頷いた。
しんりゅうが戦意をあらわにすると空気がびりびりと音がしそうな程張りつめた。

やべえ……。ちびりそうだぜ……!
カンダタはごくりと唾を飲んだ。

しんりゅうのしゃくねつのほのお!
こごえるふぶき!

熱いのと寒いのを一度に!?
防ぎきれない!

フバーハベホマラー!」

やけどと凍傷はベホマラーじゃ治らない!

「異次元の強さだわ……!」

速いし一撃一撃が重い!
りゅう、と聞いていたからドラゴンメイルなどブレスに耐える装備を用意してきてはいたけど。

カンダタのマッスルポーズ・極!

リソルは魔眼開放、ドルマドン

主人公は蒼月の守り、暗黒連撃。

しんりゅうのイオナズン
そしてあやしいひとみでリソルを眠りに。

「く……。ベホマラー!ザメハ!」

ザメハでリソルは目を覚ました。

「眠りは厄介だな……」

眠りはシャドウガードでも防げない。

主人公は厄災の滅撃、ダークマター
が、しんりゅうの闇耐性は下がらなかった。

カンダタは痛恨の一撃。

しんりゅうののしかかり!
いてつくはどう

「おわーッ!」

あんなデカイ体にのしかかられたら潰れちまう!

フバーハスクルト!」

ネロははどうで消された補助呪文をかけ直す。

カンダタはマッスルポーズ・極!

リソルの堕天使の轟雷!

主人公は闇のヴェールを身に纏い煉󠄁獄魔斬!

しんりゅうのかみくだく
しゃくねつのほのお!

「あっぶな!!」

しんりゅうに噛みつかれそうなのを危うく躱すリソル。

マヒャドバイキルト!」

ネロはしゃくねつのほのおをマヒャドで相殺し主人公にバイキルトをかけた。

カンダタの痛恨の一撃!

リソルのカラミティドゥーム!

主人公の根絶やしの重撃!

「顔色が全然変わんねえから効いてんのか効いてねえのかイマイチ分かんねえな」

しんりゅうのあやしいひとみ!
ネロは眠ってしまった!

「まずい!」

しんりゅうのこごえるふぶき!

「うあああッ!冷てええ!」

カンダタは主人公にHPリンク!

リソルはシャドウガードで身を守った。

主人公は闇の加護でネロを守る。

「お、お、お、ネローーー!頼む起きろーーー!!」

ふぶきでガチガチになったカンダタはネロを揺さぶったり頬をぱちぱち叩いたり必死で起こそうとしている。

「あれは強力だから簡単には……」

「むにゃ……え!?カンダタさん!??」

「起きた!?」

「起きてくれたかー!!もう二度と寝るなよ、な!な!な!」

「う、うん……?頑張るわ?」

「だから無理だってそれは」

ネロはなんか顔が痛いなと思いつつとりあえずベホマラーを唱えておいた。

しんりゅうのしゃくねつのほのお!

マヒャド!」

しんりゅうのあやしいひとみ!
しんりゅうはネロを見つめていたが

「そうはさせるかってんだ!!」

カンダタがしんりゅうとネロの間に割って入りネロの代わりに眠った。

ネロはすぐさまザメハでカンダタを起こそうとしたが

「え?」

むくり、とカンダタが起きあがった。
顔は眠っているように見えるが、しんりゅうに近寄るとなんとその尾をむんずと掴み振り回し、しんりゅうの体をあちこちに叩きつけだした。

「えええ?!」

「寝相が悪いどころじゃなくない?」

「ねえ、助けてって聞こえない?」

「はあ?」

「ほら……」

確かに耳をすませるとばしんばしんと叩きつけられながらしんりゅうが「助……けて……助けて……」と言っているような気がする。

「でもこれどうやったら止まんの?」

「起こせば良いんじゃない?ザメハ!」

「ん……?オレさまは……?何だこりゃ?」

目を覚ましたカンダタは手にしていた尾をぽいと放した。
しんりゅうはもう無理、というようにしばらく地面に突っ伏していたが、ぬらりと起き上がると何事もなかったかのように言った。

「みごとだっ!この私をわずか6ターンで打ち負かしてしまうとは……。さあ願いをいうがいい」

そして早く帰ってくれ。出来ればもう二度と来ないでくれ。後でここへ着く道塞いでおこう。

「あれで勝負がついたの?!」

「まあ、良いじゃない。これで帰れるんだから」

「オレさまが寝てる間に倒しちまったのか!?どんな手使ったんだ!?」

お前がやったんだよ、とカンダタ以外の全員が苦笑いをした。

「この2人を、主人公さんとリソルくんをアストルティアに」

言いかけるネロを主人公が止める。

「え?なんで……?」

主人公は「自分達はきっと帰れるはずだから心配しないで大丈夫」とネロに微笑んだ。

「でも……じゃあ、カンダタさん、世界の100大秘宝が欲しいんだっけ?それを……」

カンダタは首を横に振った。

「分かってねえな。お宝ってのはよ、自分の力で手に入れてこそ価値があるってもんよ。それよりもよ、ネロ、おまえには大事な大事な、我が子のように大切にしてたもんがあったんじゃねえのか」

「それはもう、永遠に失ってしまったのよ」

「無くなったもんでもどうにかしてくれるんがしんりゅうさんじゃねえのか?」

「!」

「やり直したかったんだろ?今度は上手くやれっといいな」

「ゔう……。あ"りがとう……」

ネロは大粒の涙を流しながらしんりゅうに願いを伝えた。

「             」

「ではネフェロの町ネフェロバークにもどるがいい」

その時、主人公のどうぐかばんから緑色の光が溢れ出した。

「お迎えの時間が来たみたいだ」

「ここまで付き合ってくれて、ありがとう」

「おまえらといると世界を救っちまったり柄でもねえ事しちまうからな。ま、おまえらとの冒険はオレさまにとってもトップクラスの宝もんって事にしといてやらあ!どっかでもし会ったらよろしくな!な!な!」

主人公とリソルの姿がまばゆい緑の光に包まれ……消えた。

「ありがとな。楽しかったぜ」

 ※ ※ ※

緑の光の渦を抜けると、そこは祈望館のリソルの部屋だった。

流石に、今回の旅は疲れたな。

「ねえ、アンタだったらしんりゅうに何を願う?」

うーん、何が良いかなー。

「オレは……」

 ※ ※ ※

「1人じゃ怖いからお願い!一緒に来て!」

「構わねえぜ。オレさまも、あのしんりゅうがインチキ野郎じゃねえか気になるしよ」

 ※ ※ ※

「ねえ!カンダタさん!どう!?ねえったら!」

カンダタに先に町を見てもらい、自分は門に隠れていたのだが、カンダタが返事をしてくれないので仕方なく町へ足を踏み入れる。

「あ……あ」

町は建物から何まで記憶の通り元に戻っていた。

「あ、あ……」

「町長!帰っていたんですか!?」

「おかえりなさいませ、ネフェロ町長」

「実はですね、非常に言いにくいんですけど、私達不満がありまして。あのですね、もっと休みを……」

「あ、あああ!そうね!皆の就業について今一度話し合いましょう。私も丁度、あなた達を働かせ過ぎじゃないかと思っていて……」

「本当ですか!?」

そう。
今度こそ私は大事な大事な、我が子のように大切なこの町を守り抜いてみせる。
皆がくれたこのチャンスを、絶対に無駄にしない。

町人達と再び歩き出したネロの背を見送り、カンダタもお宝を探しに森の木の葉の囁きの中へ消えていった。

今度は安心して酒が飲める町にしてくれよな!な!な!

★あとがき★
ついに完結しました!
3年?4年?くらいかかってしまいました。
ドラクエⅢはⅠやⅡと比べるととんでもないボリュームで
あまりにも長くなってしまうので町などを半分ほど
カットしてしまいましたが、そのカットした部分…
ピラミッドや1日王様体験などのほうが
ドラクエⅢの魅力がより伝わる気がします( ;∀;)
ノーカットでいつか書き直せたらなどと
淡い夢も抱きましたが長過ぎて完結させられない
かもしれませんね(;_:)

このお話はドラクエⅢの商人があまりにも
可哀想だなと思って書いたお話です。
こんな終わり方なら希望が持てるんじゃないかなぁ。

今回のお話でリソルとドラクエナンバリングコラボは
終了の予定です。Ⅳ〜はボリューム多いしキャラが
立ってて横入り出来なそうなので笑
主人公が喋らない設定で書くのは大変だったので
これからはもう少し自由に書きたいです笑

体力があれば挿絵を追加していく予定です!
というかいつか漫画にしたり朗読劇を
やってみたいんです!
今はリソルの声が出せるかどうか特訓中です!笑

最後まで読んで下さった方
ありがとうございましたm(__)m
あなたが読んでくれる、楽しみにしててくれている。
そう思えたから最後まで書けました。
まだまだ書きたいものは沢山あります!
よろしければこれからもお付き合い下さい(^ν^)
それではまた\(^o^)/

リソルと死の腕(かいな)①

「わたしたち
わたしたち
この日をどんなに
この日をどんなに
待ちのぞんでいたことでしょう。
さあ祈りましょう。
さあ祈りましょう。
ときは来たれり
いまこそ目覚めるとき
大空はおまえのもの
舞い上がれ空たかく!」

* * *

コンコンコン。
アスフェルド学園の敷地内にある学生寮、祈望館のリソルの部屋のドアを誰かがノックした。

「…チッ、誰だ?」

リソルがドアを開けると、主人公が立っていた。

「…なんだ、主人公か。いや、この前アンタかと思ったらドラキー女でさ。しかも『…お腹…空いた…お菓子…ない?』って。追い返そうとしたらへぼドラキーが慌てて連れ帰ったけど」

リソルは主人公の前のテーブルに淹れたてのコーヒーを置いた。

「…アンタが連絡なしに突然会いに来ると、何かあったのかって心配になるよ。でも今日は何とも無さそうな顔してるね。どうしたの?」

主人公は、特に用は無いが、リソルに会いたくなったから来たのだと伝えた。

「…!!…アンタよくそんな恥ずかしい台詞真顔で言えるよね。こっちが恥ずかしくなるんだけど!」

そうした他愛のないお喋りをしていると、もう何度目になるだろうか、主人公のポケットから突然緑色に光輝くエテーネルキューブが飛び出してきた。

「…オレに用があったのは主人公じゃなくてエテーネルキューブの方だったのかもね」

リソルがため息をつきながら言った。ふたりの姿が光に包まれる。ふたりが緑の光の渦の中を泳ぐように進んでいくと、じめじめした井戸の底へ着いた。

「…ここはどこだ?」

とりあえず井戸から出るふたり。井戸から出てきたふたりを見て側にいた女性が驚きの声をあげた。

「きゃー!井戸から人が!!あなた達、誰!?」

女性の声に人々が集まってきた。

「…オレ達はアストルティアから来たんだ」

「あすとるてあ?聞いた事ないわね」

「ここは日出ずる国ジパング。世界の朝はこの国よりはじまるとおぼえておかれよ」

「…じぱんぐ?」

「今この国はやまたのおろちに支配されている。悪いこと言わないからさっさとよその国へ行った方がいい。女連れは特にな」

ジパングの男性は主人公を意味ありげに見た。

「いけにえはヒミコさまの予言によって国の若い娘の中から選ばれます」

「…生け贄!?」

「まあ、遠くから来たのじゃろうからせめてヒミコさまに挨拶だけでもして行ったらどうじゃ。あそこに見える屋敷へ行くがよい」

老人は遠くに見える大きな屋敷を指さして言った。主人公とリソルは老人にお礼を言うとヒミコの屋敷へ向かった。とにかく今はこの世界の情報を集めるしかない。情報を集めるには権力者に話を聞くのが一番だろう。
ヒミコの屋敷に入ろうとすると門番に止められたが、遠くから来たふたりがヒミコに挨拶したいのだと知ると、気分を良くしたのか中に通してくれた。屋敷の奥の真ん中の大きな部屋にヒミコはいた。

「なんじゃお前らは?答えずともよいわ!そのようないでたち。おおかたこの国のうわさを聞き外国からやってきたのであろう。おろかなことよ。わらわは外人を好まぬ。そうそうに立ち去るのじゃ。よいな!くれぐれもいらぬことをせぬが身のためじゃぞ」

ふたりは追い払われるように屋敷を出た。リソルは屋敷を振り返って言った。

「…なーんか、あのヒミコってやつ、超あやしいんだけど。大体出てけって言われてもこの国は島国みたいだし、オレ達は船持ってないし。とりあえずやまたのおろちとやらを倒すしかないんじゃない?あそこの火山からそれっぽい気配がするんだよねー」

リソルの勘を頼りに火山へ行くと、やまたのおろちがいた。やまたのおろちの周りには人骨のようなものが散らばっていた。おそらく、生け贄にされたジパングの国の娘達のものであろう。

「うわあああああ!!」

声がしたのでよく見ると、なんとやまたのおろちに襲われている女性がいるではないか。主人公が助けに飛び出した。

「…あーもー、お人好しなんだから!」

リソルも主人公を追いかけて飛び出して行った。

「ギャオオオオオオオオンッ!!」

やまたのおろちが主人公とリソルを吠えて威嚇した。空気がびりびり震える。
リソルは襲われていた女性を抱えて安全な離れた場所へおろした。
獲物を奪われたやまたのおろちが怒り狂って火炎を吐き散らした。主人公は火炎を避けるとカカロンを召喚し風斬りの舞を踊った。カカロンフバーハを唱えた。
リソルはドルマドンを放った。やまたのおろちはそれをひょいとかわした。

「チッ」

主人公の百花繚乱。やまたのおろちを蓮の花の幻覚が包んだ。幻覚の蓮の花びらに噛みつこうとするやまたのおろちの頭をひとつひとつ順番にリソルが一閃突きで潰していく。
激痛に暴れるやまたのおろちを主人公が花ふぶきでさらに幻覚で包む。
頭が残りひとつになった時、やまたのおろちの背後に旅の扉が出現し、やまたのおろちが逃げてしまった。

「…なっ!?」

やまたのおろちを追う為ふたりが旅の扉をくぐるとそこはヒミコの部屋だった。そして目の前には傷だらけのヒミコが倒れていた。ヒミコに気付いた従者達が駆け寄る。

「ヒミコさまっ!今すぐきずの手当てをっ!それにしてもヒミコさまはいったいどこでこんなおけがをなさったのやら…」

驚き不思議がる従者達。

「ヒミコさまがおけがをなされて大変なのだ。出ていってくれ!」

その時、ヒミコが声をださず頭の中に直接話しかけてきた…。

「わらわの本当の姿を見たものはそなたたちだけじゃ。だまっておとなしくしているかぎりそなたたちを殺しはせぬ。それでよいな?」

あまりのぶきみさに頷きそうになったが、首を横に振る主人公。

「ほほほ。そうかえ。ならば生きては帰さぬ!食い殺してくれるわ!」

ヒミコがやまたのおろちの姿に変化した。

「ぎゃーっ!!」

逃げ出す従者達。

「…やれやれ。そんな身体でオレ達に勝てると?」

やまたのおろちの先ほど潰された頭はそのままであった。

「ギャオオオウッ!!」

「…それならお望み通りにしてあげるよ」

リソルは高く飛び上がり雷鳴突きを放った。

「ウギャアアアアアアアアッ!!!」

やまたのおろちは消滅し、やまたのおろちがいた場所には紫色に輝く玉と一振りの剣が落ちていた。主人公は輝く玉と剣を拾い上げた。

「…戦利品として貰っといたら?」

主人公は頷いて輝く玉と剣を道具鞄にしまった。

「なんと…ヒミコさまがおろちだったとは!この目で見ても信じがたい」

「おろちを退治して下さってありがとうございます。これでもう、生け贄を出さなくていいのですね…」

ヒミコの従者達は喜びだけでなく、主を失った困惑や、生け贄を差し出してきた罪悪感など、複雑な気持ちにかられているようだ。

「…お取り込み中悪いんだけど、この国で船持ってる人とかいない?」

「船でしたら、今回生け贄に選ばれていたやよいという娘の家が持っていたと思うが」

「…本当?ありがと」

主人公達は従者に教えて貰った家に向かった。

「…やよいって、さっきおろちから助けた人の事かな」

リソルは家を覗きこんだ。

「…ここがやよいって人の家?」

「やよいならおりませぬ」

やよいの父親らしき男が出て来て言った。

「…おろち倒したのにまだ帰って来てないのか」

「今なんと?おろちはいなくなったのですか!?」

父親が驚きと喜びの声を上げた。その声を聞き、側にあったツボから娘が顔を出した。

「本当?あなた達が倒してくれたの?ありがとうございます!」

「やよいはひとり娘なのです。私はあろうことか生け贄の祭壇に縛りつけられたやよいをこっそり連れ帰ってしまったのです。本当に助かりました。ありがとう」

お礼を言う親子に、船が欲しくてこの家を訪れたのだと話す主人公とリソル。

「娘やジパングを助けて下さったのでお力になりたいのはやまやまですが、私のような漁師は船がないと生活が出来ません…。申し訳ないのですが…」

「…それは仕方ないか」

主人公達が途方に暮れてやよいの家を出ると、聞き覚えのある女性の声がした。

「あらあなた達、さっきはやまたのおろちから助けてくれてありがとう!お礼を言おうとしたのにいなくなっちゃったから探してたのよ。私はネフェロバークの町長で商人のネフェロ。皆からはネロって呼ばれてるわ。あなた達の名前を訊いてもいい?」

「…どういたしまして。オレはリソル。こっちは主人公」

主人公はネロに軽いお辞儀をした。

「リソルくんと主人公さんか。ふたりとも、やまたのおろちを倒しちゃうなんて、強いのね。もしかしたら魔王バラモスも倒せるんじゃない?ねえ、これからどこへ行くの?」

魔王、という言葉に主人公とリソルは目配せをした。

「…いや、どこってのは決まってないんだよね」

主人公が軽く事情を説明した。

「そうなの…。分かったわ。私はね、魔王バラモスを倒す為、オーブを求めてネフェロバークから自分の船でジパングへ来たのよ。良かったらあなた達の旅のお手伝いをさせて欲しいわ」

主人公とリソルにとってとてもありがたい申し出だ。
ネロが仲間に加わった!

「…オーブって?」

「あなた達、やまたのおろちを倒した時に光輝く玉を手に入れなかった?」

主人公が鞄から先程拾った紫の宝石を取り出してネロに見せた。

「それよ。それはパープルオーブっていうの。世界中に散らばる6つのオーブを集めレイアムランドの祭壇に捧げると、伝説の不死鳥ラーミアがよみがえる、と言われているわ」

「…ラーミア?」

「魔王バラモスの城のあるネクロゴンドは人の足では辿り着けない場所にあるの。不死鳥ラーミアをよみがえらせればきっと助けになってくれるはずよ」

「なるほどね。ところで他のオーブのありかは見当ついてるの?」

「ええ。オーブに100万Gの懸賞金をかけて情報を集めたから大体はね」

「ひゃくまん…!?よくそんな大金が」

「これでもやり手の商人なのよ?まあ懸賞金にお金をかけすぎて酒場で仲間を雇う余裕がなくなっちゃったんだけどね。戦闘もまあまあ自信があったんだけど、私ひとりじゃやまたのおろちには手も足も出なかったわ。あなた達に会えて本当に幸運だったわね」

やまたのおろちにひとりで戦いを挑むなんて尊敬するよ」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

「…底無しのポジティブだね。それで?次はどこに向かうつもりだったの?」

「今いるジパングから船で南東に進んだ先の大陸に海賊のアジトがあるの。そこにレッドオーブがあるって噂よ」

「…海賊がレッドオーブ持ってるって事?海賊が簡単にオーブを譲ってくれるとは思えないけど」

「魔王を倒す為なら譲ってくれるでしょ。さあ早く船に乗って、ふたりとも。時は金なり、よ。パパッと海賊のアジトへ行くわよ」

ジパングを出て船で南東に進むと、ジパングの何十倍もありそうな大きな大陸に着いた。船をとめ、少し歩くとネロの言う海賊のアジトらしきものが見えてきた。

「ごめんくださーい!こんにちはー!ネフェロバークの町長のネフェロですー!」

ネロがアジト前で元気に挨拶をした。ネロの態度の切り替えの良さに面食らった主人公とリソルはビックリしてネロを見た。ネロはひそひそ声で

「商売は愛想の良さが大事なのよ」

とふたりに言った。アジトから見るからに海賊らしき男が顔を出した。

「おかしらに用か?おかしらは奥にいるぜ。入りな」

案内されアジトの奥の部屋へ進むと、日に焼けた肌の堂々とした女性がいた。女性が口を開いた。

「女のあたいが海賊のおかしらなんておかしいかい?」

思っていた通りの事を言われ、思わず主人公は頷いてしまった。ネロがすぐさま

「主人公さん!失礼よ!」

と言った。

「ずいぶんはっきりといってくれるじゃないの。でもそこが気にいったよ」

おかしらの意外な反応にネロは胸を撫で下ろした。

「それで、海賊のアジトなんかに何の用があって訪ねてきたのさ」

「魔王バラモスを倒す為にオーブを集めています。 ここにレッドオーブがあると聞いてやって来ました」

「どこかの町長が魔王をたおすために旅をしてるって噂はホントだったのか!いいさ、レッドオーブならアジトの側の地下にあるから持っていきな。実現するかどうかはわかんないけど…もしたおせたあかつきにはぜひまた寄ってくれよな」

主人公達はレッドオーブを手に入れ船に戻った。

「ふふふ。順調順調!次はランシールへ行くわよ!」

「…ランシールってどんな所?」

「大きな神殿があって、その神殿の神官からの試練を受けて行く地球のへそにブルーオーブがあるという噂よ」

「地球のへそ?」

「試練の洞窟の事よ。地球のへそへはパーティを組まずひとりで入らないと」

3人で相談した結果、天地雷鳴士でカカロンを召喚できる主人公が試練を受ける事になった。

「さあてと、ここがランシールね!」

「…神殿なんて見当たらないけど?ただの小さな村じゃんか」

「おかしいわね、大きな神殿があるって有名なんだけど…」

村人達に話を聞くと、ここはランシールで合っているという。大きな神殿もあるという。

「神殿はどちらにあるんですか?」

「はっはっはっは!」

村人は大笑いをして村の北の森の方を指差した。

「旅人はみーんな迷子になるんだよなぁ!」

「あんたに言われてそっちを探したけど神殿なんて見つからなかったぞ!」

近くにいて主人公達と村人のやり取りに聞き耳を立てていた旅の武闘家がぶつくさと文句を言った。

「はっはっはっ!神殿を見つける事も出来ないような奴に試練をクリアする事なんて出来ないさ」

「なんだと~!!」

「大人しくランシール名物のきえさりそうでも土産に買って帰ったらどうだい」

「この野郎!」

「まあまあまあまあ」

村人に殴りかかりそうになる武闘家をネロが止める。

「なるほどね。神殿を見つける所から試練が始まってるって訳か」

村人と武闘家に別れを告げて北に向かって歩く3人。やっぱりさっきの村人の話は嘘だったのでは?と疑念がわきだした頃、森の中に建つ神殿がついに見えた。
神殿に入ると待ち構えるように神官が立っていた。

「よくきた旅人よ!ここは勇気をためされる神殿じゃ。たとえひとりでも戦う勇気があるか?試練を受けると言う者は前へ出よ!」

その言葉に主人公は神官の前へ進み出た。

「名は何と申す?」

主人公は自分の名前を神官に伝えた。

「ふむ、主人公と申すのか。私についてまいれ!」

「頑張ってね、主人公さん」

「いってらっしゃい、主人公」

「ではゆけ!主人公よ!」

神官に見送られ主人公は神殿の細い廊下を進んでいった。廊下は洞窟へ繋がっていた。
目の前に分岐のある細い道が無数に広がっている。
まずはすぐ側の道を選んでみた。きっと行き止まりだろう。

主人公の予想は的中し、やはり行き止まりであった。行き止まりにはいかにも怪しい宝箱があった。
町のタンスやツボを覗き込まずにはいられないのが主人公の性、躊躇わず宝箱を開けた。

宝箱の中身はひとくいばこだった。
ひとくいばこは箱を開けた主人公の手を喰い千切ろうとしてきた。
主人公はさっと後ろに跳びすさって幻魔のカカロンを召喚した。
カロンマヒャドを唱えた。
ひとくいばこが凍りつく。

カロンは「あら、もう終わり?」という顔をしている。
主人公はカカロンに回復を任せようとしたが、今は好戦的な気持ちらしい。
主人公が戦わなくてもカカロンだけで大丈夫そうだし、主人公は攻撃をカカロンに任せる事にした。

手当たり次第に道を進み、ひとくいばこが化けている宝箱を開け、カカロンマヒャドを撃ち込ませた。

まぁ、カカロンだってたまには攻撃がしたいんだろう。
大体敵のとどめはいつもカカロンだし、本当はかなり好戦的な幻魔なのかもしれない。好きにさせてあげようか。

「どんどんいくわよ!」と張り切るカカロンに苦笑しながら主人公は先へ進んでいった。

※ ※ ※

一方、神殿で主人公の帰りを待つリソルとネロ。
神官は2人が主人公の後を追いかけないように見張っているようだ。
手持ち無沙汰になった2人は神官から少し離れた所に腰を下ろした。

「リソルくんと主人公さんって恋人なの?」

主人公の気を探っていたリソルはネロの質問に引き戻された。

「何?急に」

「なんとなく、そうかなって」

「まぁ、そうだけど」

隠す事でもないし、と答えるリソル。

「いいわね~。私もね、昔恋人がいた時があったわ」

「へえ」

「でもね、商人や町長の仕事に集中する為に別れてしまったわ」

「誰かの支えがある方が頑張れたりしなかったの?」

「彼が会えなくて寂しそうにする姿に耐えられなかったのよ。私、なんでも完璧じゃないと気が済まなくて。彼を満たしてあげられない自分に嫌気が差したの」

「仕事より彼を取ろうとは思わなかったんだ?」

「彼は1人だけど商人や町長の仕事は何百もの人間の生活に関わるわ。だから私には彼1人を選ぶ事は出来なかった」

「ふうん」

1人の人間を満たす事が出来ないのに何百もの人間を満たす事が出来るのか、なんて思ったがリソルは黙っておいた。
つまらない正論を振りかざした所で彼女は救われない。
それに主人公も多分、似たような事で悩んでいるようだった。
オレなら迷わず1人を選ぶけど、ネロや主人公のような責任感が強くて真っ直ぐな奴はすごく苦しむのだろう。
そういう真っ直ぐな奴ほどバキッと真っ二つに折れるから、側で支えてやる人が必要だと思うが。

「ネフェロバークは私の人生の全て。子どもみたいなものね。いつか2人にも見て欲しいわ」

「楽しみにしとくよ」

ネロの人生はネロのものであり、何が一番大事か決めるのはネロ自身だ。
なによりネフェロバークの事を話す時のネロはとても誇らしげだ。
リソルは彼女の選択を否定するまいと決めた。

※ ※ ※

「くしゅん!」

リソルとネロがそんな話をしているとは露知らず、主人公はくしゃみをした。
洞窟の奥に進めば進むほど空気が冷たくなっていく。

細かい分岐が終わり目の前の道が大きく左右に別れていた。そろそろゴールが近いのかもしれない。主人公は左の道を進んだ。

「ひき返せ!」

突然洞窟に何者かの声が響いた。
飛び上がる主人公。
恐る恐る進むと

「ひき返した方がいいぞ!」

とまた声が響いた。声がした方に目をやると、洞窟の壁に仮面が貼り付いていたが、まさか仮面が喋ったのだろうか?
前方の壁にも仮面が何個か貼り付いているので今度は仮面を見つめながら進むと、仮面の目が青白く光り、やはり確かに喋っている。

「ひき返した方がいいぞ!」

ぶきみだが何もしてこなそうなので無視をして進む主人公。

「ひき返せ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返せ!」

「ひき返せ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

そして行き止まりの仮面が喋った。

「ふあっふあっふあっ…お前の意志の強さだけは認めよう。だが……むこうみずなだけでは勇気があるとはいえぬ。ときには人の言葉にしたがう勇気もまた必要なのじゃ」

なんだそりゃ、とずっこけたい気持ちをこらえ、主人公は先程の分岐点へ戻り右手の道を進んだ。
やはりこちらも壁の仮面が喋る。

「ひき返せ!」

「ひき返した方がいいぞ!」

「ひき返せ!」

面達の言葉を無視して進むと今度の行き止まりには宝箱があった。
中には光輝くブルーオーブが入っていた。
主人公はブルーオーブを手に入れると、リレミトで神殿に戻った。

「おかえりなさい主人公さん!無事でよかったわ!ブルーオーブは手に入った?」

「これこれ仲間うちでさわがぬように。ともかく……よくぞ無事で戻った!どうだ?ひとりでさびしくはなかったか?」

主人公は頷いた。

「そうか。お前は強いのだな。ではお前はゆうかんだったか?いや…それはお前がいちばんよく知っているだろう。さあゆくがよい」

3人はランシールを後にし、船へ戻った。

「どんな試練だったの?」

ネロに訊かれ主人公はどんな感じだったか説明した。

「仮面が喋るなんてぶきみね」

「喋る仮面ねぇ…」

ネロは喋る仮面の話に驚いているがリソルはそれほどでもないようだ。もしかしたら魔界にはよくあるのかもしれない。

「それで次はどこ行くの?」

「お次はエジンベアのお城ね」

「今度は何オーブ?」

エジンベアはオーブ目的じゃないの。さいごのかぎを手に入れる為に必要なかわきのつぼがあるという噂よ。さいごのかぎがあればどんな扉でも開けられる。オーブを全部集める為には必要だわ」

「お城の壺なんて王様が素直にくれるかね」

「やってみなきゃ分からないわ。行きましょう」

とは言ったものの。

「なーにが『ここはゆいしょ正しきエジンベアのお城。いなか者は帰れ帰れ!』だッ!!このオレのどこがいなか者に見える訳!?」

「2人はこの辺じゃ見かけない服着てるし、私も旅人用の服着てるし。貴族の服買おうにもそれこそオーブ売らなきゃお金が無いし、顔もさっきの兵士に見られてるからね。壺は諦めようかしら…」

3人はエジンベアの兵士に追い返されてしまったのだった。
その時主人公が閃いた。さっそく2人に提案してみる。

「ランシールのきえさりそう?」

「姿を消して忍び込むの?アンタにしちゃ珍しい案だね。コソコソ忍び込むなんてオレに似合わないから普段ならお断りだけど、今回はそうも言ってられないか」

3人はランシールへ引き返し道具屋できえさりそうを購入し、エジンベアへ戻った。

「効果はどれくらい持つのかしら」

「城に入れれば後はなんとかなるでしょ」

きえさりそうを使い、お互いに姿が見えなくなった事を確認する。

「手繋がない?2人がどこにいるか全く分からないわ」

「仕方ないな。ほら」

3人は手を繋ぐと先程追い返された兵士の横をすり抜け、城内へ侵入した。

「王様に壺を譲ってくれるか訊いてみましょう」

王様を探しているときえさりそうの効果が終わり、3人の姿が見えるようになった。
リソルがすぐさま手を振りほどく。

「城から追い出されないかしら」

ネロは心配したが城の人々は特に追い出そうとはしてこないようだった。

「王様はこちらです」

「王様に失礼のないようお願いします」

「王様は心の広いお方。あなた達のようないなか者でも会って下さるでしょう」

王様に会いたいと告げると兵士達に2階の玉座へ案内された。

「わしは心の広い王さまじゃ。いなか者とてそなた達をばかにせぬぞ。今日は何用で参ったのじゃ?」

いなか者と連呼されてリソルの口の端がヒクヒクしている。爆発する前に用を済ませたいものだ。

「私達は魔王バラモスを倒すべく、オーブを集めています。その為、エジンベアにあるというかわきのつぼが必要なのです。どうか譲っては下さらないでしょうか」

「まことあっぱれな志じゃの。構わんぞ。持って行くがよい。ただし、手に入れられたら、じゃがな」

「と言いますと?」

「ちょっとした謎解きが必要なのじゃよ。壺を狙う不届き者が後を絶たないのでな、ちょいと仕掛けをしてあるのじゃ。名高い職人に作らせた仕掛けだからわしにも解けぬ。欲しいというなら仕掛けを解いてみせよ。解けたなら壺は好きにしてよいぞ。ほっほっほ」

3人は玉座から下がり、壺があるという地下へ向かった。
水路に囲まれた部屋の中央にそれらしき壺が見える。
しかし壺の側に先客達がいるようだ。
先客達は今まさに壺を持ち去らんとしていた。

「あなた達ちょっと待って!それはかわきのつぼよね?私達それがどうしても必要なの!譲って下さらないかしら!」

ネロが交渉を持ちかけようとする。

「そいつぁお断りだ。かわきのつぼはたった今、このカンダタさまが手に入れたのよ。諦めな」

「魔王バラモスを倒す為に必要なのよ!」

「魔王バラモス?知ったこっちゃねえ。てめぇらみてぇな弱っちいやつらが倒せる訳ねぇだろ。どうせつくならもっとマシな嘘にしやがれってんだ。おい、おめぇら、やっちまいな!」

「はい、おかしら!」

カンダタ子分達が3人に襲いかかってきた。
が、一瞬で子分達はフッ飛んで壁に打ち付けられた。

「ぐえっ」

「ぎゃっ」

「あぐっ」

「…誰が弱っちいって?」

リソルがブチ切れてしまったようだ。
さっきからいなか者だのなんだのと馬鹿にされ続けてたから。
あーあ、知ーらないっと。

カンダタが真っ青になって土下座をする。

「まいった!かわきのつぼならあんたたちにやるからゆるしてくれよ!な!な!」

はい
いいえ←

「…そんなんでオレの気が済むと?」

「そんなこといわずにさ ゆるしてくれよ!な!な!」

はい
いいえ←

「つぼくれるって言うならいいじゃない。ね、リソルくん」

ネロがリソルをなだめる。

「…」

「たのむ!これっきり心をいれかえるからゆるしてくれよ!な!な!」

「これでさいごのかぎが手に入るわ!バラモスまであと一息よ」

「ん?今あんたさいごのかぎって言ったか?そんな名前の鍵、この前手に入れたぞ?」

「なんですって!?」

カンダタは自身の履いている緑の年季の入ったパンツをゴソゴソすると鍵を取り出した。

「そうだ!かわきのつぼとさいごのかぎもあんたたちにやるからゆるしてくれよ!な!な!」

願ってもない提案だが、しかし…それが本当にさいごのかぎなのか分からないし、ていうかその鍵触りたくないんですけどおおおお!

「どうする…?」

3人は顔を見合わせた。
主人公はカンダタを仲間にしてはどうか、と言った。

「正気?」

リソルが信じられない、といった顔で主人公を見た。

「いくら動物園みたいに個性豊かなフウキのメンバーをまとめてるアンタでもコイツは流石に手に余るんじゃない?」

「うーん、限りなくナシ寄りのアリかもね」

「町長まで!?本気なの?」

「鍵が偽物だったらその場でお別れすればいいんじゃないかしら」

「…まじかよ。主人公、アンタに任せるよ、オレは」

主人公はカンダタを仲間にすると決めた!

カンダタさん、私達と一緒にバラモスを倒しに行かない?」

カンダタもびっくりである。

「なんだって!?オレさまは誰かの子分になるような玉じゃねぇんだが」

リソルがカンダタを睨んだ。

「わ、わかったわかった!仲間になってやらぁ」

カンダタが仲間になった!

「で?次どこ行くか決まってんのか?」

「テドンの村へ行きましょう。その村にはさいごのかぎにしか開けられない牢があるらしいの」

「もし嘘ついてるなら今のうちに白状した方が身の為だよ、盗賊さん♪」

「嘘じゃねぇやい!」

4人はエジンベアの城を出、船へ戻った。

「そーいやあんたたち、何者なんだ?」

主人公とリソルとネロはカンダタに自己紹介をした。

「ネフェロバークっつーとこの町長はかなりやり手だって聞いた事あんな。短期間で町をすげえでっかくしたんだってな。町のやつらからは裏で暴君ネロって呼ばれてるとか。あすとるてあってのは初めて聞いたな」

「へぇー。本当に町長って有名なんだね、すごいじゃん。けどさ、暴君って何?気に喰わない事があったらすぐ『ソイツの首をはねろ!』とか言ってんの?」

「私がそんな事言うように見える?!」

今まで過ごしてきた感じではそんな風には見えなかったが…。

「もー!心外だわ!初耳よ初耳!誰が暴君なんて呼んでるのよ!」

「まぁ、ただの噂でしょ」

ぷりぷり怒っているネロをなだめつつ、一行はテドンの村に着いた。もうすっかり日は落ちている。寂れた小さな村をカンダタが見渡す。

「で?本当にこんなちっこい村にオーブなんかあんのか?」

「そんな大声で今いる村の事をディスらないで。失礼でしょ。えーっと、この村のどこかに牢屋があるはずよ」

牢屋は村の奥にあった。ぼろぼろで小汚い牢の中には囚人が1人いるだけだった。

「おい…ネロ、本当に…」

カンダタが疑いの眼差しをネロに向ける。流石にネロも自信なさそうに

「この村の牢屋にあるって事と、さいごのかぎが必要って事しか聞いてないわ…」

と言った。

「…それならさいごのかぎでこの牢、開けてみる?牢の床掘ったら見つかるとか、そんな感じじゃない?」

「囚人が逃げちまうんじゃねーか?」

「アンタとオレが見張ってれば平気でしょ。さ、早くアンタが持ってるその鍵がホンモノかどうか証明してよ」

「分かった分かった!」

カンダタは自身の緑のパンツから鍵を取り出すと牢屋の錠前に差し込んだ。鍵を回すとカチっと音がし、錠が外れた。

「これでオレ様が嘘ついてないって分かったろ!?用も済んだしもう帰っていいよな!な!な!」

「駄目よ。この先もまださいごのかぎが必要になるかもしれないわ」

「鍵ならおめえらにやるからよ。オレ様には用ねえだろ?」

「…カンダタさん、あのね、実は魔王バラモスは世界の100大秘宝を持ってるって噂なのよ」

「なんだと!?」

「このまま私達と一緒に行けば、魔王バラモスの世界100大秘宝が手に入るわよ」

「なら仕方ねえ!もうちっとばかし、おめえらに付き合ってやる!」

「うふふ。ありがとう。よろしくね」

ネロは満面の笑みを浮かべて言った。
バラモスがお宝持ってるなんて初耳だな、と思い主人公がリソルを見ると、リソルは人差し指を唇の前に立てて「シーッ」というジェスチャーをした。
あー、そういう事か。流石商人…。

「皆様のお話、聞かせて頂きました」

突然、牢屋にいた囚人が話し掛けてきた。4人とも驚いて囚人の方を向いた。

「やっと来てくださいましたね。私はこのときを待っていました。運命の勇者が私のもとをたずねてくださるときを…。さあこのオーブをおうけとりください!」

主人公達はグリーンオーブを手に入れた!

「世界にちらばるオーブを集めてはるか南レイアムランドのさいだんにささげるのです。あなたがたにならきっと新たなる道がひらかれるでしょう」

「これで4つ目ね!あと2つよ!この次は大変よ。ねぇ、もう今日は遅いし、村に宿もあるし、せっかくだから泊まっていかない?」

「そうしようぜ!長時間船に乗ってたから疲れちまったぜ」

「…なんか嫌な感じのする村だけど。アンタ達が泊まりたいって言うなら」

「変な事言うなよ!さ!さっさと寝ようぜ!」

「…後悔しても知らないからね?」

リソルのそういう時のカンがよく当たるのを知っているので主人公は胸騒ぎがしたが、皆と一緒に宿に泊まる事にした。疲れていた為か横になるとすぐに眠ってしまった。そして4人はテドンの村の宿屋で朝を迎えた。


「……?」

ユサユサと誰かに体を揺さぶられて目が覚めた。体を起こすと目の前にネロがいた。

「あっ、主人公さん起こしちゃってごめんなさい。おはよう。あのね、この村、変なの。だから早く出た方がいいかなって」

「町長はオバケが出そうで怖いから早く船に戻りたいんだよね♪」

リソルがケラケラ笑いながらネロをからかう。

「別にオバケが怖い訳じゃないわ!」

「主人公起きたか!早いとこ船に戻ろうぜ。なんかよお、朝起きたらこの村、人っ子一人いねえんだよ。薄気味わりぃー村だぜ」

ネロ達に急かせれながら宿屋を後にし村の中を見回ると、なんと、昨晩はいたはずの村人達が誰もいなくなっていた。

「な?誰もいねーだろ?」

「…それどころか数ヵ月以上誰も住んでないかのような雰囲気だし」

「きゃー!やめてリソルくん!それ以上何も言わないで!」

「魔王の城が近いのか、禍々しい気が漂ってるし、もしかして昨日会った村人達…」

「言わないでってば!はい次!次行くわよ!!」

ネロに押し込まれるように船に乗り、しばらくして着いたのはまるで秘境のように人の気配のないほこらだった。ほこらの入口にかかった鍵をカンダタが解錠し、中に入ると旅の扉があった。

「こいつはどこに繋がってるんだ?」

サマンオサよ。最近良くない噂ばかり聞くから気をつけましょ」

旅の扉をくぐり、森を抜けるとサマンオサと思われる町に着いた。
町に着くと、またもや人の気配がしない…かと思われたが、どうやら町の人々が教会に集まっていた為のようだった。

「こりゃ……葬式か?」

黒い服に身を包む集団に近付くと声が聞こえてきた。

「あんたあ〜なんで死んだのよ〜?うっうっ…」

「ブレナンよおー。おまえはいいヤツだったのにな〜」

「天にましますわれらが神よ、戦士ブレナンのめいふくを祈りたまえ」

「ねえもう父ちゃんは帰ってこないの?どこかへ行ったの?」

「王さまの悪口をいっただけで死刑だなんてあんまりですよ!これじゃおちおち商売もできませんよ!」

4人に気付いた町の女性が訴えかけるように嘆いてきた。

「多くの人たちが毎日牢に入れられたり死刑になっているんです、昔はおやさしい王さまだったのに…」

「とんでもねぇ町に来ちまったな」

カンダタさん、あなた特に気をつけなさいよ」

「ん?」

「テドンの村にいた時みたいに周りに聞こえるような大きな声で王さまの悪口言ったりしないでね」

「へいへい」

「しっかし人間そんな突然性格が180度変わるもんかね」

「そうよねぇ…。何があったのかしらね」

「牢屋に入れられちまう前にとっととオーブ手に入れようぜ。どこにあんだ?」

「ああ、ここにはオーブは無いのよ」

「はあ?」

サマンオサにはオーブを手に入れるのに必要なへんげのつえがあるの」

「…へえ。そんな杖がこんな所に?」

「なんだそのへんげのつえって。すげえのか?」

「その名の通り、その杖を使えば魔力の無い者でも高等魔術であるモシャスが使え、魔物にでも人間にでもエルフにでもなんにでも姿を変えられる。変幻自在さ」

「なんかすげえお宝じゃねえか!」

「リソルくん詳しいのね」

「…昔読んだ魔術書に書いてあっただけ」

「よーし、そんなすげえお宝って事は持ってるとしたら王さまだろ!ここの王さまに訊いてみようぜ!」

カンダタさん、さっきも言ったけど王さまにはくれぐれも…」

「わかってるって!」

   ※ ※ ※

先ほどの会話から数十分後。

「…ねぇ、どうして私達は牢屋にいれられたのかしら…?」

サマンオサの王様に謁見後、4人は城の地下の牢屋にいれられてしまっていた。

「…さあね」

「…何も失礼な事言ってないわよね…?」

「へんげのつえ知らねえかって訊いただけだぜ」

ネロもカンダタも納得が出来ない、という顔だ。

リソルがフフッと笑った。

「王様のあの感じ、人間じゃないよ」

「まあ確かになんにもしてねぇ奴を牢屋にぶちこむなんてまともな人間じゃねえよな」

「そういう意味じゃなくて、ここの王様は魔物だって言ってんの」

「えっ?!」

「ああん?」

ゴホン、と見張りの兵士が咳払いをした。
咳払いにはっとして主人公達は兵士を振り向いた。
兵士は目をつぶると小声で言った。

「私は眠っている。だからこれは私のねごとだ。たしかに最近の王はおかしい。だがわれわれは王さまには逆らえぬ。私はここから動けぬがうわさではこの地下牢には抜け穴があるそうだな…」

主人公達は顔を見合わせた。

「こりゃ見逃してくれるって事か?」

「そうみたいだね」

カンダタさんの持ってる鍵で開けられるかしら?」

「どーれ、やってみっか」

カンダタのまほうのかぎはカチリッと音をたてて牢にかかった鍵を解錠した。

「よっしゃ!」

「やったわね!さあ早くここから出ましょう」

地下牢には主人公達の他にも何人もいれられているようだった。

「他の人は何でいれられてしまったのかしら」

ネロと目が合った剣士と思われる男が話しかけてきた。

「真実の姿をうつすラーのかがみというものが南の洞くつにあるそうだな。この話を人にしたとたん私は牢に入れられたのだ。くそっ!どうなっているのだ!」

剣士は牢の格子を思い切り蹴飛ばした。地下牢にガキィーンと金属音が響いた。

「だれかそこにおるのか?」

少し離れた牢から男性の声がした。

「わしはこの国の王じゃ。なに者かがわしからへんげのつえをうばいわしに化けおった。おおくちおしや…」

「なんですって!?」

「まさか王さまが牢にいれられてるとはね」

「そんなら城や町の奴らに玉座の王さまは偽もんだぞって教えてやりゃあいいんじゃねえのか」

「通りすがりの旅人の言う事なんて信じると思う?侮辱罪で今度はオレ達死刑になる事間違いナシだね」

「ならどうすりゃいいんだよ」

「さっきの剣士さん、南の洞くつにラーのかがみがあるって言ってたよね?それを使えば偽王サマの化けの皮を剥がせるんじゃない?」

「なるほどな!じゃあさっさと取って来ようぜ!」

4人は抜け穴から牢を脱出すると、サマンオサの南の洞くつへ向かった。

「結構広いわねぇ」

「何にもねぇなぁ…お、階段階段!」

カンダタが階段を下りようとすると、くさったしたいやがいこつけんし、キラーアーマー達に囲まれた。

「邪魔くせー!おい!子分ども!!」

カンダタが子分を呼んだが誰も来ない。

「あ、そうか、あいつらがオレさまの子分をやっつけちまったから…。おい、見てないでお前らも戦ってくれよ!」

「アンタの実力がどんなもんか見せてもらおうと思ったんだけど」

「あんだとぉ?!チッ、しょうがねぇな!いくぜ、マッスルポーズ!!」

「…は?」

カンダタのマッスルポーズ!魔物達は混乱した!

「ちょっ、何それ…。もっとまともな攻撃無いわけ?」

カンダタの超ちからため!からの〜、マッスルポーズ・極!!!魔物達はカンダタにみとれている!
リソルは大きな溜め息をついて

「アイツ仲間にしようって言ったの誰だっけ…?」

と言ってじろりと主人公を見た。主人公はカカロンを召喚すると慌ててカンダタの加勢に入った。

「リソルくん…、私もカンダタさんと似たような事しか出来ないわよ」

「町長もなの!?よくそれで魔王討伐の旅に出れたね?まぁ、魔王バラモスなんて聞いた事ないような小者、オレと主人公のふたりで楽勝だと思うけど」

カンダタに魅了された魔物達を主人公が百花繚乱で蹴散らし、4人は階段を下りていった。

「お!宝箱がいっぱいあるぜ!!」

「待ってカンダタさん!インパス!」

ネロが呪文を唱えると宝箱が赤く光った。

「中身はモンスター。おそらくミミックね」

「なんでい!お宝じゃねえのか!」

20個程あった宝箱をインパスして、青く光った物だけを開けていったが、ラーのかがみは無かった。

「この階には無さそうね。下の階に行ってみましょう」

階段を下りると、水に囲まれた明らかに怪しい宝箱があった。

「きっとあの宝箱の中身がラーのかがみね。でもあそこに辿り着けそうにないわ」

「水深は底が見えないほど深いし、中にどんな魔物がいるか分からないし、水に入るのは危険だと思うね」

「そういや上の階に穴が無かったか?」

「あそこから落ちるの?かなり高さあるわよ」

「んー…、お!そうだ!!」

カンダタがパンツから何かを取り出した。

カンダタさんなあにそれ?すっごいニオイ…」

「これはな、そらとぶくつってんだ!ご先祖様が言うにはこれを履いて跳べば月まで届くんだと。これならあの宝箱まで行けんじゃねーかな。よっ」

カンダタは天井に頭を思い切りぶつけた。

「いてぇーーーッ!!あーくそ!もっかいだ!」

カンダタは今度は歩くのとほとんど変わらないくらいの強さで地面を蹴ると、ふんわりと宝箱の側に着地した。

「よっしゃあ、さすがオレさま!!さーて、お宝はっと」

カンダタが宝箱を開けると、中にはラーのかがみと思われる、不思議な雰囲気を纏ったかがみがあった。カンダタラーのかがみを手に入れるとそらとぶくつを使い3人の元に戻った。

「これで偽王さまの化けの皮が剥がせるわね!でも、私達、城に入ったらまたすぐ牢屋に入れられちゃうんじゃないかしら?」

きえさりそうがまだ残ってるでしょ?あれを使って玉座まで行けばいいんじゃない?」

主人公達はサマンオサへ戻ると、城の前できえさりそうを使った。体が透明になった4人は城に忍び込み、玉座を目指した。玉座の間に入った途端、きえさりそうの効果が切れ、主人公達の姿が現れた。

「どうやって牢から出た!しかし戻ってくるとはバカなやつめ!この者らを牢にぶちこんでおけい!」

「くらえ!ニセモノめ!!」

カンダタは王さまの姿をラーのかがみにうつしだした。なんとかがみにはバケモノの姿がうつっている!

「見〜た〜なあ?けけけけけっ!生きて帰すわけにいかぬぞえ」

サマンオサの王さまに化けていたボストロールは主人公達に向かってルカナンを唱えた。主人公達の守備力がかなり下がった。

「これじゃあのこん棒で一発でも殴られたら致命傷ね」

「だね」

ねんねんころりよおころりよ〜♪」

ネロは子守唄を歌った。ボストロールには効かなかった。なんとカンダタが眠ってしまった!

「え!?やだ嘘でしょ!?」

主人公がカンダタをツッコミで起こした。

「ほぎゃッ?!」

ネロの指まわし!成功すれば混乱させられるが、これもボストロールには効かなかった。

「オマエたちの遊びに付き合ってる暇はないのだが」

ボストロールはこん棒を大きく振りかぶった。

「きゃー!やばいやばい!えいっ!」

ネロの足払い!ボストロールはバランスを崩して倒れ、起き上がろうともがいている。その隙に準備を整える。主人公は風斬りの舞を踊り、カカロンを召喚。さらにボストロールに花ふぶきで幻惑をかける。リソルは魔眼開放をし、魔力を大幅に高めた。そしてカンダタのマッスルポーズ・極!4人はスーパーハイテンションになった。ボストロールが起き上がり、こん棒を振り回す。が、幻惑のせいで当たらない。

「クソ!こざかしいニンゲンどもめ!」

リソルのジゴスパーク

「グアアアアアアッ!!」

激しい稲妻がボストロールの巨体を焼く。

「ふうん?まだ息があるんだ?」

リソルはドルマドンを唱えた!

「ぐげげげ おのれ〜」

ボストロールはそう言い残すと息絶えた。体は崩れるように消え去り、後にはへんげのつえが落ちていた。ネロはつえを布に包むと鞄にしまった。
主人公達によってニセの王さまはたおされすぐさま本物の王さまが助け出された…。そして夜が明けた!

「ふたたびここに座れるとは思わなかった。心から礼をいうぞ!そなたらはわしの命の恩人じゃ。気をつけてゆくのだぞ!…何、へんげのつえじゃと?そなたらが必要とするなら持って行くが良い!」

主人公達が玉座の前から下がろうとすると、牢で会った剣士が話しかけてきた。

「私はサイモンの息子。ゆくえ知れずになった親父をさがして旅している。うわさではどこかの牢屋に入れられたと聞いたのだが、サマンオサではなかったようだ。それはともかく、君達にお礼がしたい。どうかこの、ガイアのつるぎを持って行ってくれ」

「あら、ガイアのつるぎがあればへんげのつえは必要ないわ。王さまにお返ししてあげましょう。王さま、へんげのつえはお返し致します」

「また奪われないように気を付けなよ、王サマ」

「はっはっは。そうじゃな、気を付けるとしよう。じゃがもし奪われてしまったらその時はまた頼むぞい」

サマンオサをあとにした4人は、テドンの村の北にある火山の火口を目指して山道を登っていた。

「ぜぇぜぇ…。なあ、そらとぶくつ使っちゃ駄目か?」

「火口に落ちても知らないわよ」

「ちぇー。このくつ、力の加減が難しんだよなあ。下手するとまじで月まで行っちまうからな」

「つるぎなんか火口に持って行ってどうするのさ」

「ガイアのつるぎを火口に投げ入れると、シルバーオーブがあるほこらへの道が開けるそうなのよ」

「こーんな、魔王の城の目と鼻の先にほこらなんかあるの?」

「ふふ、今まで私の情報が間違ってた事があった?さあ、火口に着いたわね!何が起きるか分からないから皆火口から離れて。つるぎを入れるわよ」

ネロはガイアのつるぎを火口に投げ入れた。すると大きな地鳴りと立っていられないほど強い地震が発生し、火口から熔岩が吹き上がり流れ出した。熔岩は4人が登ってきた山道とは逆側の山肌に流れた。熔岩の流れた先にはほとんど垂直の岩山の上に建てられたほこらがあり、まるで満ち潮のように熔岩がほこらの岩山を囲った。そして地鳴りと地震がおさまり、熔岩が冷えて固まると、ほこらへと続く道となった!

「な…な、なんだこれは…ッ」

信じられないような現象を目のあたりにして、カンダタは腰が抜けそうになっている。リソルも驚きのあまり言葉が出ないようだ。ネロもぼう然としていたが我を取り戻すと

「さあ、行きましょう」

と言ってほこらへ向かって歩きだした。4人が熔岩の道を歩いていると、地鳴りや地震で驚いたのか、ほこらから神官の男性が顔を出した。神官は4人の姿を目に留めると驚きの声をあげた。

「なんと!ここまでたどりつく者がいようとは!」

神官は4人に歩み寄り、

「さあこのシルバーオーブをさずけようぞ!」

と言い、人間の頭ほどの大きさのある銀色に輝く丸い宝石をネロに渡した。

「そなたたちならきっと魔王をうち滅ぼしてくれるであろう!伝説の不死鳥ラーミアもそなたらの助けになってくれるだろう」

「これで全部で6つある内のオーブが5つ手に入ったね」

「おいネロ、残りの1個のオーブのありかは分かるんか?」

「ふふふ…。知ってるも何ももう既に手に入れてるのよね」

「!?」

「先日、とある筋の人から買ったの。今は私の町、ネフェロバークにあるわ」

「買っただと!?」

「皆に私の町を見てもらいたいと思っていたし、イエローオーブを取りに一緒に町へ帰りましょう」

船に揺られる事数時間、ネロが町長だというネフェロバークに着いた。町に着くなり女性が近付いてきて

「ネフェロバークへようこそ。ここはネフェロさまがつくった町ですわ。まあ!ネフェロさまじゃありませんか、おかえりなさいませ!ネフェロさま、お仕事が溜まっております!早くお屋敷へ!」

とネロを連れ去ってしまった。

「町長に案内して貰おうと思ってたんだけど…。どうする?」

「夜まで各自自由行動にしないか?オレさまはあそこの大っきな劇場へ行きたい!」

「オレは疲れたし少し町を見たら宿をとって休むかな」

「おう!そんじゃまた後でな!」

カンダタとも別れ久し振りにふたりきりになった主人公とリソル。

「武器屋でも見てかない?アンタの扇、ぼろぼろだし買い換えれば?」

リソルにそう言われ、近くにあった武器防具屋に入る。ドラゴンキラーやドラゴンシールド、てんしのローブなどなかなか良い品揃えの店だが、扇は扱っていないようだった。

「扇は無いのか…。ねえ、道具屋も見てっていい?」

そう言って隣の道具屋に入った。

「この世界はルーラストーン無いみたいだからキメラのつばさ買っとこ。あ、ぎんのかみかざりだって。アンタに買ってやるよ」

主人公は早速ぎんのかみかざりを装備した。

「へえ…意外とそーゆーのも似合うじゃん」

リソルに褒められて照れる主人公。それじゃリソルにも…と言ってモヒカンのケを買って渡す。主人公がすごくニコニコしているので「いや、こんなのいらないし」と言いたいのを我慢して受け取る。リソルは主人公からなら例え大嫌いなニンニクが入っている餃子を渡されたって突き返したりしないのだ…。

「さてと、そろそろ宿行こうか。町の入口の方にあったよね」

夜更けの裏通りは人が少ない。しかし、数人の町人達が集まって押し殺した声で何かを言い合っていた。

「……してしまうのはどうだろう?」

「しかしそれではあまりにも……」

「だがこのままでは……」

「こうなったら革命を起こすしかなさそうだ」

その内の1人が主人公とリソルに気付き仲間達に何事か囁く。

「あんたたちネフェロの連れか!止めてもムダだぜ。オレたちゃやるっていったらやるんだ!」

「ネフェロのやりかたはあんまりです!ぼくたちはもうたえられませんよ!」

「この話…他言はなりませんぞ!」

全部聞いていた訳じゃないので話が読めないが、物騒な雰囲気はふたりにも伝わってきた。

「先にカンダタを迎えに行こう」

リソルの言葉に主人公は頷き、カンダタがいるであろう劇場へ向かった。

※ ※ ※

「ヒューヒュー!」

「いいぞー!」

「うおおおお!ケイトちゃーん!」

舞台の踊り子が脚を振り上げる度に男性客の歓声があがる。これほど熱気に包まれた劇場をカンダタは今まで見た事ないなと思った。

ああ、なんで大盗賊のオレさまが大魔王討伐の旅なんかしてんだろうな。もうあいつらなんか無視してこの町に住むのも悪くねえ…。

酔っ払って眠くなってきたカンダタの耳にとある男性客の愚痴が入ってきた。

「ネフェロさまは私たち町の人間を働かせすぎる!このままでは私たちはたおれてしまいますよ」

よく知った名前が聞こえ、せっかくの酔いがさめてしまった。

「ちっ…そろそろ宿行くか」

重い腰を上げ劇場の出口へ向かう。

「おかえりですか?しめて5万ゴールド払っていただきます」

「5万ゴールドォ!?」

カンダタは酔いも眠気も完全に吹き飛んだ。

「なんだそりゃ!ぼったくりじゃねーか!」

やべぇ!てか財布持ってねぇ!

「ですがお客様…」

騒ぎになる寸前。

「おーい、カンダタ

主人公とリソルがやって来た。

「あなたがたは…。あら?ネフェロさまのお知りあいでしたの?あららこれはこれは…。ネフェロさまのお知りあいのあなた様からはお金はいただけませんわ。どうぞ、またのお越しをお待ちしております」

主人公とリソルを見てネロの連れだと気付いたらしく手のひらを返す店員。劇場から出、少し歩いて立ち止まるリソル。

「ん?なんだ?宿行くんだろ?」

「その前にさ。なんか町長がやばいみたいなんだけど」

「ああ、オレさまもさっき劇場でネロの愚痴言ってる奴見たな」

「町長に会いに屋敷へ行こう」

ネロの屋敷は町の一番奥に建っていた。かなり立派な屋敷だ。ネロに会おうとしたが

「ネフェロさまはお休みだ。帰れ帰れ!」

と門番に追い返されてしまった。

「くそっ。明日の朝にもっかい来るか」

「何事も無ければいいんだけどね…」

町の不穏な雰囲気についてネロに話せないまま3人は宿に泊まる事になった。なんとなく騒がしい夜なのは、この町が発展しているからなのか、それとも何かが起きてしまっているのか。今日初めてこの町を訪れた3人には判断のしようがなかった。不安を抱いたまま3人はネフェロバークで朝を迎えた。

「起きたか主人公。リソルももう起きてんぞ。朝飯食いに行こうぜ」

「おはよ主人公。寝れた?」

あんまり、と首を横に振る主人公。

「だよね…。ご飯食べたらまた町長の屋敷に行ってみよう」

宿屋の朝食を食べていると、他の利用者らしき人々の声が聞こえてきた。

「ここはネフェロバークの町。しかしもうネフェロだけの町ではないのだ」

「そういえば昔この町にイエローオーブとかいう物を売りに来た男がいたそうです。ネフェロが大金を出して買ったとか…まったくムダ使いをするもんです」

ガタッと大きな音をたててカンダタが椅子から立ち上がった。

「何だか嫌な予感がするぜ。早いとこネロに会いに行こうぜ」

食べ終わった食器を返却口に返して3人はネロの屋敷へ急いだ。

「ここはネフェロの屋敷。しかし彼女は今この中にはいないぞ。ふっふっふ」

屋敷へ入ろうとする3人に兵士が言った。

「ネロは今どこにいんだ!?」

カンダタが詰め寄る。

「ついに革命が起きたんだ。ネフェロは牢屋の中さ」

「何だと!?」

「嘘だと思うなら見に行けばいい。この町の創始者の彼女が今や囚人だ」

兵士をぶん殴りたい気持ちを抑えて3人は牢屋へ走った。牢屋の看守が3人に笑いかける。

「ここは牢屋だ。本当はネフェロが悪人をとらえるためつくったそうだが…自分がいれられるとはヒニクなものよな」

リソルとカンダタに睨まれ看守は笑みを引っ込めた。

「あ…3人とも…。私はみんなのためにと思ってやったのに……やりすぎちゃったのかな……。私しばらくここで反省してるわ。そうすれば……町の人たちもきっと私のこと許してくれると思うの。そうしたらまた私に会いにきて。それと、イエローオーブは屋敷に入った正面にある椅子の後ろにあるわ。他のオーブもあなた達に渡しておくわね」

カンダタが低い声で訊ねる。

「おい…ここから出ねえのか?オレさまたちの力がありゃあ…」

「ありがとう。でも逃げることはできないわ。バラモス、倒したら絶対に会いにきてよね。いい?オーブは南のレイアムランドの祭壇にささげるのよ。そうしたら不死鳥ラーミアがよみがえるから、その背に乗ってバラモスの城へ向かうのよ」

「…それで構わねんだな?」

「ええ。よろしくね。あなた達がバラモスを倒して帰って来るのをこの町で待ってるわ」

「…分かった。じゃあ、またな」

「またね」

ネロと別れ、屋敷の椅子の後ろにあったイエローオーブを手に入れると3人は船でレイアムランドへ向かった。

「あれで良かったのかな」

「…本人がいいって言ってんだ、いいんだろ」

「人間ってほんと面倒臭いよね…」

リソルは波の音に消されそうなくらい小さい声で言った。

「がむしゃらに頑張ったって駄目なもんは駄目だ。部下を大事に出来ねぇ奴にリーダーの資格はねえ。何かを間違えてたんだろうよ。まっ、カリスマ性に溢れたオレさまには無縁な話だがな。ガキには分かんねえだろうな」

「何をどう間違えたら緑の覆面マント男になるのかなんて知りたくもないね」

「オレさまの自慢のマントにケチつけようってのか!?」

やがて3人の目の前に立派な祭壇のある、東西に細長い雪に覆われた小さな島が見えてきた。

「あれがレイアムランド…?」

「すげえ祭壇があるしそうじゃねえか?」

「誰かいる…双子?」

レイアムランドの祭壇には双子の巫女がいた。

「さあ…祭壇にオーブを」

巫女に促され、3人は6つのオーブを祭壇に捧げた。

「わたしたち
わたしたち
この日をどんなに
この日をどんなに
待ちのぞんでいたことでしょう。
さあ祈りましょう。
さあ祈りましょう。
ときは来たれり
いまこそ目覚めるとき
大空はおまえのもの
舞い上がれ空たかく!」

巫女の言葉が終わると同時に6つのオーブから上空に向かって光が放たれた。光は祭壇の真上で交わり、空中で弾けた。その眩しさはとても直視出来るものではなかった。清らかな聖鳥の鳴き声が聞こえ瞼をおそるおそる開くと、空には朝露のように光輝く不死鳥ラーミアの姿があった。

「伝説の不死鳥ラーミアはよみがえりました。ラーミアは神のしもべ。心ただしき者だけがその背にのることを許されるのです」

「さあラーミアがあなたがたを待っています」

「外にでてごらんなさい」

巫女達に言われるがままに祭壇から出ると、ラーミアが黄金の翼をきらめかせながら3人のもとへ降り立った。
ラーミアはリソルとカンダタを見、主人公と目を合わせると高らかに鳴いた。そして脚を折り曲げこちらに背中を差し出した。

「……乗れ、って事か?」

多分、と頷く主人公。

「主人公、あんたから乗ってくれ」

カンダタに促され主人公はよじ登るようにラーミアに乗った。リソルとカンダタも主人公に続いて跳び乗った。

「ついにバラモス城か!武者震いがするぜ……」

「びびり過ぎでしょ」

「武者震いだって言ってんだろが!」

不死鳥の背から見る大地は美しかった。
海や川や森の木々の葉が日の光を反射しきらきら輝いていた。
だが、不死鳥が目指す先には禍々しい空気をまとった暗雲が立ちこめていた。時折、稲光がはしる。
まだ昼のはずなのに辺りは黒いもやに包まれ見通しがきかない。
身震いのするような暗黒のもやを抜けると目の前に魔王バラモスの城が姿を現した。

城の前で3人を降ろすとラーミアは力強く鳴いた。どうやらここで3人の帰りを待っていてくれるようだ。

「不死鳥さんよ、待っててくんな!とびっきりのお土産を持ってきてやらぁ」

「アンタって威勢だけはいいんだから。ほら、早く来なよ。置いてくよ?」

「んな!?おい待ちやがれ!なんでお前はそんな親戚の家に遊びに来たみてぇな軽いノリなんだよ?!」

「……だって魔王の城でしょ?」

「はあ?!……おい、主人公も黙ってないで何とか言えって!なあ、もしかしてオレさまがおかしいのか?!オレさまがおかしいのか?!?」

カンダタは喚きながら、主人公はカンダタをなだめながら、リソルはうるさいなぁという顔でホロゴースト、じごくのきし、うごくせきぞう達をなぎ払いながら進む。
暗くて細い通路に沢山の階段。複雑な迷路のような造りの城の中をバラモス目指して進んでいく。

そうしていくつもの階段を上り下りしていくと大きな玉座のある広い部屋に出た。
空気が他のどの部屋よりもよどんでいる。
玉座にいるのはもちろん、魔王バラモスだ。

「ついにここまできたか。この大魔王バラモスさまに逆らおうなどと身のほどをわきまえぬ者たちじゃな。ここに来たことをくやむがよい。ふたたび生き返らぬようそなたらのハラワタを喰らいつくしてくれるわっ!」

「ククッ。アハハハッ!大魔王バラモスなんて聞いた事ないんだけど!雑魚のくせに大魔王なんて名乗っちゃって。身のほどをわきまえてないのはどっちかな?」

ぐぬぬ!無礼者め!!しかもなんだおぬしは!おぬしからはわしらと同じにおいがするぞ。なぜ人間どもの味方をしているのじゃ」

「アンタみたいな雑魚に教える義理なんかないけど、そうだなあ、もしこのオレに勝てたら教えてあげてもいいよ♪ま、無理だと思うけど」

「き、貴様ァーーー!!」

バラモスが咆哮をあげた。ハラワタをえぐらんとリソルに襲いかかる。リソルは槍でガードしたが数メートル後ろに飛ばされた。

「くっ」

リソルのさみだれ突き!4回とも確かな手応えがあった。がしかしみるみる内にバラモスの傷が治っていく!

「な!?」

「がっはっは!これこそがおぬしのようなこわっぱと大魔王のわしとの格の差じゃあ!」

「へえ。少しは楽しませてくれそうで安心したよ」

「この、減らず口がァァアッ!!」

バラモスのイオナズン!はげしいほのお!メラゾーマ
なかなかの威力だが、先ほどバラモスとリソルがお喋りしてる間に主人公とカカロンマジックバリアフバーハなどのバフを済ませていたのでそれほどのダメージは受けなかった。

「きぃぃぃッ!小賢しい!これでも喰らえッ!」

バラモスはバシルーラを唱えた!

えっ!と驚く間もなく主人公はどこかへ飛ばされてしまった。

「おいっ!主人公をどこへやった!?」

リソルが血相を変えて叫ぶ。

「さぁ〜?どこだろうねえ?」

くそっ!主人公は無事なんだろうな!?しかもコイツ攻撃してもすぐ回復するしどうする?焦るな落ち着け!考えろ……。

「おやおや、先刻までの余裕はいずこへいったのやら。ふぉっふぉっ、楽しくなってきたではないか。もっとわしを楽しませておくれ」

バラモスの魅了の舞!
リソルは無視をした!
カンダタはバラモスに魅了された!

「げ」

「はっはっはっは。わしが手を出すまでもない。おぬしら味方同士でたわむれているがよい」

カンダタのマッスルポーズ・極!
カンダタとバラモスはスーパーハイテンションになった!
カンダタのマッスルポーズ・極!
ミス!
カンダタとバラモスはすでにスーパーハイテンションだ!

「……この覆面男はなぜおぬしらとおるのじゃ?何の為に来た?……まあよい。しかたない、わしの手で葬ってやろう。せっかくおぬしの仲間にスーパーハイテンションにしてもらったのだ。有効活用しなくてはな。安心せい、ふたり一緒に逝かせてやろうぞ」

バラモスのイオナズン

「しまった!!ぐわァアアッ!!!」

なんと、スーパーハイテンションで唱えたイオナズンの威力が強過ぎて天井が落ち、バラモスは瓦礫の下敷きになってしまった!
リソルは咄嗟に階段へ避難し無事だった。

「はー、危なかった……」

バラモスは息絶えただろうか?そしてカンダタは……。

「おい、リソル!!よくもオレさまを置き去りにしたな!!」

カンダタが瓦礫の山から這い出てきた。

「だってアンタ、オレに殴りかかってきそうだったじゃん」

「こちとら魅了されてっから自分の意志で動けねえってのによ!まったくひでぇやつだぜ」

「ていうかなんでピンピンしてんの?」

「オレさまの自慢のボディをその辺のやつらと一緒にしないでくれよな!こんなもんじゃ傷ひとつ付かねーぜ!」

「どういう体してんの……。アンタ本当にただの人間なの?」

まあ、カンダタが無事って事は……。

「ゲホゲホッ!グォアアアアッ!!」

やっぱり、こちらさんも生きてる、か。
大分弱っているようだ。だが例の回復能力がある。すぐにまた再生してしまうだろう。
それならば再生出来ない様に……。

カンダタのマッスルポーズ・極!
リソルとカンダタスーパーハイテンションになった!

「いくぞ、リソル!」

リソルのジゴスパーク

「ぐわァァァアアアッ!!!」

スーパーハイテンションで放ったジゴスパークでバラモスの体を雷撃で灼き尽くす。

「おりゃああああッ!!」

カンダタは思いっ切り斧を振りおろした。

「グァアアアアアアアアアアッッ!!!」

スーパーハイテンションで振りおろされた斧はバラモスの体を真っ二つにした。

「ぐうっ……お…おのれ……わ…わしは……あきらめ…ぬぞ…ぐふっ!」

リソルとカンダタはバラモスを倒した!
真っ二つになったバラモスの体は地に落ちる前に暗黒のチリになって崩れ消えた。
床にはバラモスの着けていたネックレスだけが残っていた。

「こりゃ魔王のネックレスか。倒した証に持ってくか」

カンダタはそう言うとネックレスを懐にしまった。

その時クアーッと鳥の鳴き声がした。
2人が上を見上げると崩れ落ちた玉座の間の天井から聖鳥ラーミアに乗った主人公がやって来るのが見えた。

「おお、主人公!無事だったか!」

主人公はバラモスにバシルーラで城の前へ飛ばされ、急いでまた玉座の間に向かったが、バラモスがスーパーハイテンションイオナズンを唱えた際に目の前の通路が崩れて塞がれてしまったので聖鳥のもとまで戻りこうして飛んできたのだった。

「魔王は倒したぞ!早くネロに自慢してやろうぜ」

3人は聖鳥でネフェロバークへ向かった。

「ネロはまだ牢屋ん中か?」

「だろうね」

3人が町に入ると人々の問いたげな視線に囲まれた。

「ああ、バラモスを倒せたのか気になんのか。さっきの見せてやっか」

カンダタが魔王のネックレスを掲げると、ネフェロバークが人々のどよめきに溢れた。

「あれは魔王のネックレス!?」「ま、まさかあいつらが!」「なんてこった」「すげー!!」「これで……、これで平和がやってくるのじゃな……」「わーいわーい!」「もう魔王バラモスはいなくなったんだよねっ。これで魔物もいなくなるのかなあ。そしたら外へ遊びに行けるのに」

人々の喜びようを見てカンダタの顔も思わずほころぶ。

「へへ。こんなんオレさまの柄に合わねえや。ケツの穴が痒くなってくらあ」

3人はネロの待つ牢屋に着いた。

「バラモスを倒したのね?町の人々の歓声がここまで聞こえてくるわ。あなた達、本当にすごいわ!一緒に戦えなかったのは残念だけど。でも私なんて必要無かったのね……」

「オーブを集められたのは町長のお陰だよ。アンタがいなかったらオレ達は魔王の城まで辿り着けなかったさ」

「ふふ、優しいわね。ありがとう。お礼にお祝いでもしてあげたい所だけどこれじゃ、ね」

ネロは目の前の鉄格子に手を伸ばして無念そうに言った。

「オレさまたちが出してくれって頼んだら出してくれんじゃねえか?」

「どうかしらね……。出来れば皆が私の事許してくれてから出たいわ。とにかく、おめでとう、3人とも。お疲れ様。魔王を倒したなら主人公さんとリソルくんは元の世界に帰るのね」

「ああ。今までと同じなら帰れるはず」

「ふたりとも、自分達の住む世界じゃないのに命懸けで戦ってくれてありがとう。カンダタさんも無理矢理同行して貰ったのにここまで付き合ってくれてありがとね」

「まったくだぜ!まあでも魔王がいたらお宝探しもやり辛えからな。これでまたオレさまはお宝探しに行けるってもんだぜ」

「ふふっ。……きゃっ!?」

突然、薄暗い牢屋がさらに暗くなった。今まで聞いた事が無いほど大きな地鳴りがして世界が壊れるかのような地震が発生した。外からは激しい落雷が降り注ぐ音と悲鳴が聞こえる。

「わははははははっよろこびのひと時にすこしおどろかせたようだな。わが名はゾーマ。闇の世界を支配する者。このわしがいる限りやがてこの世界も闇に閉ざされるであろう。さあ苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしのよろこび……。命ある者すべてをわが生けにえとし絶望で世界をおおいつくしてやろう。わが名はゾーマ。すべてをほろぼす者。そなたらが生けにえとなる日を楽しみにしておるぞ。わはっわはっわはっわはっわはっわはっ…………」

ふたたび大地が揺れ、元の明るさに戻った。

「な、なんなんだ今のは!?」

立ち上がりカンダタがわめいた。

ゾーマ……?バラモスの他にも魔王がいたっていうの?そんな……」

主人公がリソルを見ると真っ青な顔をしていた。

「大魔王ゾーマ……!?オレ達はあんなバケモノを倒さなきゃいけないのかよ……」

気のせいか声が震えている気がする。

「嫌なにおいがする……。さっきの落雷でもしかしたら……」

その言葉にハッとして地震で壊れた牢屋から飛び出すネロ。

「……あ……ああ……あ……み……皆、まさか」

町は落雷による火災で火の海だった。
なんという皮肉か、牢屋だけが頑丈な造りゆえ唯一無事だったようだ……。
おそらく生き残った人間はいないだろう。
町の人々の名前を呼びながら助けに行こうとするネロをカンダタが腕を掴んでひきとめる。

「ここは危ねえ!安全な場所へ避難するぞ!」

「待って!きっとまだ誰か生きてるわ!助けなきゃ!」

「お前も死んじまうぞ!」

「離して!離して!離してよおおおお」

暴れるネロを引きずるように海辺まで避難させた。

「……ゾーマ……絶対に許さない……!私の手で必ず倒してやる」

「……いや、悪いけど正直町長には倒せないよ……。大魔王ゾーマは本当に強い。バラモスとは桁違いだ。主人公とオレがいても勝てるかどうか分からない」

「う……うああああッ!!」

ネロはやり場のない怒りに叫び、悔しさで涙を流した。

「……大体さ、アンタは町の人達に牢屋にいれられたんだよ?それなのになんで仇をとりたいなんて思うわけ?」

「……前にも話したじゃない。私にとってネフェロバークは我が子のようなものだって。我が子だからって私は甘え過ぎていたんだわ、きっと。だからね、もう一度、やり直し……やり直したかった、のに」

ふーん、とリソルは「やっぱり人間の考える事って理解出来ないな」と思った。
カンダタはその様子を見て

「お子様には分かんねぇだろなぁ」

とわざとらしく肩をすくめた。
リソルは言い返す気にならず、カンダタをひと睨みした。

「……私……になるわ……」

「ん?」

「私、賢者になるわ!」

「アンタ生粋の商人じゃん。商人が賢者なんかになれんの?」

「さとりの書を持ってダーマ神殿へ行けば誰でも賢者になれるって聞いた事があるわ!賢者になってゾーマをこの手でぶちのめしてやるわ!」

「誰でもって事はこのオレさまでもなれんのか?」

「そのはずよ」

「アンタは流石に無理じゃない?呪文覚えられんの?」

「馬鹿にすんなよ!オレさまだってベホマーラくらい知ってるぜ」

ベホマラーでしょ。で?さとりの書とやらは持ってるの?」

「ふふん、舐めないでちょうだい。持ってるわ。いや〜、これも高かったのよねぇ……」

「町長が税金の無駄遣いしたらまずいでしょ」

「無駄じゃないし!魔王を倒す為に買ったのよ。これはポケットマネーから……いや、どうだったかしら?魔王討伐費から出したんだったかしら……」

「やれやれ……」

そんな訳で主人公達はダーマ神殿へ向かった。

「おお!これはさとりの書!。ではおぬし達の中の誰が賢者になりたいと申すか?」

「なあ!本当にオレさまでも賢者になれんのか?」

ネロと神官の間に身体を割り込ませるカンダタ

「根っからの盗賊のそなたが賢者に転職したいと申すか!?まあそれはそれで面白い事になるかもしれん。やってみるがいい」

「ちょっとカンダタさん!?すみません神官様、私が賢者になりたいんです」

「おお!凄腕の商人のそなたが賢者になると申すか。ふむ、そなたならかしこさがそこそこあるようだし。魔力はちょっとあれだがさとりの書さえあれば問題ない。では目を閉じて祈りたまえ」

ネロは商人から賢者に転職した!

「やった!これでゾーマをボコボコに……ってえ!?やだレベル1!?」

「そうとも。初めての職業だからな。いちから経験を積むのだ」

「え〜!?うそでしょ〜……」

「他に転職したいと申す者はおるか?」

お願いします、と主人公が進み出た。

「ほう、そなたは今……てんちらいめいし?聞いた事ないぞ。それで……まけんし、になると?まけんしとはなんだ……?え?いつもダーマで転職してると?……ええい、ここもダーマ神殿だ!やってみようではないか!さあ、目を閉じて祈りたまえ」

主人公は天地雷鳴士から魔剣士に転職した!

「おお!出来たか!まさしく何事もやれば出来るという事だな。さあ新人の賢者のそなたも頑張りたまえよ!」

※ ※ ※

「しっかし大魔王とやらはどこにいるんだ?」

「特大の禍々しい気配のする方へ向かえばいいんじゃないの」

「そんな気配とか分かんのか?」

「まあね。ていうかこんなに強い気配なのに感じないって方が驚きなんだけど」

「で?その気配はどこからするんだ?」

「それがどうも下……地下からなんだよね」

「地下?そういえばギアガの大穴は下界と繋がってるなんて噂を聞いた事があるわ」

「そんじゃギアガの大穴に行ってみようぜ」

「その前に願いを叶えてくれるという竜に会ってみたいわ。私のレベルを限界まで上げて下さいって頼んでみようかなって」

「そんな凄い竜にそんなちっさい願い事を?」

ゾーマに勝てるならなんでもいいの。あ、ゾーマを倒して下さいってお願いすればいいのね」

「そんな竜が存在するのか信じられないけど、町長の言う事だし探してみようか」

※ ※ ※

神鳥の背に乗りネロの言う方へ。
標高が高く空気の薄い人気のない、というか人では辿り着けないであろう山の中に美しい大きな白い城があった。

「ここ……か?」

「多分……。場所や見た目も噂通りだし……」

「オレ達場違い感半端なくない?特に緑の覆面の人とか」

「うっせー!そんならオレさまは留守番してるぜ」

「大丈夫?この辺の森、大蛇とか獅子とか普通に住んでそうだけど」

「……い、一緒に行こうぜ。オレ達仲間だもんな、な、な!」

城に入るとやはり人間はおらず、ホビットやエルフ、馬などが片手分に満たないくらいの数しかいないようだった。

「ここは天界に1番近い竜の女王さまのお城です」

「うおッ!?馬が喋った!?」

カンダタが驚いて飛び上がる。

カンダタさん、大声出さないで。ええと、こんにちは」

ネロは近くのホビットとエルフに自分達の紹介をした。

「おいたわしや……。女王さまはあといくばくかのお命だとか……。女王さまはご病気なのだ。しかしお命とひきかえにタマゴを産むおつもりらしい」とホビット

「あんな弱ったお体でタマゴを産むなんて……。女王さまが心配ですわ」とエルフ。

「あら……。お取り込み中だったかしら。手短にご挨拶だけなら大丈夫かしら……」

ホビットもエルフも止める様子はないので主人公達は竜の女王に会う事にした。

星に願いを

ぎゅっと使い魔の脚に報告書を結び付ける。

ぱたぱたと少し頼りない、可愛いらしい羽音を立てて窓辺から飛び立つ使い魔。

 

真っ暗な空に使い魔が消えるのを見届け。

ふぅ、と小さく息を吐いて椅子にどさっと座る。

さて、どうするかな……。

風呂に入ってコーヒーを飲みながらゴシップ記事を読んでもいいけど。

人間ってちっさい事でいちいち騒ぎ立てて、オレらからすると滑稽で。

それを寝る前に読むと結構良い感じに寝れるんだよね。

 

ただ今日はフウキのやつらから七夕祭りに誘われていて。

でもあいにく、報告書の提出日と被ってて行けなかったんだよね……。

珍しく、アイツも来るって言ってたのに。

 

「はあ〜あ〜〜〜………あ、」

 

そうだ。七夕って短冊とかいう細長い紙にお願い事を書いて笹に吊るすんだよな。

こっそり、それだけ見て来ようかな。

で、変な事書いてたらからかってやろう。

オレに見られると思ってないから油断してまぬけな事書いてるかもしれないし。

まあでも、アイツなら世界平和とか素で書いてるかもだけど。

 

椅子から立ち上がったリソルの口元には笑みが浮かんでいた。

さっと出掛ける準備を済ませ七夕の里に向かう。

まだ人も沢山いて賑やかだ。

前日に雨が降ったので地面からむわっと湿気が上がってくるがひんやりとした風が笹の葉を揺らしていて心地良い。

 

アイツらの短冊はどれだろうな。

魔術を使って見つけてもいいけど、ゴシップ記事の代わりに他の人間達の短冊も見ていくか。

 

「どれどれ……」

 

“お金持ちになれますように”

“メラがつかえるようになりますように”

“今度の試験に受かりますように”

“ままのあかちゃんがぶじにうまれますように”

“マイタウンが当たりますように”

“一流の裁縫職人になれますように”

“ヒーたんとずっと一緒にいれますように”

“息子の病気が治りますように”

“ハッピーくじの特等が当たりますように”

“学会で私の研究が認められますように”

“ゆうしゃになれますように”

 

「んー……」

 

特に面白いのは無いな。残念。

まあ、ゲスいヤツは七夕の里なんてロマンチックな所に来ないか……。ん?

 

“主人公とアストルティア中を旅出来ますように”

“主人公ちゃんに美味しいって言ってもらえるようなご飯が作れますように”

“主人公を僕の妃に出来ますように”

“主人公さんと筋トレ仲間になれますように”

“主人公とお菓子のお城で暮らせますように”

 

「……。」

 

これはアイツらの短冊だろう。という事はアイツのもこの辺にあるはず……。

 

“リソルとずっと一緒にいられますように”

 

見知った字で書かれた、自分の名前。そして願い。

予想外の言葉に思わず短冊を千切り取りそうになった。

 

な、何でこんな人間の子供騙しみたいな占いやまじないのたぐいに取り乱してるんだオレは。

 

数秒、目をつむり気持ちを落ち着かせると、笹のそばに置いてある白紙の短冊とペンを手に取った。周囲を見回し誰にも見られていないのを確認し、短冊に願いを書きつけ笹に結ぶ。

そして、自分の願いを妨げるであろう、先程見た短冊の内数枚を、千切り取った。

 

悪いけど、オレはアイツを他の誰かに渡す気無いんだよね。

 

リソルが立ち去った後も変わらず笹は涼しげに揺れ、天の星は美しく輝いていた……。

 

 

花嫁に花を贈ろう

「アンタ、何か欲しい物とか好きな物とかないの?」

 

「えー?そうだなー……。花?」

 

人間は欲深き生き物である。

豪邸、宝石、ブランドものの服、稀少なペット、名誉ある地位。

ま、大抵のものなら容易くアンタに与えてやれr……。

 

「花?」

 

今、花って言った?聞き間違いか……?

 

「うん。花」

 

聞き間違いじゃ、ない……。ああ、珍しい花とかか?

 

「ジャイラ密林の幻のラフレシアとか、ゴブル砂漠の10年に一度しか咲かない砂漠のバラとかゲルヘナ幻野の突然変異の黒い桜とか?」

 

「そんなのあるんだ!?それも見てみたいけどそういうのじゃなくて、ただの綺麗な花」

 

ただの綺麗な花……?

 

「魔界でいうと……トポルの村の広場に咲いてる花みたいな感じ。あ、てかアスフェルド学園もいつも綺麗な花がいっぱい咲いてるよね!」

 

トポルの村は行った事ないけど、ああ、学園ね。それなら普通に見て……ない。その辺に咲いてる花なんか気にも留めないし全然覚えてない。

 

……そんな訳でとある魔導国のとある屋敷の使用人達は主人の姿を久し振りに見る事になった。

 

※ ※ ※

 

 

さる高貴なお方からの任務で長らく屋敷を留守にしていた御主人様が帰宅され、私共をお呼びになった。

ああ、お久し振りに拝見する我らが御主人様の御姿……!少し背がお伸びに……はなられていないご様子。ですが相変わらずさらっさらでふわっふわの銀の御髪に凍てつくような冷たい灼眼、雪のように真っ白でなめらかな肌に勇ましく黒く尖った2本の頭角と爪、無駄な贅肉のない引き締まった肢体……。御主人様こそ神がこの星に創りたもうし至高の傑作!ジャゴヌバかルティアナかそれとも違う神か分かりませんが兎に角この地上に我らが御主人様を産んで下さったどなたかに最大級の感謝の意をお伝えしたい。ありがとうございますありがとうございます!

 

「お前さっきからブツブツうるさいぞ。御主人様の面前だ。静かにしろ!」

 

隣にいた使用人仲間に肘で小突かれた。

え!?今の口に出てた!?やだもっと早く止めてよ!!

 

御主人様が咳払いをした。

何をおっしゃるのか1ミリも聴き逃がさないよう全身を耳にして集中する。

御主人様が少年特有の可愛らしい唇を開く。

 

「この屋敷を花でいっぱいにしろ」

 

ふむ……。

……………………?

ああ、防犯用に、ファラザード辺りで流行っている人食い花で埋め尽くせ、という事でしょうか。流石御主人様、ゼクレスでも流行るだろうとお見越しになられて……!御主人様の時代を先取りするセンスの良さには脱帽致します!

 

「普通の綺麗な花だ」

 

??????

え……ちょっと分からない……んんん!ゲフンゲフン!

くうう、私めが未熟なあまり、御主人様の意図が理解出来ないぃ!

も、申し訳御座いません申し訳御座いませんんんんん!!

 

その後、使用人達が魔界中からかき集めた花を屋敷の庭に植えてみるものの土地が合わないのか根付かず。

トポルの村から取り寄せた花は使用人の誰かが植えた人食い花から分泌される強い酸でとけてしまった。(人食い花を植えたのは私ではありませんよおおお!)

見かねた御主人様がアスフェルド学園の学友のミラン王子という方から花の種を分けて貰い(王子と学友になられるなんて流石我らが御主人様!やはり御主人様のような一流の魔族の周りには同じく一流の者がお集まりになるのですね!)、それを使用人達が一生懸命世話したが魔界の魔瘴が駄目なのか発芽にいたらなかった。

 

思うような成果が出ず珍しく頭を抱える御主人様が次に屋敷に呼び出したのはなんと現在の魔界で10本の指に入る高名な魔術師達であった。

 

※ ※ ※

 

ゼクレス、いや魔界イチの魔力のあのお方にお仕えしているという小僧に呼び出されて来たものの、一体何の用なのだろうか。

あのお方の邪魔になる者を呪いで排除するとか?

それとも強大鉄壁な護りの魔術を所望するか?

いや、我が古代秘術の噂を聞きつけたのか?

何にせよ、魔界の未来を担うあのお方のお力になれるのならばと馳せ参じたのだ。

集った他の魔術師達も同じ想いでいるに違いない。

はてさて、あのお方は今の魔界の世の何を憂いているのか。

我々の探るような視線を浴びながら小僧が口を開いた。

 

「この屋敷を美しい花が咲き乱れる屋敷にして欲しい」

 

花??

薬草学に精通している者達の間で有名な、例の花だろうか?

栽培は非常に困難だと聞く。

だがその花を煎じたものを飲めば例えマダンテを放った直後であっても魔力が完全回復するのだとか。

流石あのお方。御自身の魔力が高過ぎるあまり普通の薬では回復が間に合わないのだな。

しかし我は植物には詳しくない故お力になれるか自信が無いな……。

 

「観賞用の花をお願いしたい」

 

観、賞、用……?

あのお方、もしかしてかなりお疲れなのだろうか……?

花を見て癒やされたいと……?

いやまさかそんな依頼ではないだろう。何かきっと、我らには預かり知れぬ事情があるのだ。

他の魔術師達の反応をうかがったが、やはり我と同じ様に疑問の色を浮かべていた。

しかし呼ばれた以上、どんな難問であろうともその名にかけてやり遂げなくてはならない。

魔術師達は時に協力しあい、時に外部の有識者の力を借りつつ、依頼主の屋敷を魔界やアストルティアの美しい花で満たした。

 

※ ※ ※

 

花を愛する人

花を贈りたいと思ったなら

花を手折るのではなく

咲いている所へ連れていけ

 

そんな風な事をいつかどこかで誰かから聞いた気がした。

 

「わぁ……綺麗……」

 

だからオレは贈ろう。この景色をアンタに。

 

「冬に咲く花も夏に咲く花も一緒に咲いてる……。なんで?」

 

「さあね」

 

夢中になって花を見るアンタの顔は見えないけど。見なくても声で分かる。

 

「ありがとう」

 

どうかこれからもずっと、オレの側でその笑顔を咲かせて。

リソルと獄辛バレンタイン

「ハッピーバレンタイン♪」

 

吐く息が白くなる、うんざりするような寒さ。

気が滅入るようなどんよりした空。

それらをはね飛ばすかのような明るい声が早朝のアスフェルド学園のエントランスに響く。

 

「あ、ありがとう……?」

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「え?ああ、どうも?」

 

突然声を掛けられ甘い香りの漂う小さな包みを渡され戸惑ったような反応を見せる学生達。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「……何してんの?」

 

「!!」

 

青紫の髪と目をした小柄な少年が2月の厳しい寒さよりも冷ややかな視線を投げかける。

 

「えっとこれは……バレンタインだよ」

 

「そういう意味じゃない」

 

少年がフンと鼻を鳴らす。

そんな事は知っている。オレがアンタとどれだけの年月を過ごしてきたと思ってる?

 

そう。少年は今まで何度もこの人と一緒にバレンタインをした。この人を通してアストルティアの様々な文化に触れてきたのだ。少年は、アストルティア出身ではなかった。

 

「リソルには後であげるから」

 

そう言うと再び甘い香りの包みを登校してきた学生達へ配りだした。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「ありがとー」

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「あざっす」

 

まさか全校生徒に配るつもりか?

リソルと呼ばれた少年は舌打ちをしてその場を後にした。

 

※ ※ ※

 

その日の放課後。フウキ室。

学園の封印事件が無事収まった後もなんとなくフウキのメンバー達はフウキ室で過ごすようになっていた。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「わあ!主人公ちゃんありがとう!私も作ったんだ。はい、どーぞ!」

 

「主人公さん、ありがとうございます!私からもありますよ!後で感想聞かせて下さいね」

 

「主人公、ありがと!私も、主人公に作った。でも、メルジオルが食べた」

 

「テーブルに置いてあったからわしのかと思ったんじゃ!もう何度も謝ったじゃろ!まだ根に持っておるのか!」

 

主人公がアイゼルとミランにも渡そうとした時、リソルがさっと足を出し主人公が躓いた。

主人公は派手な音を立てて床に倒れ、手にしていたバレンタインのお菓子も粉々に……とはならず、主人公はアイゼルに抱きとめられ、お菓子はミランが受けとめた。

 

「おいおい危ねーぜリソル!何すんだ!」

 

「リソル、君達4年も付き合ってるんだろう?まさか今更やきもちかい?」

 

「アンタ達、外野のくせにうるさいんだよ!」

 

「なっ?!」

 

「はあ!?」

 

朝っぱらから自分の女が他の奴らにバレンタイン渡しまくってたらイライラするさ!

 

リソルは足早に扉へ向かうとこれ以上ないくらい乱暴に大きい音を立てフウキ室を出ていった。

 

※ ※ ※

 

夜。

すうっと息を吸い目の前の扉をノックする。

 

「……誰?」

 

中からいつもより不機嫌そうな部屋の主の声がした。

 

「今日はごめん。少し、話せる?」

 

入れば、とは言わないがカチリ、と鍵を開ける音がした。

 

「お邪魔しまーす」と恐る恐る扉を開け中に入ると、椅子に座りテーブルに頬杖をついていた主はこちらに視線を向けず「話って何」と訊ねた。

 

「ええと……、朝、何してたのか、だよね?」

 

「……バレンタイン、でしょ」

 

「そう!えっとね、ほら、今学園にいる学生さん達はさ、長い間封印事件に巻き込まれて色んな楽しい行事とかも経験出来なかったじゃない?だからね、学園の皆の思い出の1つになれば良いなと思って今年は全員に配ろうと思ったの」

 

「ふうん」

 

ああ、大魔王サマだからね、「皆」の事が気になっちゃうんだろうね。

 

「それに普通のお菓子じゃなくて、魔界で見つけたデスターメリックとかジャリムマサラとか獄炎チリソースとかも入れてみたの!」

 

「へえ……は?」

 

ああ、大魔王サマだから魔界の……。

ん?デスターメリック?ジャリムマサラに獄炎チリソースって今言った?

 

「身体があったまりそうで今の時期にぴったりだなって思って!」

 

「いや、そんなの魔族じゃない奴らが食べたらタダじゃ済まないんじゃないの!?」

 

そういや今日うめき声がやたら聞こえたり口から火ぃ吹いたりしてる奴がいたような気が……!

 

「リソルのもあるよー……あれ?無い……。え!?嘘!どこか落とした!?それとも間違えて誰かに渡しちゃった!?ごめん、また今度作ってくるから!」

 

「待ちなよ。今日は朝からずっとお預けされてるんだけど。これ以上我慢させるつもり?」

 

「え、でも無いんだもん。仕方な……ぁっ」

 

「ククク……今日はこれで我慢してあげるよ」

 

リソルは主人公の耳を美味しそうについばみながら笑った。

 

※ ※ ※

 

その頃。

ラムゼイくんが主人公から貰った本命っぽいチョコレートをドキドキしながら食べた所、あまりの辛さに全身の毛穴から炎が吹き出したとか吹き出さないとか。

 

「うおおおおおおッ!!こ……この熱さが!キミの気持ち!?俺はキミの気持ちにこ、応え……」

 

応えようとしたけどそのまま朝まで気を失い、目覚めた時には何が起きたのか忘れていたそうな。

(辛さで脳の記憶を司る部分が損傷したのかも)

 

          ★おしまい★