時の妖精キュルルとの冒険が終わった頃。
主人公はアスフェルド学園にある祈望館のリソルの部屋でキュルルとの冒険の話をリソルに聞かせていた。
「…アンタってさ、能天気な顔してるくせにホントいつも大変な事してるよね」
主人公をぎゅっと抱き締めながらリソルが言う。
「…お疲れ様。あのさ、そりゃ、オレだってアンタの泣き顔より笑顔の方が見たいよ?だけどさ、泣きたいの我慢して無理に笑ってる顔なんて見てらんないよ。オレの前では泣いていいから」
それを聞いて、主人公の目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれだす。
リソルが主人公の頭と背中を優しく撫でる。
「…好きなだけ泣いていいから。オレはアンタが泣き止むまでずっと側にいるよ」
今まで聞いたことがないようなびっくりするほど優しい声のリソル。
普段そんな声出されたら笑ってしまうかもしれない。
けれど今は、リソルが全力で主人公の心に寄り添おうとしているのが伝わってきて、いとおしい。
リソルの腕の中で主人公は、守れなかった大事なもの達の事を思い、泣き続けた。
しばらくして泣き疲れた頃。
グーっと主人公のお腹が大きな音を鳴らした。
真っ赤になる主人公。
堪えきれず笑いだすリソル。
「…まったく、アンタって人は。お腹空いたの?しょうがないな。何か作ってあげようか?元気が無い時はお肉がいいらしいからハンバーグでも作ろうか」
料理なんか出来るの?と言いたげな主人公にリソルは
「舐めないでくれる?人間の料理くらい魔族のエリートのオレが作れないわけないでしょ」
そう言いつつも、料理の本を見る目は真剣かつ自信無さげだ。
「…ナツメグ?」とか呟いたりしている。
頑張るリソルをニコニコしながら待っていると、数十分後、普通に美味しそうなハンバーグが主人公の前に置かれた。
お礼を言ってハンバーグを食べる主人公。
「…いつものまぬけな顔のアンタに戻って良かった」
まぬけな顔って何!と怒ろうとしたらリソルが真面目な顔をしていたので驚いて何も言えなくなってしまった。
するとその時、主人公のポケットから輝くエテーネルキューブが飛び出してきた。
「主人公!それってエテーネルキューブ!?」
うなずく主人公。
これはまるでグランゼドーラの噴水で過去に跳ばされた時と同じ…。
「待って!今度はアンタを一人で行かせない!オレも連れて行って!!」
辺り一面が目を開けていられないほど眩しい光に包まれ。
光が消えた時、部屋から二人の姿は無くなっていた。
光の渦を抜けた二人は見知らぬ町に着いた。
きょろきょろと辺りを見回す主人公の目がある男女の姿に留まった。
「そこの素敵なお嬢さん。僕と一緒に竜王討伐へ行きませんか?」
「まあ!ローランド王子じゃありませんか!大変光栄ですが、私は剣も魔法も使えませんのですみませんが…」
「構わないさ。君みたいに美しい女性なら側にいてくれるだけで僕はバイキルトとピオリムがかかってしまうよ。歌や踊りはどうだい?」
「あの、あの…」
諦めが悪い王子に困った様子の女性と主人公の目があった。
「あちらの方はどうでしょうか?旅慣れた方のように見受けられます」
王子が主人公に目を向ける。
「おお!麗しいだけでなく意思の強そうな眼差し、佇まいから感じ取れる熟練の冒険者の自信と経験…。君こそ僕が探し求めていた女性に違いない!どうか僕と結婚してくれないか?そして一緒に竜王を倒してひかりのたまを取り戻そう」
堪らずリソルが声を上げる。
「待ちなよ!初対面の人にいきなり何プロポーズしてんのアンタ。色々過程をすっ飛ばし過ぎでしょ、この、女好き王子!それと、主人公はオレのものだから変なことしたら許さないからね」
「主人公というのか。素敵な名前だ。いやあ、主人公があまりにも魅力的過ぎてついプロポーズしてしまったよ。しかし君、女性を物扱いするなんて頂けないな。君のようなお子様が主人公と一体どんな関係なんだい?弟かな?」
「誰が弟だって!?あーもう、こんなにムカつく人間アンタが初めてだよ!ほら、主人公の左手薬指見て!指輪してるでしょ。あれはオレがあげたやつなの!」
「つまり…君は指輪職人って事?」
「違うでしょ!なんでそうなるんだよ。アンタ、分かってて言ってるよね?人間ごときがこのオレをおちょくるなんて、どうなるか教えてあげるよ」
今にもドルマドンを撃ちそうなリソルを見て慌てて止めに入る主人公。
そして王子に二人の状況を軽く説明する。
「ふむ、そういう事か。だとしたら本当に君達は僕が探し求めていた勇者ロトの意思を継ぐ者かもしれない。君達はまず僕の父であるラダトームの城の王へ挨拶するべきだ。そうすればこのアレフガルドの大地を自由に見て回る許可が降りる」
王子はそう言うと半ば強引に二人をラダトームの城の玉座前へ連れていった。
「只今戻りました、父上。こちらは勇者ロトの意思を継ぐ者、主人公でございます」
「おお!主人公!勇者ロトの意思を継ぐ者よ!そなたが来るのを待っておった。
その昔伝説の勇者ロトは神からひかりのたまをさずかりこの世界をおおっていたまものたちを封じこめたという。
しかしいずこともなく現れた悪魔の化身竜王がその玉を闇にとざしてしまったのじゃ!このままでは世界は闇にのみこまれやがてほろんでしまうことだろう。
主人公よ!竜王をたおしその手からひかりのたまを取りもどしてくれ!」
「父上、私も主人公と竜王を討つ旅へ同行しても宜しいでしょうか。」
「なんと!そなたはこの国の大切な後継ぎ。そのような危険な旅など言語道断である。だが、そなたのその勇敢な申し出、父として大変誇りに思うぞ。それに主人公と一緒なら頼もしいことこの上ない。よって、同行を許可する!王子のことを頼みましたぞ、主人公どの」
玉座の間をあとにする三人。
「…アンタって国宝級のお人好しなんだろうね。着いて早々竜王討伐お願いされちゃって」
リソルが呆れ顔で主人公に言う。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね」
リソルが答えないので主人公が王子に教えてあげた。
「リソルというのか。宜しくな、リソル」
返事をしないリソルを気にせず王子は
「まずは情報を集めよう。ここから西に伝説の勇者ロトをまつってある洞窟がある。そこにいけば何か手掛かりを得られるかもしれない」
と、二人を連れてロトの洞窟へ向かった。
道中のスライムやスライムベスはリソルが愛用の槍ケラウノスでなぎはらう。
ロトの洞窟は真っ暗で何も見えなかったが、王子がレミーラを唱えるとたちまち明るくなった。
洞窟の中は神聖な力でも満ちているのかまものの気配が無いようだ。
洞窟の奥に着くと文字の彫られた石板があった。
王子は石板の文字を読み上げた。
「わたしの名はロト。わたしの意思を継ぎし者よ。ラダトームから見える魔の島にわたるには3つの物が必要だった。わたしはそれらをあつめ魔の島にわたり魔王をたおした。そして今その3つのしんぴなる物を3人の賢者にたくす。かれらの子孫がそれらを守ってゆくだろう。ふたたび魔の島に悪がよみがえったときそれらをあつめ戦うがよい。3人の賢者はこの地のどこかでそなたの来るのを待っていることだろう。ゆけ!わたしの意思を継ぎし者よ!」
「ふうん。じゃあ3人の賢者を探せば良いってこと?」
「そうだね。そういえばここから東にあるマイラの村で雨のほこらの賢者の噂を聞いたことがある。マイラの村へ行ってみないか?」
「王子サマなのに村なんて行ったことあるんだ?ずいぶん無用心じゃない?」
「そりゃあマイラの村なんて、僕の為にあるようなものだからね。さあ行こう」
「…アンタの為に?」
「行けば分かるさ」
リソルの問いには答えず、王子はウキウキとした足取りでマイラの村へ向かう。
「こんにちはっ。ここはマイラの村です。おや、ローランド王子じゃないか。王子は本当にこの村が好きだよな~」
「もちろんさ。またな」
王子は村人とも仲が良さそうだ。
主人公は村に着いてから辺りの匂いが気になっていた。どこかで嗅いだことのあるような…。
「じゃじゃーん!君達は知ってるかな?これは温泉だよ!さあ主人公!一緒に入…うわっ!」
リソルが槍で殴りかかったのをヒラリと避ける王子。
「危ないなー、リソル。でも殺気がありすぎてバレバレだぞ☆」
ウインクする王子。
「前に言ったよね!?主人公に手を出したらただじゃおかないって」
「まったく、お子ちゃまじゃないんだからそんなにカッカしなさんな。もっと見聞を広めて大人としての余裕を…おっ、丁度良いところにパフパフ屋があるぞ!さあリソル、何事も経験だ!」
「ふざけないでくれる!?オレがパフパフなんかで喜ぶわけないでしょ!ちょ、なんでアンタそんな馬鹿力なの!?離せってば!!」
主人公は呆気にとられて二人の背中を見送った。仕方ないので主人公は一人で村人から情報収集することにした。すると、村から西に行くと賢者の住む雨のほこらがあることや、村の南に行くと魔法の鍵を売っているリムルダールという町があることなどが聞けた。
もうすっかり夜なので一晩泊まろうと宿屋に行くと
「ぱふ ぱふ ぱふ うぷぷったまらん。ムニャムニャ……」
と寝言を言っている荒くれ者がいた。リソルと王子は今どうしているんだろうかと思っていると丁度二人が宿屋にやって来た。リソルは激しく抵抗した為か随分ぐったりして見える。それと、若干顔が赤いような。王子は顔がツヤツヤして、元気100倍!という感じだ。
「主人公!やっと見つけたぞ。今夜はここに泊まるか。ベッドは2つでいいかな?主人公は僕と一緒のベッドで休もうか」
「…この、ドスケベ王子ッ!何度言ったら分かるわけ!?いい加減にしてよね!」
「しょうがないな。ではどちらが主人公と一緒のベッドで寝るかを賭けてトランプで勝負しようじゃないか」
こうしてリソルと王子の戦いが始まった。
7並べ、大富豪、神経衰弱、ババ抜き。どうも王子が負けまくり、「次は◯◯で勝負!!」と駄々をこねて勝負が終わらないようだ。ついには枕投げが始まった。騒がしいにも関わらず、疲れていたのか主人公はいつしか眠りに落ちていた。
「ゆうべはお楽しみでしたね」
宿屋の女将さんが笑いながらリソルと王子に言う。昨夜は結局王子が負けを認めないまま、いつの間にか二人は一緒のベッドで眠りに就いたようだ。
「…王子サマのせいで最悪の目覚めなんだけど。アンタ、寝相悪すぎでしょ」
「身体中痛い…。リソル、昨日思いっきり蹴飛ばしたろ」
「アンタがオレに抱きついてくるからでしょ。主人公の名前呼びながらさ。あー、思い出しただけで鳥肌が」
放っておくとまた喧嘩が始まりそうなので主人公が割って入り、昨日村人から聞いた情報を話した。
「雨のほこらかリムルダール…。どちらへ先に行こうか」
「リムルダールでいいんじゃない。魔法の鍵便利そうだし」
「じゃあ南のリムルダールへ行こう。沼地の洞窟を抜ければすぐさ」
洞窟はマイラの村から南の毒の沼の中にあった。ロトの洞窟と同じく中は真っ暗なので王子がレミーラを唱え明るく照らす。メーダやおおさそり、ゴーストなどにリソルがドルモーアをぶちこみながら進む。途中、鍵のかかった扉があり、奥からまものの鳴き声のようなものが聞こえた。
「リムルダールで魔法の鍵を手に入れたら扉の先に行けるね」
「この奥には美女が大好きなドラゴンがいるって噂さ。主人公みたいな美しい人はドラゴンにさらわれてしまうかもしれないから近付かない方がいい」
と言っておどかしてきた。思わず後ずさりする主人公にリソルが
「オレが側にいる限りそんなことさせないから安心しなよ」
と囁く。照れて顔が真っ赤になってしまった主人公は二人に見られないように慌てて先頭に立って洞窟の出口を目指して歩いた。洞窟を出るとすぐにリムルダールと思われる町が目に入った。
「鍵屋は見当たらないな」
落胆する王子。
「もしかして奥にあるあの建物じゃない?」
「どうやってあそこへ?ああ、町の外からまわっていけば入れそうだな」
町の外をまわっている途中、待ち合わせ中のような若い女性がいた。さらに進むと同じく待ち合わせ中のような若い男性がいた。もしかしてと思って主人公が声をかける。
「えっ?彼女があっちで待ってるって?どひゃー!また場所を間違えちゃったのか!彼女怒ってるだろうなあ…。あっ、そうだ。知らせてくれてありがとう。お礼にいいこと教えるよ。マイラの温泉の南を調べてごらん。いい物が見つかるよ」
「うっかり屋さんだなあ。マイラは帰り道に通るし後で寄ってみるか。さて、着いたぞ」
建物の中には老人がいた。
「どんなトビラでも開けてしまうまほうのカギはいらんかな?ひとつ16Gじゃ」
カギ屋を見つけて喜ぶ三人。早速リムルダールのカギのかかった扉に使ってみると、役に立ちそうな情報がいくつか聞けた。
「雨と太陽が合わさるとき虹の橋ができる。これはアレフガルドに古くからある言い伝えじゃよ。そしてわしが聞いた話ではたいようのいしという物がラダトーム城に眠るそうじゃ」
「聖なるほこらはたずねてみたかね?雨と太陽が合わさるほこらじゃ。南へ行ってみるがよい」
「古き言い伝えではロトはこの地の西のはずれに虹の橋をかけたそうじゃ。そして魔王の部屋のかくされたる入口より闇に入ったと聞く」
「今聞けた話をまとめると、ラダトーム城でたいようのいしを、雨のほこらで雨にまつわる何かを手に入れ、聖なるほこらへ行けばいいってことかな?でもロトの洞窟では3つのものを集めろと書いてあったような…。まあ、他に手掛かりもないしとにかく行ってみるしかないな。リムルダールからなら南の聖なるほこらが近いから早速行ってみるか」
聖なるほこらには神官がいたが、
「そなたがロトの意思を継ぐまことの勇者ならそのしるしがあるはず。おろかものよ!たちされい!」
と追い返されてしまった。
「失礼なじいさんだったね」
とぼやくリソルに
「確かに驚いたけど、ロトのしるしが必要だと分かったのは収穫だったね」
となだめる王子。
気を取り直してマイラの村へ戻り、温泉の南の草むらを調べるとようせいのふえが手に入った。するとふえを見た村人が
「メルキドの町のゴーレムはふえの音が苦手らしい」
と教えてくれた。王子がさらに
「昔よんだ古い書物に、妖精たちはゴーレムを眠らせたと書いてあったな」
と補足をした。
「…王子って意外と物知りだよね」
「今さら?そりゃ竜王討伐の為に色々調べてたからね」
マイラの村の西にある雨のほこらへ行くと
賢者が待っていた。賢者は
「この地のどこかにまものたちを呼びよせるぎんのたてごとがあるときく。それを持ち帰ったときそなたを勇者とみとめあまぐものつえをさずけよう」
と条件を出してきた。それを聞いて青ざめる王子。
「…どうしたのさ」
「ぎんのたてごとと言えばはるか昔の吟遊詩人、ガライの物で間違いない。けど今では竪琴はガライの町の地下深くにあるガライの墓に供えられているとか。ガライの墓から生きて帰って来た者はいないってもっぱらの噂だよ」
「…ふーん?王子でもオバケが怖いんだ?美人の幽霊に会えるかもよ?」
「リソルは何も知らないからそうやって笑ってられるんだよ。本気で行きたくないが竜王を倒す為だ。行かないわけにはいかないよな…。そうだ、主人公が手繋いでてくれたら怖くないかも」
「…ほんっとアンタってなんでそんなにしょうもないことばかり考えちゃうわけ?一回ドルマドンぶちこんだら煩悩が消えるんじゃない?」
「あーん怖いよ助けて主人公!」
リソルのドルマドンを避けつつどさくさに紛れて主人公に思い切り抱きつく王子。
「主人公から離れろ!セクハラ腰抜け王子ッ!!」
リソルの槍が王子の鼻に直撃した。
「いったああああああっ!!」
「ほら!グズグズしてないでガライの墓行くよ!」
リソルが王子の首根っこを掴んで引きずって行く。
「さあ王子サマ!お墓に着いたよ!」
「…リソル先に入りなよお」
「アンタがレミーラ係でしょ」
「ううう…う!?」
「なに?」
「後ろ後ろ!リソル!」
「ガライの墓から生きて帰った者はおらぬ…。死にたければ行くがよい…」
「出たあ~ッ!そして消えた!無理無理っ!帰ろ帰ろ!?」
帰ろうとする王子をリソルが墓の入口へ蹴り落とす。
「ぎゃー!!人でなしーーーッ!!!!!」
「…クク。オレ、人じゃないし」
リソルが愉快そうに小さく呟く。
「…このまま入口に蓋しちゃおうか。ま、ビビり王子一人じゃ竪琴手に入れられないだろうから一緒に探してあげるよ」
ガライの墓の中は空気が重たくじっとりして感じられた。王子がレミーラを唱える。明かりに驚いたドラキー達が一斉に羽ばたき耳障りな鳴き声をあげた。
「上にある町より墓の方が広くない?」
「…かもね」
さりげなく王子が主人公の手を握ってきたが、リソルも王子が少しは可哀想だと思ったのか怒らないようだ。手に痛いくらい力が入っているので本当にやましい気もなく純粋に怖いのかもしれない。しりょうのきしやメトロゴースト、リカントマムル達をリソルの槍で蹴散らして進む。階段を一回二回と下りた地下三階にぎんのたてごとはあった。恐怖のあまり吐きそうな顔をしながらリレミトを王子が唱え地上に戻る。一息つきたい気分だったが
「まものを呼び寄せるというぎんのたてごとを持ったまま過ごすなんてとんでもない!!」
と王子が猛反対するので仕方なく雨のほこらの賢者の元へ向かった。
「なんとぎんのたてごとを手に入れたと申すか…。わしは長い間待っておった。そなたのような若者が現れることを…。さあその宝箱を開けるがよい!」
三人はあまぐものつえを手に入れた。
「あとはたいようのいしとロトのしるしか」
「たいようのいしはラダトームの城でしょ?王子サマ心当たりないの?」
「あるとすれば、僕が行ったことない地下かな」
王子のルーラでラダトーム城へひとっ飛びし、地下を探す。地下への階段は城の外れにあった。地下には賢者がいた。
「わしには分かっておった。いずれロトの意思を継ぐ者がここを訪れることを。この宝箱には勇者ロトからあずかったたいようのいしが入っておる。そなたが竜王をたおすために必要な物じゃ。さあ宝箱を開けるがよい!」
三人はたいようのいしを手に入れた。
「そなたがこの地に再び光をもたらすことをわしは信じておるぞ。さて…。長い間たいようのいしを見まもりつづけてわしもすこしばかりつかれたわい。そろそろ休ませてもらうことにしようかのう…」
そう言って賢者は奥の寝室へ姿を消した。
「残った手掛かりはメルキドの町か。ここからメルキドまではかなりかかる。今晩ラダトームの町の宿屋で休んで明日行こうか」
王子の提案に二人も賛成した。皆疲れていたので今回はマイラの村の宿屋に泊まった時のように騒ぐことなく眠った。朝、主人公が目を覚ますと目の前に王子の顔があった。
「!?」
驚く主人公。サッと飛び上がる王子。リソルの槍が空を斬る。
「主人公がなかなか目を覚まさないから心配して愛の口づけを、と思ってな」
「馬鹿じゃないのッ!?」
「正真正銘の王子様の口づけだぞ!?」
「黙らないとその口削ぎ落とすよッ!?」
…朝からにぎやかだ。宿屋の女将からの苦情でようやく二人は喧嘩を止めた。
「壊れた家具の修理代は王様に言えば払って貰えるのかしら?」
「…すみませんでした。僕が払いますので王様には言わないで下さい」
メルキドに向かう途中、瓦礫のやまがあった。珍しく厳しい表情で王子が言う。
「…あれはドムドーラの町だ。数十年前にまものたちによって滅ぼされてしまったんだ。早くしないとラダトームも同じ目に遭うかもしれない」
ドラゴンやスターキメラをリソルの槍と王子の剣で打ち払いながらメルキドの町の入口に着いた。メルキドは高い塀に囲まれ、入口を巨大なゴーレムが守っていた。ゴーレムが三人に気付き、殴りかかってきた。
「主人公!ようせいのふえを!!」
王子の言葉にハッとして道具袋からふえを取り出して吹いた。ふえの音を聴かせると巨大なゴーレムがなんと大人しく眠った。
今のうちに、と三人はゴーレムの脇をすり抜けて城塞都市メルキドへたどり着いた。メルキドはアレフガルドの町の中では特に大きな町だった。
「もしまものたちがおそって来たらあぶないからこの町はとりでの中につくられてるのよ」
と町の女性が教えてくれた。
「ロトのしるしの情報が得られるといいんだけど」
三人で聞き込みをしているとロトのしるし…ではなくロトのよろいの情報が聞けた。
「オレが聞いた話ではロトのよろいは人から人へ…。ゆきのふという男の手にわたったらしい」
「昔うちのじいさんがよくいってたんです。友だちのゆきのふさんが何かすごい宝を自分の店のうらの木にうめたらしいと」
「私の家は代々ドムドーラで店を開いてたんですよ。ところがゆきのふじいさんの時町がまものにおそわれて…。やっとの思いでここまで逃れて来たそうです。えっ?その時の店の場所?たしか…町の東の方だったと思いますよ」
「よろいについてはだいぶ分かったけどしるしは…」
「ロトのしるしの情報は無いね」
「あとはあの真ん中の建物くらいだな、聞き込み行ってないの」
三人がすがるような気持ちでいるとついに
「そなたがしるしを求めるならこの南の神殿に住む長老をたずねるがよい」
と老婆から聞くことができた。南の神殿では長老から
「祈りましょう。光がいつもそなたと共にありますよう…行きなされ。そして探すのです。ラダトームの城まで北に70西に40をきざむその場所を!!」
というしるしのありかと思われる場所が聞けた。
「その方角と距離だと、ここから南の毒沼の真ん中辺りだな」
「そんな場所にロトのしるしが?」
「行ってみるしかない」
毒の沼地の真ん中で三人はロトのしるしを手に入れた。
「これであの失礼なじいさんに追い返されないね。聖なるほこらだっけ?早く行こうよ」
せかすリソルに王子が
「その前に、気になることがあるんだ。竜王を倒すためには特別な武器やよろいが必要なのだと、耳にしたことがある。さっきドムドーラにロトのよろいがあるって噂を聞いただろ?寄って行ってもいいかな」
「竜王のツメは鉄を引きさき、はき出す炎は岩をもとかすなんて言われてるしね。いいんじゃない」
三人は瓦礫のやまとなったドムドーラへ着くと町の東に生える木の元へ向かった。木の根元に光輝く金属がかすかに見えた。喜んで飛びつこうとする王子にリソルが
「危ないっ!」
と叫んだ。木の陰からあくまのきしが王子に向かって斬りかかってきた。王子は避けようとしたが間に合わない。リソルがドルマドンであくまのきしの身体を弾いてなんとか反らした。主人公はカカロンを召喚した。あくまのきしはドルマドンに腹を立ててリソルを標的に固定したようだ。あくまのきしの怒りの連撃に耐えきれず、リソルが吹き飛ばされる。瓦礫に叩きつけられたリソルの口からうめき声が漏れた。主人公はそれを見て動揺してしまい、カカロンが消滅してしまった。
「馬鹿ッ!」
リソルが弱々しく叫ぶ。慌てて再度カカロンを召喚しようとするが動転して上手くいかない。叩きつけられた衝撃で動けずにいるリソルの元にあくまのきしが迫る。武器を振り上げるあくまのきし。その時、ガッシャーンと大きな音がしてあくまのきしの左足が吹っ飛んだ。王子が斬り飛ばしたのだ。あくまのきしはバランスを失い倒れた。倒れたあくまのきしに王子が馬乗りで斬りかかりバラバラにしてしまった。リソルがふぅと息をついた。
「リソル大丈夫か!?」
王子がリソルに駆け寄る。
「大丈夫だよ。オレは人間と違ってひ弱じゃないし傷の治りも早い。どっかの誰かさんはそれを知ってるくせにあんなに動揺しちゃって…そんなんじゃ竜王倒せないよ?」
いつの間にか出ていた涙を慌てて拭う主人公。
「リソル…」
何かを言いかけて思い留まる王子。王子のベホイミを受けて立ち上がるリソル。
「オレはもう平気だから。木の根元、掘ってみようよ」
木の根元を掘ると光輝くよろいが出てきた。
「これがロトのよろいなのか?」
主人公やリソルはサイズが合わなかったのでよろいは王子が着ることになった。三人はルーラでラダトームまで飛び、そこから聖なるほこらへ向かう。ほこらでは神官が首を長くして待っていた。
「偉大なる勇者ロトの意思を継ぐ者よ!今こそ雨と太陽が合わさる時じゃ!さああまぐものつえとたいようのいしを!」
王子は神官にあまぐものつえとたいようのいしを手わたした。
「おお神よ!この聖なる祭壇に雨と太陽をささげます。…勇者の意思を継ぐ者よ。祭壇に進みにじのしずくを持って行くがよい!」
三人はリムルダールの西のはずれに向かった。ここからでも竜王の城が見える。王子はにじのしずくを天にかざした。すると虹の橋がかかり、西のはずれと魔の島を繋いだ。
「いよいよだな」
決心したように言う王子へ視線を向ける主人公とリソル。
「この世界の住人でもないのに、ここまで一緒に旅をしてくれてありがとう、二人とも。今のこのアレフガルドには勇者ロトの血をひく者はいない。けれど、勇者でもないのに竜王に立ち向かおうとする勇気は、勇者さえ超えられるかもしれない。僕ら三人で竜王を倒し、ひかりのたまを取り戻そう。どうか力を貸してくれ、主人公!リソル!」
力強く頷く主人公とリソル。王子は深呼吸をして毒の沼の中にそびえ立つ竜王の城へと足を踏み入れた。
「なんだ?もぬけの殻じゃないか?」
「確か魔王の部屋のかくされたる入口より闇に入ったって、リムルダールで聞いたよ」
「魔王の部屋はここか…。ん、なんだか玉座のうしろから風を感じるような…」
王子は玉座のうしろを調べると、なんと階段を見つけた。
「闇、か…。行くよ」
レミーラで闇を照らす王子。奥へ進むほどまものが強くなっていく。ダースドラゴンやしにがみのきし、だいまどうなどの強敵を主人公の風斬りの舞とカカロンでサポートを受け、リソルがドルマドンや槍で、王子がベギラマや剣で一掃していく。そんな中、三人はあるものを見つけた。
「なんでこんな所に…」
主人公は扇でリソルは槍が武器なのでロトのつるぎは王子が装備した。
「これで、伝説の勇者ロトの装備が揃った」
さらに奥へと進むと突然視界が開けた。そして、竜王の姿があった。
「よくぞここまで来たラダトームの王子、ローランドよ!わしが王のなかの王 竜王である。わしは待っておった。そなたのような若者があらわれることを。もしわしの味方になれば世界の半分を王子にやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」
「はい」
「はっ!?!何言ってんの、王子!!」
「よろしい!ではわしらの友情のあかしとしてそのつるぎをもらうぞ!」
「はい」
「ほほう すでにこのつるぎを手にしていたか……。しかしもはやどうでもよいことじゃ。ではわしからのおくりものをうけとるがよい!王子に世界の半分 闇の世界をあたえよう!わあっはっはっはっはっ わっはっはっはっはっ」
王子の世界が真っ暗闇に包まれるー、
「…なんてね」
王子はすっかり油断していた竜王からロトのつるぎを奪い返すと急所を狙って思い切り斬りつけた。
「もし僕が一人でここへ来ていたとしたら、今の誘いにのってしまっていたかもしれない。少し前までの僕は、王の後継ぎという重圧から逃れたくて仕方なかったから。でも僕はこの二人との旅を通してたくさんのことを学んだ。人々の生活にふれ、彼らの国への想いを知った。そして主人公とリソルから強さと優しさを教えられた。僕は今、王子として生まれた義務なんかじゃなく、心からこの国を愛し、守りたいと思っている」
「おろか者め!おもいしるがよい!」
竜王の姿がしだいにうすれてゆく……。なんと!竜王が正体をあらわしたっ!
「…あーあ、すっかり理性を無くしてただの竜になっちゃって」
「主人公!リソル!来るぞ!!」
巨大な竜に姿を変えた竜王の吐き出す燃え盛る炎と鋭い鉤爪が三人に襲いかかる。火の息を避け主人公はカカロンを召喚。リソルはシャドウガードを貼りつつドルマドン。王子はロトのつるぎで竜王のかたい鱗を激しく斬り裂く。
「重そうな身体してるわりに俊敏でタフだな。近付けない」
「オレの槍も呪文も大して効かないね。フン、まともにやりあっても勝てないっていうなら!」
リソルが飛び上がり竜王の目に槍を突き刺す。
「ギャオオオオオオオオウッ!!」
激しい咆哮をあげる竜王。その竜王の足元に主人公が水神のたつまき。カカロンがマヒャドで凍りつかせる。視力を奪われ凍りついた地面に気付かぬ竜王が足を滑らせ倒れる。
「おおおおおおっ!!」
雄叫びをあげながら倒れた竜王の首に深く斬り込む王子。
「グギャアアアアアアアアアッッ!!!」
竜王の断末魔が魔の島に響き渡った。
こうして三人は竜王からひかりのたまを取り戻した!
王子がひかりのたまをかざすとまばゆいばかりの光があたりにあふれだす……。
世界に平和がもどったのだ!
三人が竜王の城から出るとそこは毒の沼ではなく、花畑へと変わっていた。
ラダトームの城へ帰る道のりで会う人会う人が三人を誉め称えた。
「ついに竜王をたおされたのですね!ええ!わかりますとも!見てくださいこの世界のすがすがしさを!これは世界にふたたび平和がもどったあかし。ありがとうございました!」
「よくぞやった。精霊ルビスさまもきっとおよろこびのことじゃろう。ルビスさまはこの地をつくられた方。そなたたちのことを見まもっていたはずじゃぞ」
「話は聞いたぜ!人は見かけによらないっていうけどまったくそのとおりだよなっ」
「あんたたちがうちの宿屋に泊まったこともあるだなんてあたしゃハナがたかいよ」
喜びであふれるラダトームの城へ三人は帰って来た。三人を出迎える王様と大臣、兵士達。
「よくぞ竜王をたおしひかりのたまを取り戻してくれた!そなたたちこそまことの勇者じゃ!どうじゃ?主人公、ローランドと共にこのわしにかわってこの国を治めてくれるな?」
「お待ち下さいませ父上。主人公には帰るべき国があります。それに、リソルがいます」
「そうか……。残念だがそういうことなら仕方ないの」
「二人には本当に世話になった。ありがとう。無事に元の世界へ帰れるといいのだが」
大臣が主人公に駆け寄り耳元で言う。
「ローランド王子はまだ甘えたい盛りの幼い頃に母を亡くしたせいか女性に目がなく行く末が心配でございました。だがあなた達二人との旅を通してずいぶんたくましくなられたようで。感謝致します」
「元の世界へ帰れるまで城にいてもいいんだぞ」
王子が名残惜しそうに言う。
その時、主人公のポケットのエテーネルキューブがまばゆい光を放った。
あまりのまぶしさに皆目をつぶった。
その場にいたラダトームの城の者達の目が見えるようになった頃には主人公とリソルの姿は跡形もなくこつぜんと消えていた。
二人はアレフガルドへ跳ばされた時と同じく光の渦を抜けると、アスフェルド学園の祈望館、リソルの部屋に着いた。安心して疲れが出たのか急に身体が重くなり、両手を床についてしまう主人公。
「お疲れ様、主人公。良かったらベッド使いなよ」
うなずいて主人公はベッドを借り、横になった。
「あのさ、もしかしてアイツ、勇者だったんじゃない?いや、オレの主が持ってる本の勇者に似てる気がしたんだよね。アイツが使いこなす呪文とか、あと魔族のこのオレの槍やドルマドンを避けれる身体能力とか。ま、そんなわけないと思うけど」
ローランド王子がロトの血をひく勇者だったのかは分からないが。
夢の中で主人公は精霊ルビスにお礼を言われた気がした。