「この気はもしや!?いや、まさかそんなはずは…。今この世界には勇者などという忌々しい存在はいないはず。…ふむ、よく似ているが少し違った気のような…。だが忌々しい気には間違いない。ならばこうしておこう」
ハーゴンは気を失っている主人公に右手をかざし、呪いの言葉を呟いた。その禍々しい気配に驚いて目を覚ます主人公。
「わう?わう!?!わんわん!!」
主人公は目の前のハーゴンを突き飛ばそうと右腕を上げた…つもりだったが、バランスが取れず転んでしまった。
「きゃん!くぅーん…!?」
夢でも見ているのだろうか?主人公が自分の身体に目をやると、全身が獣のように毛で覆われていた。手の平と足の裏には肉球があった。
「ぐわっはっはっはっ。我が名は大神官ハーゴン。偉大なる神の使いじゃ。哀れな勇者もどきよ。命があるだけ感謝するのだな。我が破壊の神、シドーが世界を滅ぼす様を無力な犬の姿のまま指をくわえて見ているがいい。わあーっはっはっは」
主人公は犬にされたということが夢でなく現実だということに愕然としながら、遠ざかるハーゴンの後ろ姿を睨み付けていた。
* * *
ハーゴンに呪いをかけられる数十分前。主人公は祈望館のリソルの部屋にいた。
「…アンタが魔界に!?アンタのことまだ主に報告してないのに」
驚いて大きな声を出すリソル。行く可能性があるというだけだから、とリソルを落ち着かさせようとする主人公。
「…オレが一緒に行けたらいいけどまだ学園での調査が終わってないし」
リソルが思案にふけろうとしていると主人公のポケットから眩しく輝く銀色の箱が転がり出て来た。
「…本当にこの箱は急だよね。今度はどこへ跳ばされるわけ?」
ため息混じりの諦め声でリソルが言った。主人公は分からないと首を横に振った。エテーネルキューブの輝きが目を開けていられないほど強くなり、2人は目を瞑った。部屋からエテーネルキューブの輝きが消えた頃には主人公とリソルも部屋から姿を消していた。
* * *
緑の光の渦を抜けた二人は燃え盛る町の中に立っていた。ガーゴイルやグレムリン、ベビルなどの魔物が建物を焼き、壊し、町人を追いかけ回しているのが目に飛び込んできた。
「…なっ!?」
目の前の光景に絶句する二人。その二人の後ろで呪文を唱える声がした。二人が振り向くより先に光の大爆発が起きた。イオナズンだ。吹き飛ばされた衝撃で二人共気絶してしまった。イオナズンを唱えた者、ハーゴンが主人公に近付く。
「この忌々しい気は…まさか勇者?いや、似ているが違うようだな。しかし勇者と同等の忌々しさを感じる。わが願いの成就の妨げに成りうる者は排除しておこう」
ハーゴンが手をかざし呪いの言葉を呟くと主人公は犬の姿に変えられてしまった。主人公は驚いて目を覚まし、立ち上がろうとするが、2本足では自分の身体を上手く支えられず、尻餅をついた。
「勇者もどきよ、おぼえておくがよい。私は偉大なる神の使い、ハーゴンさまじゃ!わが破壊の神シドーがこの世界を滅ぼす光景に犬としてでも生きて立ち会えること、感謝するがいい!わっはっはっはっ!」
ハーゴンの姿が見えなくなった後、主人公はリソルを探した。リソルは主人公が倒れていた場所から数十メートル離れた場所に倒れていた。
「わんわん!」
鳴いてみるものの目を覚まさないリソル。前肢で身体を揺すってみても起きない。主人公は少し不安になってリソルの顔を舐めた。
「…なまぐさっ。何!?犬?!」
飛び起きるリソル。
「ここは…。主人公は?どこ?!」
「わんっ!」
「…おかしいな。主人公の気配は近くに感じるんだけど」
「わんわんっ!」
「…うるさいなあ。さっきから何なのこのい…ぬ?え?」
「わんわんっ!くぅーんくぅーん」
「…まさかアンタなの!?何やってんの?!」
「くぅーん…」
「…アンタが変化の術なんて高等魔術使えるわけないしね。呪いか。誰にやられたの?」
「わんわん」
「分かったとしても話せないよね。…クソッ!オレが側にいながら…!アンタは絶対にオレが元に戻すから」
「そのワンちゃん、本当は人間なのか?もしそうならこのムーンペタの町の南の毒沼に真実をうつしだすラーの鏡っていうものがあるらしいから探してみたらどうだい」
物陰からおじさんが声をかけてきた。
「それとさっきの魔物達はハーゴンの軍勢だ。気を付けな」
「…どうも」
主人公とリソルはおじさんに教えて貰った通り南へ向かった。
「…ハーゴンなんて聞いたことないな。そんな三流魔族がオレのものに手を出したらどうなるか、後でちゃんと教えてあげないと」
毒沼に着くと先客がいた。おそらく先程ムーンペタにいたグレムリンだろう。グレムリンはラーの鏡を手に持っていた。
「キキッ、さっきの勇者もどきの犬コロか!それとお前は?人間に見えるけど中身は俺達みたいなニオイがすんなあ」
「…ごちゃごちゃうるさいな。さっさとそのラーの鏡、オレに渡してくれる?」
「答えはノー!!悪いな人間もどき。その犬コロには一生四つ足で生きてもらう。ハーゴン様の命令はぜったーい!」
「やめっ」
グレムリンに地面に叩きつけられたラーの鏡は粉々に砕けちってしまった。
「…ッ!!」
「これでもう元には戻れない。だってあとは呪いをかけた術者を倒すしかないからな。ハーゴン様が人間もどきと犬コロに負けるはずがないし。残念だったなあ?ケケケ」
「黙れッ!!」
リソルはグレムリンに向かってドルマドンを放った。グレムリンはドルマドンの衝撃ではるか遠くへ飛んでいった。
「…ごめん。オレの力不足のせいだ」
破片となったラーの鏡と主人公から目をそらすように俯く。
「…でもオレは諦めないから。どんな手を使ってでもアンタを元に戻してやる」
「わん」
リソルの言葉に主人公は嬉しそうに尻尾を振った。
「それにしても、なんで三流魔族のかけた呪いがこのオレに解けないわけ?すごい屈辱なんだけど。…仕方ない、ムーンペタに戻ろ」
「わん」
海が近いからか、ムーンペタはすでに消火されていた。しかし建物はほぼ倒壊し、生き残った町人も少ないようだ。再興するより他の町へ移ろうと考える人が多いのか荷造りしている人が目立つ。そんな中なんとか聞けた情報は、隣の大陸へ行くには風のマントが必要なことと、ムーンペタの近くの風の塔にそのマントがあるということだ。
「…とりあえず風の塔へ行ってみるか」
リビングデッドやラリホーアント、よろいムカデ達をリソルが槍でなぎはらいながら風の塔をのぼる。主人公は吠えて弱い魔物を遠ざけたり、噛みついたり体当たりしたり。風のマントを手に入れるとリソルは早速装備し、主人公を抱っこして塔から飛び降りた。風のマントのおかげで2人ともケガの心配なく着地できた。
今2人がいる大陸の端に南のドラゴンの角と呼ばれる塔が建っている。そしてその向かいの大陸には北のドラゴンの角が建っている。橋が無いため、向かいの大陸へ行きたい時は塔のてっぺんから風のマントで飛んで渡るしかない。主人公とリソルは南のドラゴンの角に入ると塔の頂上を目指した。マンドリル、メドーサボール、きとうし達をリソルが槍で払い、ドルモーアを叩き込む。最上階に着くとリソルは風のマントを装備し、主人公を抱っこして向こう岸に向かって飛んだ。無事に向かい側の大陸に着いた2人はルプガナへ向かった。
「港町ルプガナへようこそ。ここから東の大陸にはラダトーム城があるよ」
「…ラダトーム?聞き覚えがあるような」
主人公とリソルは顔を見合わせた。
「ここは港町だから変な人が集まってくるんだよね。おや旅人かい?それならウチのまよけのすずがオススメだよ!」
「あら、可愛いボウヤね。よかったらぱふぱふしていかな~い?ボウヤにならたくさんサービスしちゃう」
踵を返すリソル。
「あーん、つれないわねえ」
「港町だっていうのに定期船がないなんて。…何?急にどうしたの、主人公」
主人公が町の外れに向かって唸っている。主人公が唸っている方を向くとリソルは険しい顔をして走りだした。
「…この気配はっ!」
「誰か、助けて!!」
「なんだあ?ガキじゃねえか。痛い目に遭いたくなかったらおうちに帰んな。ケケケ」
「キキッ。待て。コイツただのガキじゃねえぞ」
「…お前ら誰に向かって口きいてんの?ま、後悔しても遅いけどね」
リソルはケラウノスの槍を雷のように一瞬閃めかせグレムリン2匹を片付ける。
「…すごい!助けて下さってありがとうございます。お名前はなんておっしゃるの?お礼がしたいので是非我が家へいらして下さい」
「それどころじゃな…」
リソルは断ろうとしたが腕を女性にがっちり掴まれていて振りきれず、仕方なく女性の家へ向かった。
「…すごい馬鹿力」
「おじいちゃーん!ただいま。さっきね、魔物に襲われたところをリソルさんに助けて貰ったのよ」
「なんと!うちの孫娘を助けて下さってありがとう!何、うちの孫娘と結婚したい?どうぞどうぞ」
「…じーさん、何言ってんの?!」
「ばうばう!」
「おじいちゃんたら何言ってるの!」
「かっかっかっ!冗談じゃよ。となると他にお礼できるものは…おおそうじゃ、リソルくん、船はどうじゃ?」
「おじいちゃん、いきなりそんなこと言われても困っちゃうわよ。リソルさん、すみませんね、さっきから」
「…丁度欲しいと思ってたんだけど。いいの?じーさん」
「よいぞ!可愛い孫の命の恩人じゃからの。ほっほっほ。じゃが最近の海は荒れておるから気を付けるのじゃぞ」
「ありがとうじーさん」
「わん」
「孫と結婚したくなったらいつでもおいで」
「おじいちゃんやめてってば!」
「わうわうわう!」
孫娘とおじいちゃんに見送られながら2人は船でラダトームへ向かった。王様からハーゴンの手がかりが聞けるかもしれないとラダトームの城へ行ったが、兵士から
「わが王はハーゴンをおそれるあまり、どこかにお隠れになりました。情けないことです……」
と聞かされ2人は落胆した。
「…腰抜けなのはどっかのセクハラ王子と一緒か」
2人でラダトームの人々の話を聞き回っていると、この世界はローランド王子のいた100年後のアレフガルドであることや、ラダトームの南の竜王の城に竜王のひ孫が住んでいることが聞けた。
「わん」
100年前竜王がいたのと同じ場所に竜王とそっくりな姿をしたものがいた。主人公とリソルは気配を消して後ろからゆっくり近づく。しかし気配に気付かれたのか、そっくりさんは振り向き、主人公達に話しかけてきた。
「よくぞここまで来た。わしが王の中の王、竜王のひ孫じゃ。最近ハーゴンとかいう者がえらそうな顔をしてはばをきかせていると聞く。じつにふゆかいじゃ!もしわしにかわってハーゴンをたおしてくれるならいいことを教えるがどうじゃ?」
「…いいよ。アンタに頼まれなくても倒すつもりだったし」
「ほほう、やってくれるかっ!では5つの紋章を集めよ。さすれば精霊の守りがえられるという。かつてメルキドと呼ばれた町の南の海に小さな島があるはず。まずそこに行け!その島はこの城からまっすぐ南に進めばたどりつけるはずじゃ!紋章を集め精霊のチカラをかりなければハーゴンはたおせまいぞ!」
「…ありがとう、助かったよ。ラダトームの王様はローランド王子の子孫なだけあって腰抜けで役に立たなくてね。竜王のひ孫さんはこんな場所にいるのに世界のことにずいぶん詳しいんだね」
「そなた、名をなんと申す?」
「…オレはリソル。こっちはハーゴンに呪いで犬にされた人間の主人公」
「そなたたちに会えてわしはとてもゆかいじゃぞ。昔のことはともかくわしたちはいい友達になれそうじゃな。よし決めた!わしもそなたたちと共にハーゴンを倒しに行こう!そなたたちのことは主人公ちゃんとリソルちゃんと呼ぼう。わしのこともリュウちゃんと呼んでいいぞよ。わっはっはっはっ!」
竜王のひ孫と一戦交える覚悟で来たのにまさか仲間になるとは。ローランド王子が聞いたらビックリして引っくり返るだろう。
「さあ主人公ちゃん、リソルちゃん。まずはここから南の大灯台へ向かうぞよ。大灯台には炎の紋章があるはずじゃ。船は持っているのか?」
「持ってるよ」
「なんと、船を持っているとな!?わしは一度でいいから船旅がしてみたかったのじゃ。そなたたちについていくことにして本当に良かったわい」
大灯台に着くと3人は炎の紋章を探しながらのぼった。アンデッドマン、ドラゴンフライ、ゴールドオークなどの魔物をリソルが槍とドルマドンで、リュウちゃんが火の息で片付けて進む。リュウちゃんはホイミなどの回復呪文が使えるので主人公達は戦闘で無理をしないで済むようになった。
「…リュウちゃんが回復呪文覚えててくれて助かったよ」
「わん」
「褒めても何もあげないぞよ。しかしせっかくじゃからわしのとっておきの呪文を見せてやろう。…パルプンテッ!!」
リュウちゃんは得意気にパルプンテを唱えた。すると地鳴りがし、辺りが急に暗くなった。なんとリュウちゃんはおそろしいものを呼び出した!
「リュウちゃん!なんなのコイツ!魔族のオレですらこんなおそろしいもの見たことないんだけど!?」
「ばうばう!」
「あちゃー…これはハズレじゃ。とにかく逃げるぞよ!!」
「はあ!?」
大灯台に住み着いている魔物達も逃げている。リュウちゃんがパルプンテで呼び出したものは相当危険な存在のようだ。3人も必死でその場から逃げた。しばらくすると地鳴りが止み、辺りが明るくなり、おそろしいものの気配が消えた。安全を確認するとリソルはリュウちゃんに
「…パルプンテは禁止!!」
ときつく命令した。
「反省しておる。すまなかった」
リュウちゃんもしょんぼりしている。そこへ突然現れた老人が話しかけてきた。
「こんなへんぴな場所へ来て、何か探し物かな?…いやいや何も言わんでもじじいにはわかっておりますとも、旅の人!ほっほっほっ…、ついてきなされ。紋章のある場所へ案内して差し上げましょう!」
明らかに怪しい。犬になり鋭くなった主人公の嗅覚は、老人から人間ではないものの臭いを感じとっていた。リソルとリュウちゃんも同じく嫌な気配を感じとったようだ。
「…どうする?」
「完全に罠じゃな」
「わん」
「まあ、騙されたふりしてついていってもいいんじゃないかの。弱そうだし」
「…紋章も見つからないしね。行こう」
すでに遠くなってしまった老人の後を3人は急いで追いかけた。数回階段をおりていくと小部屋に着いた。小部屋の真ん中には宝箱があった。
「さあ、この宝箱を開けなされ」
リソルは老人の言うとおりに宝箱を開けた。宝箱はからっぽだった。その様子を見て老人はいやらしくニタァと笑った。
「ケケケ…!引っかかったな!ここがお前たちの墓場になるのさ!」
そう言って老人はグレムリンへと姿を変えた。
「…ふん。オレがここをアンタの墓場にしてやるよ」
槍を握り直すリソル。
「せいぜい余裕ぶっこいてな、人間もどき。報告では人間もどきと犬っころのはずだが竜王のひ孫が一緒にいるとはなあ。おい、ひ孫。お前だなあ?コイツらに紋章のことを教えやがったのは?余計なことしやがってよお。ハーゴン様に逆らわなきゃ始末されないで済んだのに馬鹿なヤツ。キキッ」
「なんと失礼な口のきき方!全く教育がなっておらん!わしが一から教え直してやるぞよ!」
「やなこった。ラリホー!!」
「んあZZZ…」
「わんZZZ…」
リュウちゃんと主人公は眠ってしまった!
「ちょっと、2人して寝ないでよっ!」
「「ZZZ…」」
「とどめだー!ケケケ」
火の息を吐くグレムリン。
「やめろっ!!」
リソルは慌てて主人公とリュウちゃんを抱えて入口へ跳んだ。リュウちゃんは炎の耐性がありそうだが、主人公は犬なのでフワフワの体毛はあっという間に燃えそうだ。リソルは2人を小部屋の外に寝かせるとグレムリンの元へ戻っていった。
「わざわざやられに戻ってきたのかあ?ラリホー!!」
「く…そ…っ!」
ラリホーで眠りそうになったリソルは槍で自らの左手を突き刺し眠気を払った。
「キキッ。やるじゃん。なあ人間もどき、お前みどころあるなあ。俺が口利きしてやるからハーゴン様のしもべにならないか?」
「…お断りだ、ねっ!」
リソルは一閃突きでグレムリンの急所を貫いた。
「がはっ」
グレムリンは床にぽとりと落ちた。リソルはふう、と息を吐くと小部屋の外で眠る2人の元へ向かった。主人公とリュウちゃんに大きな怪我はなさそうだ。ただ、主人公の毛が少し焦げているのに気付いてリソルは焦げ跡をそっと撫でた。
「…リュウちゃん?」
突然リソルに声をかけられてリュウちゃんは飛び上がった。リュウちゃんは目が覚めていたが寝たふりをしたまま、リソルが主人公を撫でるのをこっそり見ていたのだ。
「な、なんじゃ?」
どきどきしながら訊くリュウちゃん。
「…オレの左手治せる?」
「グレムリンにやられたのかの?見せてみなさい。…傷の表面は呪文ですぐ塞がりそうじゃが傷の中の方は1ヶ月くらい痛むかもしれないのう」
リュウちゃんがリソルの左手に杖をかざし呪文を唱えると、傷口が塞がった。
「…ありがと、リュウちゃん」
「わう?わんわん」
呪文に反応して主人公が目を覚ましたようだ。まだ状況が把握できない主人公の頭をリソルがわしゃわしゃ撫でる。
「そう言えば炎の紋章は手に入ったのかの?」
「まだ」
「さっきの小部屋は調べたかの?グレムリンは持ってなかったかの?」
「いや、詳しく見てないよ」
3人で小部屋に戻るとグレムリンが手に紋章を握りしめているのを発見した。3人は炎の紋章を手に入れた!
「…紋章はあと4つ集めないとなんだよね?リュウちゃん何か知らない?」
「そういえばラダトームの王様が命の紋章を持っとった気がするのう」
「…でもラダトームの王様、行方不明なんだってさ」
「わしに心当たりがある」
「…ホント?頼りにしてるよ、リュウちゃん」
「わしラダトームなら行ったことあるから、ルーラで行けるぞよ」
「リュウちゃんちょっと待っ」
「ルーラっ!!」
ゴン!ゴン!ゴン!
3人は天井に頭をぶつけた!
「…今大灯台の中だから先にリレミトしないとでしょ、リュウちゃん」
「そうじゃったな。すまぬ…。リレミトっ!」
「ルーラっ!」
「…さっきオレ達2人で探せる所は全部探したんだよ?」
「わん」
「鍵かかってて入れない部屋とかあったけど、鍵なんて持ってないし」
「そこでわしの出番じゃよ!わしはな、どんな鍵でも開けちゃう呪文、アルパカが使えるのじゃ!!」
「…アルパカって白くてフワフワした動物じゃない?」
「間違えた!なんじゃったかの…アルパ…カ…アバ…カ…、そうじゃ、アバカムじゃ!あの武器屋の2階の扉の先とか怪しいと思うんじゃ!」
リュウちゃんはそう言うと武器屋のおじさんが制止するのを押しのけ、2階の扉の前で
「アルパ…違う、アバカム!!」
と唱えた。開いた扉の先には冠をかぶり高貴そうな身なりをしたおじさんが武器を作っていた。
「そなた、ラダトームの王様であろう?」
「こんな所までくるとは仕方のないやつだな。わしはただの武器屋の隠居じゃよ。かっかっかっ!」
「城へ連れ戻しに来た訳ではないので安心するがよい。わしらはハーゴンを倒す為に精霊のチカラを借りなければならぬ。そなた、命の紋章を持っておらぬかの?」
「ハーゴンを?ならばこれを持っていくがよい」
自称武器屋の隠居から命の紋章を受け取るとリュウちゃんは武器屋を出た。
「あとの3つはあてがないのう。だがせっかく船があるのじゃ、船旅を楽しもうではないか。東の海にはデルコンダルという国があると聞いたことがある。行ってみようぞ」
「…デルコンダル?」
「デルコンダルの王様は噂ではかなりの格闘好きらしい」
「…ふうん」
「もしかしたら何かと戦わされるかもしれないのう。わしは肉弾戦は得意じゃないのじゃ。もし戦うことになったらリソルちゃん、頼んだぞよ」
「…はいはい」
しびれくらげやホークマンを主人公が吠えておびえさせ、リソルの狼牙突きやリュウちゃんの火の息で倒しながらデルコンダルへと船で進む。
「倒しても倒しても魔物がわいてくるのう。もっと優雅な船旅を想像していたのじゃが…」
「ハーゴンを倒せばいくらでも優雅な船旅が楽しめるんじゃない?」
「面倒臭いしパルプンテ唱えてもいいじゃろうか?」
「こんな逃げ場のない海でこの前みたいなやつ呼んじゃったらどうすんの!?オレ達海に沈められるよ?!」
「仕方ないのう。せめて魔物がしびれくらげとかじゃなくて美味しそうな魚だったら良かったものを」
リュウちゃんが理想と現実のギャップを嘆く中、3人はデルコンダルの城に着いた。
「ボウズ、お前も格闘試合に出るのか?くれぐれも命を粗末にするなよ!」
上半身傷だらけの体格のいいおじさんが小柄なリソルを見て心配そうに声をかけてきた。側にいた兵士が
「まったく王様のかくとう好きにはこまったものです。この前も旅の戦士をキラータイガーと戦わせて…その戦士は大ケガをしてしまったんですよ」
とため息をついた。主人公とリュウちゃんは心配そうにリソルに目をやった。
「そんなに危険なのかのう。リソルちゃん、大丈夫か?」
「…オレのこと見くびり過ぎでしょ。余裕だよ」
デルコンダルの城の中庭はまるで闘技場のようになっていた。中庭全体を見下ろせる位置に玉座があり、王様らしき人物が座っていた。その両脇にはバニーガールがいた。王様の左手側のバニーガールが3人に気づいて説明してくれた。
「ここは戦いの広場。勇者たちのスタジアムでございますわ」
「ああ……。戦ってる男の人ってすてき……」
右手側のバニーガールはうっとりしている。王様が口を開いた。
「はるばるデルコンダルの城によくぞ来た!わしがこの城の王じゃ。もし、わしを楽しませてくれたならそちたちに褒美をとらせよう。どうじゃ?」
「…その話、のるよ」
「わはっわはっわはっ!いい返事だ。少年、名をなんと申す」
「…オレはリソル」
「リソルの準備がよければすぐにでも始めるがどうかね」
「…ああ。いいよ」
「よしきた。おい、キラータイガーを連れて参れ!」
「はっ!」
指示を受けた兵士が檻からキラータイガーを連れてきた。リソルは槍を構えた。
「いざ尋常に、始め!!」
王様が開始を告げ、リソルとキラータイガーは睨み合った。
「ガルルルルルル…ガウッ!!」
先にキラータイガーがリソルに飛びかかってきた。鋭い牙と爪を槍で払うリソル。
「ガウゥッ!」
後ろ足で強く地面を蹴りキラータイガーは飛び上がった。リソルを押し倒し首に噛みつこうとしているようだ。リソルは両手で槍を顔面に構え、キラータイガーを押し返そうとした。しかし、キラータイガーの重さに耐えられず、リソルは左側からバランスを崩し倒れた。
「!?」
まさか、と驚く主人公。リュウちゃんも驚いたが、そう言えば、と思い当たることがあった。もしかしたら左手の傷が痛むのでは…。
「キャーッ!!」
リソルがキラータイガーに首を噛みつかれそうになり、観客から悲鳴があがった。リソルはキラータイガーを思い切り蹴飛ばし難を逃れた。反撃とばかりにリソルがけもの突きを繰り出すが避けられてしまう。どうも槍の照準が合わないようだ。リソルの表情は険しく、脂汗さえかいているように見えた。再びキラータイガーがリソルに飛びかかった。リソルは今度は槍で防ごうとはせずドルモーアを放ったが、キラータイガーは動じずリソルに襲いかかった。
「チッ」
リソルは舌打ちをして後ろに跳びすさった。そして、なおもしつこく飛びかかろうとするキラータイガーを見、両手で槍を地面に突き立てた。キラータイガーの牙がリソルの首に触れる寸前、槍から凄まじい威力の雷が放出された。ジゴスパークだ。辺り一面に雷鳴がとどろき、光に包まれた。視界が元に戻ると、黒焦げになって倒れているキラータイガーと、槍を手に立ち肩で息をするリソルがいた。広場は一瞬間を置いた後、歓声に包まれた。デルコンダルの王様は玉座から立ち上がり拍手をした。
「あっぱれ!あっぱれ!見事な戦いぶりであった!わしからの褒美じゃ。月の紋章を与えよう!そちたちの活躍を期待しておるぞ!」
「あんたなかなか強いじゃねえか。見直したぜ」
デルコンダルに着いて初めに話しかけてきたおじさんも自分のことのように喜んでいる。
「これだから人間は…。オレ、こういうお祭り騒ぎ苦手なんだよね。先に船で待っててもいい?」
「よいぞ。わしと主人公に情報収集はまかせるがよい」
「わん」
「…悪いね。それじゃ」
リソルは先に船へ戻っていった。
「よーし、主人公ちゃん!情報収集…の前に、わしさっきからアレが気になっておっての」
「わん?」
リュウちゃんが指差した方向には占い師のおじさんがいた。
「わし、占いも前から興味があっての~♪リソルちゃんには却下されそうだったから丁度良かったわい」
「わんわんわん」
主人公は異議を唱えたが、ウッキウキのリュウちゃんの耳には入らないようだ。
「わしは占い師。何かおさがしものかな?」
「そうじゃ。人生の伴侶を探しておる」
「さようか。では占ってしんぜよう。むむむ…………」
期待に胸をふくらませるリュウちゃん。
「…残念ながらモヤがかかっていて分からぬ。おそらくまだ兆しが現れていないのだろう」
「まさか一生独り身なんじゃ!?」
「暫くしたらまた占いに来るがよい。お?そこの犬、不思議な目をしておるな。そなたも占ってしんぜよう。むむむ…………そなたたちのさがしものは、デルコンダルの旅の扉から行ける炎のほこらとムーンペタで見つかると出ておる!信じる信じないはもちろんそなたたちの自由。気をつけて行きなされよ」
この他にもデルコンダルの人々から、西の海にルビスのほこらがあることや、ここから南西の海には水の都ベラヌールがあることが聞けた。
「占いを信じて旅の扉に行ってみるかのう」
「わん」
デルコンダルの旅の扉から炎のほこらとムーンペタに行くと、星の紋章と水の紋章が見つかった。
「紋章が5個全部集まった。これでルビスのほこらへ行けば精霊の守りが得られるはずじゃ。船に戻ってリソルちゃんと合流するぞい」
「わん」
2人が船に戻るとリソルは眠っていた。
「リソルちゃんただいまー!おっと、寝ておるのか」
「…ん…、おかえり」
リュウちゃんの声でリソルは目を覚ましたようだ。リュウちゃんは情報収集の成果と紋章が全部揃ったことをリソルに説明した。
「…オレが寝てる間に紋章全部揃えたの?アンタ達にしちゃ上出来じゃん」
「ふふん、すごいじゃろう」
リュウちゃんはとっても得意気だ。
「…そんじゃ、ルビスのほこらへ行こうか」
ルビスのほこらはデルコンダルから少し西へ船を進めた先にあった。長い階段を下り、最下層に着くと、3人の頭の中にどこからともなく美しい声が聞こえてきた。
「私を呼ぶのは誰です?私は大地の精霊ルビス…。おや?あなたがたはロトの意思を継ぐ者たちですね?私にはわかります。はるか昔私が勇者ロトとかわした約束…。その約束をはたす時が来たようです。さあ…私の守りをあなたがたにさずけましょう。いつか邪悪なまぼろしにまよいとまどった時はこれを使いなさい。必ずやあなたがたの助けになるでしょう。さあお行きなさい。ロトの意思を継ぐ者たちよ。私はいつもあなたがたを見守っています…」
3人はルビスのまもりを手に入れた!
「今の声、そなたたちも聞こえたか?」
リュウちゃんの問いかけに頷く2人。
「では幻聴ではなかったのだな。なんとも美しい声じゃった」
「…ルビスのまもりを手に入れても、肝心のハーゴンの居場所が分からないんだよね」
「くぅーん」
「ベラヌールは大きな都じゃからハーゴンについて知っている者もおるじゃろう」
「…だといいけど」
「わおーん」
うみうしとガーゴイルを3人で蹴散らしながらベラヌールへ船で向かう。
「船旅といえばカモメに餌をあげるものと聞いていたのにガーゴイルしか寄ってこないではないか!」
「…ガーゴイルに餌あげてみれば?」
「こんなむさい顔の魔物になつかれても嬉しくもなんともないわい」
「嫌じゃ嫌じゃ~!!カモメがいいのじゃ~!」
「…リュウちゃんって本当に竜王のひ孫なの?背中にチャック付いてない?」
「チャックなんぞ付いとらんわい!本当もなにもわしの姿を見れば一目瞭然であろう?ご先祖様とうりふたつだし、隠しきれない高貴なオーラが漏れだしてるはずじゃ。ふふん、リソルちゃんにはこの高貴さが分からぬかの」
「…無邪気さはよく分かったけど」
「よいのじゃ。リソルちゃんももう少し大人になれば分かるようになるはずじゃ。それまでは少々の無礼は目を瞑ろうぞ。わしは懐が深いからの」
「…なんでオレの方がガキ扱いされてんの!?」
そんな話をしながら3人はベラヌールに着いた。
「なんと不吉な!あなたがたの顔には死相がでていますぞ。とても邪悪なチカラがあなたがたにとりついています。ああおそろしい…」
着いたとたんに神官から言われ、面食らう3人。
「…なんかとりついてるってよ?」
「竜王のひ孫であるわしにとりつくとは怖いもの知らずじゃな」
「…主人公はすでに呪われてるし」
「きっと疲れた顔してるって言いたかったんじゃろ。そう言えばまだ一度も休んでおらんかったな。もう夜遅いし情報収集は明日にして宿で休もうではないか」
「…それもそうだね。オレも流石に疲れたし」
3人は宿屋へ向かった。
「旅人の宿屋にようこそ。ひと晩90ゴールドですがお泊まりになりますか?」
「うむ」
「ではおやすみなさいませ」
皆疲れていたのか泥のように眠った。そして朝になった。
「おはようございます。夕べはよくおやすみでしたね。ところでもうひとり、お連れの方は?もしかしてご病気では?それならば、元気になるまでお預かりしますが…」
「なんじゃと!?」
「わう!?」
主人公とリュウちゃんと宿屋の店主がリソルの枕元へ行くと、まるで別人のような口調のリソルが横たわっていた。
「か、からだが動かない…どうやらハーゴンがぼくに呪いをかけているらしい。しかし、やられたのがぼくひとりでよかった……たぶん、ぼくはもうだめだ。さあ、ぼくにかまわず行ってくれっ!ううっ…」
「これはもしかするとこの宿屋に伝わる『サマルトリアの王子になる呪い』かもしれません」
「なんじゃそれは」
「死ぬ間際になると『いやー探しましたよ』と口走るそうです」
「だからなんじゃそれは」
「ハーゴンは遠くからでも人を呪い殺すことができるそうですが、ここはハーゴンのいるロンダルキアの地ではありません。呪いの力も弱いはずです。もしかしたら世界樹の葉で助けることができるかもしれません」
「これはハーゴンの呪いなのか?」
「さあ早く!ずっと東の海の小さな島に世界樹の木が一本生えているそうです。お連れの方が『いやー探しましたよ』と口走る前に世界樹の葉を手に入れるのです!」
宿屋の店主にせかされ急いで船に戻った主人公とリュウちゃん。
「サマルトリアの王子って誰なんじゃ?」
「くぅーん?」
店主に言われた通り、東に行くと世界樹の生えた小さな島があった。リュウちゃんは世界樹の葉を手に入れるとルーラでベラヌールへ戻った。宿屋に着くと店主が腕を振り回しながら叫んだ。
「急いで下さい!もう末期症状が現れています!早く!世界樹の葉を!!」
2人がリソルの元へ行くとリソルが息も絶え絶えに
「いやー探しましたよ」
と繰り返し呟いていた。リュウちゃんがリソルに世界樹の葉を飲ませると、リソルは無事に正気を取り戻し、身体も動くようになった。
「…なに、さっきの。アレ、夢じゃなかった?」
「残念ながら、リソルちゃんはさっきまで『いやー探しましたよ』を連呼しておったぞ」
「ハーゴン…。まじで許さないからな」
「リソルちゃんは病み上がりだからもう少し休んでいるがよい。わしと主人公ちゃんで情報収集してくる」
「…いや、オレも行くよ。また変な呪いかけられたらむかつくし」
「そうか。無理するでないぞ」
3人はベラヌールの人々から情報収集をして、ハーゴンの神殿へ行く為には邪神の像が必要なこと、邪神の像は海底の洞窟にあること、海底の洞窟へ行く為には満月の塔にある月のかけらが必要なことが聞けた。
「…ということは次は満月の塔に行けばいいわけだ」
「満月の塔はベラヌールの北の大陸にあるそうじゃ」
3人は船で満月の塔に向かった。満月の塔の側まで行けたが、塔の周りにまるで堀のような水場があり、それ以上近づけなかった。
「どうしたものかの」
「…ここは主人公に一肌脱いでもらおうか」
「わん!?」
「主人公ちゃんは犬じゃよ!?」
「…犬だからこそできると思うんだよね。主人公に聖水をたっぷりかけて魔物が寄ってこないようにしてから、風のマントを着けて塔に向かって放り投げる」
「帰りはどうするんじゃ?」
「わんわん」
「…帰りは塔のてっぺんから風のマントでダイブ。どう、できる?主人公」
リソルの問いかけに主人公は頷いた。
「…決まりだね。それじゃ、いってらっしゃい」
リソルは主人公に聖水を3本かけ、風のマントを着けさせると、思い切り投げた。無事に満月の塔に着いた主人公は月のかけらを手に入れ、塔の最上階から風のマントで飛んで2人の元へ戻ってきた。
「…ご苦労さま、主人公」
「おかえり、主人公ちゃん」
「わん」
「…海底の洞窟はデルコンダルの西の海だっけ?リュウちゃん、ルーラよろしく」
「まかせるがよい。ルーラ!」
3人はリュウちゃんのルーラでデルコンダルへ飛び、海底の洞窟を探した。海底の洞窟は名前の通り海の底にあるのだが、月のかけらを使うと中に入れるようになった。洞窟の中は海底火山だった。スカルナイトやメタルハンターをリソルのドルモーア、リュウちゃんの火炎の息で倒しながら奥へ進んでいくと、礼拝堂で祈りを捧げているじごくのつかい2匹に遭遇した。じごくのつかい達は主人公達に気づくと襲いかかってきた。
「炎の聖堂を汚すふとどき者め!悪霊の神々に捧げる生け贄にしてやろう!!」
「…アンタ達、ハーゴンのしもべだよね?最近ハーゴンさんにはすごくお世話になったから、お礼が言いたくて仕方なかったんだよね」
「なんだこのガキ」
「おい待て、このガキやべえぞ」
「…その節は、どう、もっ!!」
リソルの怒りのドルマドンが片方のじごくのつかいを吹き飛ばした。
「なっ!?おい、やめ」
リソルはもう1発ドルマドンを放ち、残りのじごくのつかいも吹き飛ばした。
「おのれ……ハ、ハーゴン様ばんざい!ぐふっ…!」
「ヒュー、リソルちゃん、お見事」
じごくのつかい達が祈っていた先には邪神の像があった。邪神の像を手に入れると3人はルーラでベラヌールへ戻った。そして、ベラヌールの旅の扉からロンダルキアへの洞窟に向かった。ロンダルキアへの洞窟は魔物もキラーマシンにバーサーカー、ドラゴンといった強敵揃いだったが、それよりも迷路や落とし穴に3人は苦しめられた。へとへとになりながら洞窟を抜け、雪深いロンダルキアの地へ着くと、左手にハーゴンの神殿とおぼしき立派な建物が見えた。
「ついにここまで来たのだな」
「…もう少しで主人公を元に戻せる」
「そうじゃな」
「わん」
「わしはそなたたちと旅に出て良かったと思っておる。噂や本でしか知らなかった世界を見て回るのは楽しかったぞよ」
「…それはよかった。これからは城に引きこもってないで外に出たらいいよ」
「ハーゴンを倒したらそなたたちは元の世界に帰るんじゃろ?」
「…エテーネルキューブが帰してくれるならね」
3人がハーゴンの神殿の中に入ると、そこはなんと豪華なカジノ船だった。
「すごい、すごいぞ!これはわしが本で読んだ通りの船じゃ!」
「…神殿に入ったはずなのになんで船の中に?」
「わおーん?」
3人にバニーガールが声をかけてきた。
「大神官ハーゴン様所有の夢のカジノ船へようこそ♡船内にはカジノの他にも美味しいお料理とふかふかのベッドもご用意しておりますのでどうぞごゆっくり♪」
「そう言えばお腹が空いたのう。わしは料理を頂こう。そなたたちは?」
「…オレはパス」
主人公も首を横に振った。
「そうか。ではのちほど合流しようぞ。それじゃ」
「ちょっとリュウちゃん、待ちなよ!」
リュウちゃんはルンルンで人混みに消えた。
「…いや、確実にあやしいでしょ。なんで疑わないわけ?」
「ボウズ、大声出してどうしたんだ?なに、ハーゴンを倒しに来た?なにを言ってるんだ。ハーゴン様ほど素晴らしいお方はいないぜ。さてはボウズ、目立ちたがり屋だな?気持ちは分かるがもう少し考えてから発言しような」
おじさんは言うだけ言うと立ち去った。
「このカジノ船は間違いなくおかしい。人間しかいないけど魔物のニオイがプンプンしてるし。幻でも見せられてるんじゃ…」
ふと思い出し、リソルはルビスのまもりを手に取った。すると、どこからともなく美しい声が聞こえてきた…
「だまされてはなりませぬ…。これらはすべてまぼろし。さあしっかりと目をひらき自分の目で見るのです……」
辺りが真っ白な光に包まれる。そして色を取り戻すと邪悪な気配の漂う神殿が現れた。側にいたひとだまのような魔物が
「ケケケケ!だまされていればよいものを!見破ってしまうとは、可哀想な奴め!」
と笑った。
「リュウちゃんは!?」
主人公とリソルは神殿内を探すと、リュウちゃんがお腹を押さえてうずくまっているのを見つけた。
「リュウちゃん!大丈夫!?」
「料理…食べたら…お腹が…。痛い、痛い、助けておくれ…!」
「…やっぱり」
リソルはため息をついてどくけしそうを取り出した。
「ほら、これ飲んで」
「ありがとう!礼をいうぞ!」
神殿にはハーゴンの姿や階段などは見当たらなかった。そこで、聞いた噂を頼りに祭壇で邪神の像をかかげると、どこかの塔の最上階へ3人は飛ばされた。塔を下って行くと、3人の耳に地震のような足音が聞こえてきた。
「一体なんじゃ?」
「がるるるる…わんわんわん!」
なんと、アトラスとバズズとベリアルが3人に襲いかかってきた!アトラスが武器を振り上げる。バズズが飛びかかる。ベリアルが指を振りかざしイオナズンを唱える。
「わしに任せて2人は下がれ!」
「パルプンテするつもり?!」
「違う!ドラゴラム!!」
リュウちゃんはドラゴラムを唱えると大きな竜の姿になった。
「ギャォォォォォオンッ!!」
リュウちゃんは咆哮をあげると、火炎の息でアトラスを焼き、鋭い爪でバズズを引き裂き、太いしっぽでベリアルを鞭打った。アトラス達が起き上がらないのを確認するとリュウちゃんは元の姿に戻った。
「…すごいじゃん」
「すごいじゃろ?力の消耗が激しいし、暴走することもあるから普段は唱えないようにしておるのじゃ。という訳でおんぶ」
「ヤだね。3人の中で一番体が大きいくせに何言ってんのさ」
塔の最下層へ着くと、まるで悪魔召喚の儀式中のようなハーゴンがいた。
「誰じゃ?わがいのりをじゃまするものは?おろかものめ!私を大神官ハーゴンと知ってのおこないか!?」
「…もちろん。いやー探しましたよ」
「その犬は…。そうか、勇者もどきと人間もどきと竜王のひ孫か。情けで命は奪わずにおいたのにわざわざやられに来るとは。おのれの愚かさを思い知るがよい!」
リソルは槍を、リュウちゃんは杖を構えた。主人公は遠吠えをした。主人公の鳴き声に反応して近くの野犬が集まりハーゴンへ一斉に飛びかかった。しかしハーゴンの甘い息で野犬達は眠らされてしまった。
「ふははは。勇者もどきよ、犬の動作が染みついておるではないか。なんと哀れな」
「がるるるる…」
「イオナズン!」
ハーゴンが呪文を唱えた。3人は慌てて眠っている野犬達を避難させた。光の大爆発がハーゴンを中心に起きる。3人とも野犬達を庇いイオナズンを受けたのでリュウちゃんがベホマで回復する。
「竜王のひ孫が野良犬を庇って戦いに敗れたら、ご先祖様が大変悲しむであろうな」
「まだ勝負はついておらぬわ!!」
ハーゴンの火炎の息。避ける3人。リソルの魔眼開放。リソルの魔力が大幅に高まる。
「お前は魔族なのになぜ人間とつるんでるんじゃ?魔界で落ちこぼれだったから人間相手に威張ってるんじゃなかろうな?」
「…アンタみたいな三流魔族とは話す気にもならないね」
リソルがハーゴンに向かってドルマドンを放つ。腕で受け流すハーゴン。主人公がハーゴンに飛びかかる。
「犬の姿で何ができる!大人しくしておれ!」
ハーゴンは主人公を杖で殴り飛ばした。
「きゃん」
主人公が地面に叩きつけられる。
「主人公!!」
リソルの雷鳴突き。雷をまといながらリソルは高く飛び上がるとハーゴンを真上から槍で貫いた。
「お おのれくちおしや…。このハーゴンさまがお前らごときにやられるとは。しかし私をたおしてももはや世界を救えまい!わが破壊の神シドーよ!今ここにいけにえをささぐ!ぐふっ!」
ハーゴンの姿が消えた。すると主人公の身体から煙が吹き出し、人間の姿に戻った!3人はついにハーゴンを倒し主人公の呪いを解いたのだ。
「…主人公!」
「主人公ちゃん!良かったのう!!人間の姿は初めましてじゃな!」
「…ハーゴンが死に際になにか言ってたけど、とりあえずここを出よう」
喜びの中の3人が部屋を出ようとすると、突然足元に地割れが起き、火柱に囲まれた。
「…な?!」
「なんじゃ!?天変地異!?世界の終わりか!??」
なんと破壊神シドーが現れた!
「…コイツは弱点とか急所も特になさそうだしちまちま削るしかないね」
主人公はカカロンを召喚し、風斬りの舞を踊った。
「回復はわしとカカロンに任せい!」
3人は激しい炎と攻撃に耐えながら、シドーが消滅するまで戦った。シドーが消滅すると、どこからともなく美しい声が聞こえてきた。
「破壊神シドーはほろびました。これでふたたび平和がおとずれることでしょう。私はいつまでもあなたたちを見守っています…。おおすべての命をつかさどる神よ!アレフガルドで生きるもの達に光あれ!さあお行きなさい」
「お疲れ様じゃった!今夜はわしの城に泊まっていくがよい。疲れが取れたら今度は海辺のザハンという村に行ってみたいのじゃがどうかの?」
その時、主人公のポケットからまぶしい光を放つエテーネルキューブが飛び出してきた。
「…ごめん。お別れの時間だ。そうだ、船はリュウちゃんの好きにしていいよ」
「それはまことか!?ではハーゴンの神殿で見たカジノ船に改装しようかの」
「…それじゃ…元気でね…」
「うむ。そなたたちもな!」
エテーネルキューブが一段と強い光を放ち、主人公とリソルはリュウちゃんの目の前から消えた。
緑の光の渦を抜け、主人公とリソルは祈望館のリソルの部屋に着いた。リソルは主人公の前に立つと両手で主人公の顔を挟んで見つめた。そして強く抱きしめると
「…アンタが人間に戻れて良かった」
と言って、少し焦げた主人公の髪を撫でた。
この夜、主人公が眠りにつくと夢の中にサマルトリアの王子と、呪いで犬にされたムーンブルクの王女が出てきて
「いやー探しましたよ。ぼく達の代わりにハーゴンとシドーを倒して下さってありがとうございます」
「わんっ」
とお礼を言われたとか言われなかったとか。