リソ活♡

毎日リソルまみれ

リソルと獄辛バレンタイン

「ハッピーバレンタイン♪」

 

吐く息が白くなる、うんざりするような寒さ。

気が滅入るようなどんよりした空。

それらをはね飛ばすかのような明るい声が早朝のアスフェルド学園のエントランスに響く。

 

「あ、ありがとう……?」

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「え?ああ、どうも?」

 

突然声を掛けられ甘い香りの漂う小さな包みを渡され戸惑ったような反応を見せる学生達。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「……何してんの?」

 

「!!」

 

青紫の髪と目をした小柄な少年が2月の厳しい寒さよりも冷ややかな視線を投げかける。

 

「えっとこれは……バレンタインだよ」

 

「そういう意味じゃない」

 

少年がフンと鼻を鳴らす。

そんな事は知っている。オレがアンタとどれだけの年月を過ごしてきたと思ってる?

 

そう。少年は今まで何度もこの人と一緒にバレンタインをした。この人を通してアストルティアの様々な文化に触れてきたのだ。少年は、アストルティア出身ではなかった。

 

「リソルには後であげるから」

 

そう言うと再び甘い香りの包みを登校してきた学生達へ配りだした。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「ありがとー」

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「あざっす」

 

まさか全校生徒に配るつもりか?

リソルと呼ばれた少年は舌打ちをしてその場を後にした。

 

※ ※ ※

 

その日の放課後。フウキ室。

学園の封印事件が無事収まった後もなんとなくフウキのメンバー達はフウキ室で過ごすようになっていた。

 

「ハッピーバレンタイン♪」

 

「わあ!主人公ちゃんありがとう!私も作ったんだ。はい、どーぞ!」

 

「主人公さん、ありがとうございます!私からもありますよ!後で感想聞かせて下さいね」

 

「主人公、ありがと!私も、主人公に作った。でも、メルジオルが食べた」

 

「テーブルに置いてあったからわしのかと思ったんじゃ!もう何度も謝ったじゃろ!まだ根に持っておるのか!」

 

主人公がアイゼルとミランにも渡そうとした時、リソルがさっと足を出し主人公が躓いた。

主人公は派手な音を立てて床に倒れ、手にしていたバレンタインのお菓子も粉々に……とはならず、主人公はアイゼルに抱きとめられ、お菓子はミランが受けとめた。

 

「おいおい危ねーぜリソル!何すんだ!」

 

「リソル、君達4年も付き合ってるんだろう?まさか今更やきもちかい?」

 

「アンタ達、外野のくせにうるさいんだよ!」

 

「なっ?!」

 

「はあ!?」

 

朝っぱらから自分の女が他の奴らにバレンタイン渡しまくってたらイライラするさ!

 

リソルは足早に扉へ向かうとこれ以上ないくらい乱暴に大きい音を立てフウキ室を出ていった。

 

※ ※ ※

 

夜。

すうっと息を吸い目の前の扉をノックする。

 

「……誰?」

 

中からいつもより不機嫌そうな部屋の主の声がした。

 

「今日はごめん。少し、話せる?」

 

入れば、とは言わないがカチリ、と鍵を開ける音がした。

 

「お邪魔しまーす」と恐る恐る扉を開け中に入ると、椅子に座りテーブルに頬杖をついていた主はこちらに視線を向けず「話って何」と訊ねた。

 

「ええと……、朝、何してたのか、だよね?」

 

「……バレンタイン、でしょ」

 

「そう!えっとね、ほら、今学園にいる学生さん達はさ、長い間封印事件に巻き込まれて色んな楽しい行事とかも経験出来なかったじゃない?だからね、学園の皆の思い出の1つになれば良いなと思って今年は全員に配ろうと思ったの」

 

「ふうん」

 

ああ、大魔王サマだからね、「皆」の事が気になっちゃうんだろうね。

 

「それに普通のお菓子じゃなくて、魔界で見つけたデスターメリックとかジャリムマサラとか獄炎チリソースとかも入れてみたの!」

 

「へえ……は?」

 

ああ、大魔王サマだから魔界の……。

ん?デスターメリック?ジャリムマサラに獄炎チリソースって今言った?

 

「身体があったまりそうで今の時期にぴったりだなって思って!」

 

「いや、そんなの魔族じゃない奴らが食べたらタダじゃ済まないんじゃないの!?」

 

そういや今日うめき声がやたら聞こえたり口から火ぃ吹いたりしてる奴がいたような気が……!

 

「リソルのもあるよー……あれ?無い……。え!?嘘!どこか落とした!?それとも間違えて誰かに渡しちゃった!?ごめん、また今度作ってくるから!」

 

「待ちなよ。今日は朝からずっとお預けされてるんだけど。これ以上我慢させるつもり?」

 

「え、でも無いんだもん。仕方な……ぁっ」

 

「ククク……今日はこれで我慢してあげるよ」

 

リソルは主人公の耳を美味しそうについばみながら笑った。

 

※ ※ ※

 

その頃。

ラムゼイくんが主人公から貰った本命っぽいチョコレートをドキドキしながら食べた所、あまりの辛さに全身の毛穴から炎が吹き出したとか吹き出さないとか。

 

「うおおおおおおッ!!こ……この熱さが!キミの気持ち!?俺はキミの気持ちにこ、応え……」

 

応えようとしたけどそのまま朝まで気を失い、目覚めた時には何が起きたのか忘れていたそうな。

(辛さで脳の記憶を司る部分が損傷したのかも)

 

          ★おしまい★