リソ活♡

毎日リソルまみれ

リソルと誕生日

「ねえリソルくん、来週主人公ちゃんの誕生日じゃなかったっけ?」

「…なんでオレに訊くわけ?」

「それは…ほら、私もそうだけど主人公ちゃんにはいつもお世話になってるじゃない?」

「…お世話になんかなってないし。遊んであげてるだけだし。むしろ、このオレが遊んであげてるんだから逆に感謝して欲しいくらいだね」

「リソルくんて本っ当に素直じゃないんだから」と言いたいのをこらえるクラウン。

「えっとね、魔界ではどうなのか知らないけど、人間界では大事な人の誕生日に『生まれてきてくれてありがとう』ってお祝いするんだよ」

「…人間って何かにつけてすぐお祝いしたがるよね」

「私はフランちゃんとラピスちゃんと3人で主人公ちゃんの為にケーキを作ろうかって話してるんだ」

「…タヌキ先輩とがっかりナデシコはともかく、ドラキー女には無理じゃない?」

「ラピスちゃんは味見係。前の日から絶食するって張り切ってたよ」

「…そんな事したらドラキー女が全部食べちゃうと思うけど」

「アイゼルは最近夜にコソコソ何か作ってるし、ミランくんは主人公ちゃんへの贈り物をお城の人に準備させてるみたい」

「…ふーん」

「リソルくん、興味なかったかな。ごめんね。じゃあね」

フウキの対策室のソファーに寝そべったまま、部屋を出て行くクラウンの背中を見送るリソル。

「…誕生日、か」

それから1週間後の朝、主人公の家のポストに2通の手紙が届いた。1つはクラウンからだ。

「ハッピーバースデー主人公ちゃん!!
今日のお昼にフウキのメンバーで
お祝いするから対策室へ来てね」

と書いてある。
もう1つはトゥーラ弾きの少年セリクからだった。

「あれからリハビリを頑張って
またトゥーラが弾けるようになったよ。
退院して初めてのコンサートだから
聴きに来て欲しいな。
いちばんいい席を用意して待ってるから」

手紙と一緒にコンサートのチケットが2枚入っていた。チケットには「招待席」という判子がおされている。コンサートは今日の夕方にグランゼドーラ王立劇場で開催されるようだ。対策室でお祝いして貰った後でもコンサートには充分間に合うだろう。
主人公は「今日はいい1日になりそうだな」とウキウキしながら朝を過ごした。

昼になり、主人公がアスフェルド学園のフウキ対策室に着くと、フウキのメンバーが揃っていた。対策室が誕生日のお祝い用に飾られていて可愛い。テーブルには手作りのケーキがある。しかし、それらより主人公の目を引いたのは、ラピスの右腕を掴んでいるリソルだ。
喧嘩でもしているのかと心配する主人公にクラウンがおろおろしながら言う。

「違うの。ラピスちゃんにケーキの味見をして貰ったら止まらなくて、食べ過ぎちゃったの。それでリソルくんが」

「…だから止めとけって言ったのに」

ラピスの腕を離すリソル。
ケーキを側で見ると、半分近く食べられてしまっているのが分かった。

「まあまあ。ラピスも悪気があったわけじゃねーだろうし。そうだろ、ラピス」

アイゼルがフォローする。

「…ごめん…なさい…」

謝るラピス。メルジオルも一緒に謝る。

「すまんのう主人公。わしも止めたんじゃが、ラピスは昨晩から何も食べていなくての」

「あの…ケーキ以外にも僕からサプライズで、シャイニーメロンがあるので」

ミランさん本当ですか!?一度食べてみたかったんです」

目を輝かせるフランジュ。

「すげえ!流石アラハギーロの王子だな」

歓声をあげるアイゼル。

「主人公は僕とアラハギーロの恩人ですからね。主人公の為ならと、祖父も喜んでシャイニーメロンを送ってくれました」

場の空気が和んだのを見て安心したクラウンが仕切り直す。

「それでは改めて!主人公ちゃん、誕生日おめでとーっ!!せーのっ」

フウキのメンバーがバースデーソングを歌いだす。リソルは多分、口パクかな。
歌が終わり拍手の中主人公が蝋燭の火を吹き消す。ケーキとシャイニーメロンを皆で切り分けて食べていると、アイゼルが小さい包みを主人公に渡してきた。包みを開けると、中には花のデザインのブレスレットが入っていた。

「この前の春のイベントで貰ったピアス、可愛いってすごい喜んでたから、それとお揃いのブレスレット作ってみたんだけどよ」

素直に可愛い。アイゼルに笑顔でお礼を言う主人公。
ふと、強い視線を感じ、その方向へ顔を向けると、リソルがこちらを見詰めていた。リソルは何か言いたげにしていたが、主人公は気付かずに、セリクから貰ったチケットをリソルに見せた。

「…何?一緒に行こうって?アンタから誘ってくるなんていい心掛けじゃん。丁度暇だから付き合ってあげるよ」

お祝いが終わると、主人公とリソルはグランゼドーラ王立劇場へ向かった。セリクが招待してくれた座席は、劇場の真ん中より少し前、セリクの真正面だった。演奏前に主人公に気が付いたセリクが主人公に向かって手を振った。主人公もセリクに向かって周囲の迷惑にならないように小さく手を振り返した。

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久し振りに聴くセリクのトゥーラは繊細で、しかし昔聴いた時より遥かに力強かった。リソルは初めてのトゥーラを神妙な面持ちで聴いていた。
演奏が終わり、楽屋に挨拶へ行くと、久し振りのコンサートで疲れているにも関わらず、セリクは笑顔で出迎えてくれた。

「聴きに来てくれてありがとう」

セリクに花束を渡し、握手をした。
楽屋にはセリクの両親もいた。

「主人公さんのおかげでセリクは、再び舞台に立つことが出来ました。主人公さん、本当にありがとうございます」

泣きながら主人公にお礼を言う両親。

劇場を出るとリソルが

「…あのセリクってトゥーラ弾き、アンタが昔助けたの?」

と訊いてきた。頷き軽く説明する主人公。

「…アンタのお人好しさは尊敬に値するよ」

褒めているのか貶しているのか分からないリソル。
コンサートに付き合ってくれてありがとうと言って主人公が帰ろうとしていると

「…オレからの誕生日プレゼント、いらないわけ?」

とリソル。驚く主人公。
だってリソルって魔族だし…。それに今まで二人で誕生日の話すらした事無かったし…。

「…そんな間抜けな顔してないで、いいから着いてきなよ」

早足で歩くリソルを慌てて追いかける主人公。が、リソルが突然止まり、ぶつかる主人公。混乱している主人公をよそにブツブツ呟くリソル。

「…コンサート行ったから時間が遅くなったな…仕方ない」

くるりと主人公の方を向くリソル。

「…アンタ、メガルーラストーンってやつ持ってるんだよね?ちょっと貸して」

訳が分からないままメガルーラストーンをリソルに渡す主人公。リソルがルーラストーンを使うと、二人の身体はグランゼドーラからヴェリナードへ跳んだ。リソルの後を着いて行くと教会に着いた。リソルの姿を見つけて一人の男性が駆け寄ってきた。男性はラッカランのゴーレックに仕えるランディだった。

「おお主人公様。その節は私とマレンの結婚式を手伝ってくださりありがとうございました。さあどうぞこちらに着替えて下さい」

ランディから白いドレスを渡される主人公。よく見ると…ウェディングドレスのようだ。

「…待たせてごめんね、ウルベア銀貨さん」

ウルベア銀貨さん、と呼ばれ苦笑するランディ。ああそうだ、確か彼は1ヶ月の給料がウルベア銀貨1枚…500Gだと言っていた。

「主人公様の為でしたらいくらでも待ちますよ」

まだ状況が理解出来ない主人公にリソルが説明する。

「…魔界にはウェディングドレスなんて無いから、行く前に一度着せてあげたいと思ったんだよね。写真撮る場所探してたらウルベア銀貨さんがここ教えてくれて。主人公の為だって分かったら写真も撮ってくれるって言うからさ」

「リソルさんも着替えて下さい」

「…は?何言ってんの?オレはいいよ。ちょ、そんな事頼んでないでしょ!?」

ランディと神父に連れ去られるリソル。

「主人公さんも着替えましょう」

いつの間にか横にいたシスターに主人公も連れていかれる。慣れた手つきで主人公にドレスを着せていくシスター。純白のドレスに身を包んだ主人公が教会へ戻ると、タキシードを着たリソルの背中が月明かりのステンドグラスに照らされていた。夜の教会は静かで、不思議な緊張感があった。人気が無いのに誰かに見られているような緊張感。それはもしかしたら神様なのだろうか。神様は、勇者の盟友と魔族が結ばれる事を許してくれるだろうか。

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「…どうかしたの?」

いつの間にかリソルが主人公を心配そうに見詰めていた。何でもないと首を横に振る主人公。

「さあ、撮りますよ!」

ランディが二人に声をかける。視線や表情、ポーズの指示を出すランディ。写真なんてリソルはそっぽ向いてそうだなと思っていたが、意外とちゃんとしていた。後で理由を訊いたら「ちゃんと撮らないと余計変な恥ずかしい写真になるから」だそうだ。

無事に写真が撮り終わり、着替えてランディ達にお礼を告げる。いつもほぼ現地解散なのだが、今日は何故か家まで送ると言うリソル。珍しい。

「…やっと二人になれたけど、アンタの誕生日も、もうすぐ終わりか。ドレス、綺麗だった」

照れる主人公をリソルが抱きしめる。

「…誕生日おめでとう、主人公。生まれてきてくれてありがとう」

大袈裟だけど、この言葉が今日1日で貰ったどのプレゼントより嬉しいかもしれない。

リソルの腕の中で主人公は目を閉じて微笑んだ。